第27話『新たなゲームへのプレリュード』 第5節
俺の背後から突然湧いたように現れた、妙に林の中が合う地味な鎧を着たオッサンは陽気な笑いを浮かべていてこっちに話しかけてくる。
「おいおい、どうしたんだ?そんな幽霊を見るような目で見て、俺がなんかしたかい?」
「いやオッサンこそこんなとこで何してんだよ、アルフレードの近くにいなくてもいいのかよ」
「ああ大丈夫大丈夫、あっちにはこわぁ~いお姉さんが付いているからな。俺は散歩でもしてろって言われちまってよ」
「へ~そんなこと言ってオッサン、ボッチで居場所ないから時間つぶしてんじゃないの?」
「ゼンお前言ってくれんな。おれだって超優秀でみんなに頼りにされてるんだぜ。普段は能力を隠して相手が油断させようとしてるだけだぞ」
「ふ~ん、あっそ」
「なんだよ、その気のない返事は!オッサン悲しくて泣いちゃうぞぉ。まぁ、そんなこたぁいいんだ、お前ら放送聞いてたんだろ?アステリ様の話聞かなくていいのかよ」
泣き真似をしてから、今度は打って変わって真面目な顔で俺たちに聞いてくる。
ホントにこのオッサン何もんなんだよ、アルフレードも他の人たちと扱いが違ったしな。
「いや聞こうと思ってるんだが始まる時間訊こうってことになって、メイドさん探してたんだけど見つからなくてよ、オッサンどっかで見たか?」
「いやぁ見てねぇな、だが時間なら俺にだってわかる、太陽みりゃあな。えっとそうだな次の鐘が鳴るまであと鐘半分ってところじゃねぇか?早く戻んねぇと間に合わねぇぞ」
「まじか!おいみんな急いで帰るぞ!ってみんなもう帰り始めてんじゃねぇよ俺を置いていくな!」
俺がオッサンと話しているうちにみんなはさっさっと帰ろうとしていた。
いやもうちょっとぐらい待ってくれてもいいんじゃね。それもこれもオッサンが長話をしたせいだろう。俺はそんな逆恨みの視線をオッサンに送るがオッサンはそんなこと気にせずにみんなの跡を歩いていく。
一番前を歩いているのがルーとアズでなにやらルーと話しながら歩いている、道がわかるのか不安ではあるが、ルーが一緒だから多分大丈夫だろう。
その後に続くようにカズはフラフラとした体を双子に、サラウンドで話されながら体を押されて歩いている。そのカズの頭にはエスリン12が優雅に座っている。
そして何故か俺とオッサンという誰も望んでないような二人組が、最後尾を並んで一緒に歩いている。
「おい、どうしてオッサンもついてくるんだよ。あんたなんか別に用事があんだろ?」
「そんなこと言うなよ、俺とお前の仲だろぉ」
俺とオッサンはどんな仲だっていうんだよ、オッサンと深い仲になんてなりたくねぇぞ。
「なぁゼン、お前は獣人を本当に仲間に入れていいと思ってんのか?」
「オッサンまだそんなこと言ってんのか?ルーはもう俺たちの仲間になってんだよ。他の獣人はどうだか知らないけどルーなら大丈夫だろ?」
「ふ~~ん、まぁもう文句を言うつもりはねぇがな、獣人には気を付けた方がいいぜあいつらは信用ならねぇ」
「それってなんか理由でもあんのか?結構こだわってるけど。」
「……別にねぇさ。ガルド聖王国に住んでるやつで獣人が好きな奴なんて変わり者しかいねぇよ」
オッサンの態度からして昔何かあったのは確かなのだろうが、無理やり聞くのも気が引けるからそのままにしておくか。
そう思っていると、その事についてもう話したくないというようにオッサンは話を変えはじめる。
「お前さんら、いつの間にかアルフレードと仲良くなっていたよな、それにすごい信頼してるみてぇだけどあいつがそんなにいいのかい?」
「ああ?確かに信頼はしてるかもな、というよりも他に信頼できそうな奴はカズとアズを除いたらあんまりいないだけで、その中では信頼できるって感じだと思うけど。それよりもアルフレードってあんたの上司だろ?それにそんな口の利き方でいいのか?」
「ヘッいいのさ、あの甘ちゃんは俺はあんまし好きじゃないからな、それに元は俺はただの傭兵だ。他の連中とは違うのさ」
「甘ちゃんね、でも別に悪い奴じゃないだろ?」
「ああ、悪い奴じゃない。でもああいう善人は悪い奴以上に始末に負えねぇのさ」
そういうとオッサンは1人で歩く速度を速くして先に行ってしまい、俺の疑問は置き去りのままだった。
その後俺たちはなんとか急ぐように足を進め、林を出るころには日が頂点より下に降り始めている頃合いで汗ばむような熱気の中俺たちはルーの先導の下、迷宮角鷲亭に向かった。
とは言っても林から出ると、そこは見渡す限りの草原であり迷うことなどなく。迷宮角鷲亭は遠くから見ると全体的に白く、白亜の神殿といっていいような建物であるため神秘的な雰囲気を漂わせているのがわかった。
近づいていくと建物の大きさがよくわかる。大体高校の校舎と同じくらいだろうか、そんな巨大な建物が草原の中にある姿はこの建物が別の所から飛ばされてきたような、そんな異物感がある。
俺たちは早足で建物に近づいて、建物前にある大きな広場に差し掛かったころに鐘の音が俺たちを急かすようになり始める。ここに来るまでに結構へとへとだったのだが、みんなに急げと俺が言うとみんなは全員全力で入口ホールに走り始める。
入口ホールに俺たちが付いたころにはまだ話は始まっていないようだが、多くの人が集まっていてアステリさんの話を今か今かとぎらつくような目で見ている。
そんな人族、亜人族、その他の種族達でホールは溢れかえっていた。
「な、なんとか……間に合ったぁ」
「ハァハァ……ほんと危なかったわ。でも間に合ってよかったぁ」
そう言って俺とアズが口々に間に合ったことを喜んでいると、1人居ないことにようやく気付く。
「おい、カズがいないみたいだけど、あいつどうしたんだ?」
「カズのあんちゃんなら、途中で僕はもうあかんから置いていって。後から追いかけるから言うとったで」
「まぁしょうがねぇか、あいつ意外と体力ないしな」
俺もここに来るまでカズが自分で言っていたが、カズは結構な運動音痴で徒競走でも最下位争いしていると笑いながら言っていたの思い出す。
あいつホントに大丈夫かな?戻ってみてきた方がいいのだろうか。
そんな風に迷っていると周囲のザワザワとした喧騒は、いつの間にかやんでいることに気付いた。
見ているとホールの上の方に囲むように歩けるほどのスペースがあり、入口の反対側の壁の上にもひときわ大きなバルコニーのように突き出した場所に、機械人形のメイドが12体勢ぞろいしており扇型に並んだその中央に、ウェイトレスの格好をして額に大きな神々しい角を生やしたアステリさんが優雅に立っている。
優美に一礼したアステリさんは大声を出しているわけではないが、ホールに響き渡るような声で話し始めた。
「皆様遅くなってしましましたが一階層クリアおめでとうございます。それではこれより説明を始めさせていただきます。」
そんな風に話はおごそかな雰囲気で始まったのだった。
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