第2話『ようこそ異世界迷宮へ』 第1節
今回は説明回になります。
文章もかなり長くなっていますので宜しくお願い致します。
俺たちはバロールとの契約のため、ゲームをクリアしなければならない。
契約を終えた俺たちはバロールが意味深な言葉を言った後、いつの間にか見知らぬ場所に転移させられていた。
薄暗い闇の中、元いた世界では見たことがないような種族が欲望のためか、使命のためか目を爛々と輝かせて中央を中心に100人近くが円形に立っているのは異様な光景だった。
耳が長く全体にほっそりとしているエルフと思われる種族、そして隣にいる肌が黒いのはダークエルフだろうか、それから背が低くがっちりした体形に無骨な鎧をつけたドワーフと思われる種族、自分たち人の膝上ぐらいしかない小人と思われる種族、首より上が獣だったり爬虫類だったりする種族など様々な種族がいる様でその種族の全てが真剣に中央を見ている。
そして隣には先ほど話しかけてきた中世の騎士の格好をした美丈夫も真剣な表情で中央を睨みながら立っている。
そして全員が見ている中央にはヤギのような二本角を生やし猛禽類の顔を持ち背中には大きな翼を持った、光り輝く像が周りを威圧するように睥睨している。
そして両手には、左手には大きな砂時計、右手には分厚く大きな剣を地面に刺している。左手の砂時計は今でも黄金の砂を上から下にさらさらと落としている。
その像の前には金髪に金の目、それに透き通るような白い肌を持った十台ほどに見えるいまだ幼い容姿をしているが大人の雰囲気を醸し出している美少女が、見たこともないような煌びやかなドレスを纏って微笑んでいた。
そこまでは普通だ、もしかしたら映画にでも出ているかもしれないかというほどの美人というのはあるが、だが最も異様なのは耳の上の方から伸びている羊のように曲がった大きな角が生えていることだった。
「これより説明を始めさせていただきたいと存じます」
今の言葉を聞いた広間にいる全員は話すのをやめ真剣な表情をする。
それを見た美少女は微笑みながら辺りを見渡し、一つうなずくと再び説明を続ける
「それでは改めまして、皆様オルガニア迷宮へようこそ!」
そういうと美少女は優雅なしぐさでスカートを摘み上げて足を交差させるカーテーシの姿勢をとる。
「私の名前はミナスと申します。今回の迷宮の説明役を務めさせていただいております。これから長くなってしまいますが皆様最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。さて、それでは……」
「おいちょっと待てやぁ、おめぇみたいなひょろい女じゃなくもっとえらいやつを呼べや!!」
そういいながら出てきたのは熊みたいな男、ではなくまさに熊が二足歩行して体に鎧を着た獣人だった。
その獣人は他にも仲間が数人いるようだったが他の仲間は止める様子がなく黙ってみている。
相手がどういう立場の人間かわからないのに文句を言うのは馬鹿のすることだと思う、もしかしたらあの獣人の住んでいる所では力で物事の全てを決めているのかもしれない。
熊の獣人はそのままノソノソとミナスの方に近寄っていく。
「申し訳ございません、この場での責任は私がすべて負っております。私があなた方に何かするようなことはございません、最後まで話を聞いていただけるようにお願い申し上げます」
「てめぇのような女の話が聞けるか!俺たちはこんな辺鄙なところまでわざわざ来てやってんだぞもっとまともな奴だしやがれ!!」
そういいながら掴みかかりそうな勢いでミナスに近寄っていく熊の獣人を止めようと近くのドワーフの男やエルフの女性、そして隣の人間の美丈夫が構えた時、ミナスはその緊張感が漂うなかでも特に何でもないかのように動こうとした人たちに視線を送り動くのをやめさせた。
「なめやがって!この……」
そういって熊の獣人はミナスに掴みかかろうとするも、それはできなかった。
ミナスに掴みかかろうとした熊の獣人は突如として消えてしまっていたのだ、見間違いかどこか別の場所にでも行ったのかと周りを見てもどこにもいる様子はない。
他の人々もキョロキョロと見渡していたようだが全員が同じ結論に至ったようだ。
「お見苦しいところをお見せしました。そして今見ていただいた通りこの迷宮内では指定された場所つまりこの神の像がある場所では戦闘は禁止になります。また戦闘でなくても相手を害しようとしたり苦しめたりする行為は禁止になっておりますのでお気を付けください。ただしそれ以外の場所ではこれらのルールは適用されませんしこちらから介入することもございません」
「ちょっと待ってくれませんか?さっきいたグジーの奴はどうしてしまったんですか?」
次に彼女の話に割って入ってきたのは、杖を持って立派なローブを着た狐顔の獣人だった。
さっきの熊の獣人はグジーという名前だったようで狐の獣人の仲間だったのだろう、狐の獣人の仲間と思われる人々は明らかに動揺しているようだった。
「先ほどの方はルールに違反してしまいましたので、消去させていただきました。ルールの説明前でしたので特例で……いえ申し訳ございません私にはそのような権限はございませんので、もし生き返らせたいということであればゲームをクリアしていただければ可能です」
「そんな……」
「申し訳ございませんが、一切反論は認められておりません。これより説明を再開しますが、これより説明を妨げた場合、一定のペナルティがございますのでお気を付けください。説明の円滑な進行にご協力お願いいたします」
そう言ったミナスの顔は微笑を浮かべた優しいものだったが、発する言葉には優しさや思いやりなどはなく機械が話しているような印象を与えた。
その言葉を聞いた狐の獣人は悔しそうに歯を噛みしめながら、あきらめたように顔を伏せた。
「それでは説明が前後してしまいますが、クリア後の報酬について説明させていただきます。基本的に1パーティーにつき3つまで願いを叶える権利がございます。ただし願いの大きさには許容量がございます、その許容量は階層をクリアしたときに与えられるDPとTPの合計値によって決まります。願いについてそれぞれポイントが決まっていますが、それなどにつきましてはこれよりの一層をクリアした方のみ、中間層にて詳しくお教えいたしますのであらかじめご容赦ください。」
先ほどからの説明を聞いて、やはりどこかのテーマパークのアトラクションにでも迷い込んだかのような印象を受ける。それにチームで戦ったり、ポイントを稼いだりはまるでゲームようでなじみ深いものの、実際にその中に自分たちが入って参加することは一筋縄ではいかないような感じがする。
「そして今回の迷宮の参加資格は、皆様が命を賭ける事です」
そうミナスが言ったことでその広場にいた数人の者がざわざわと騒ぎ出す。
だが多くの者が冷静にミナスの話に耳を傾けている、それもそうだろう願いが叶うといった希望があるのだ、それ相応の絶望があるのは当たり前だろう。
それでも頭で納得できていても、やはり死は怖い、一度化物に殺されて死んでしまってはいるがそんなことでは死の恐怖は薄れたりなんかしなかった。その証拠に俺の足は先ほどから震え続けている。
「そして賭けた命を返還されるのはクリアした1パーティーのみになります。残念ながら他のパーティーの方々の全ての命は運営側が総取りになります。なお例外として勝ち残ったパーティーの方がゲーム中に死亡した他パーティーの蘇生は可能になります」
そんな事は慰めにも何もならない、困難なゲームを勝ち抜いた先で三つしかない望みを叶える権利をそんなことに使う奴なんかいないだろう。
「そういったリスクを踏まえまして、皆様にはこちらの砂時計の砂がすべて落ち切るまでの間、今回の迷宮を辞退する権利がございます。辞退したい方はこちらの神の像の前に立ち『辞退したい』と一言申し上げてください。また辞退せずに参加する方は砂時計の砂が落ち切るまでに、皆様方の後ろの壁にある扉の中にお入りください」
そう言いながらミナスは右手を上げて壁の方を指し示す。
ミナスの話や周りの亜人や獣人の事を気にしていて、壁の方を見ていなかった事に気付きすぐに振り向くとそこには同じような色の鉄の扉が壁一面につき五枚ほど並んでいる。
確かに他の事に気を取られていたりしたが、こんなに扉があればすぐに気づくだろう、ということは今突然現れたのかもしれないそのぐらいの不思議なことは十分ありうる。
この場所ではそんなことは当たり前であるとそんな雰囲気が満ちている。
「辞退もされずに、参加もされない方は強制的に不戦敗になり消去されますのでご注意ください。」
そういった顔は冷たく微笑んでいて、見る者の心を冷たく握りしめていた。
「さてそれではこれからは質疑応答に移りたいと思います。質問のある方は挙手をお願いいたします。」
ミナスがそう言うとすぐに多くの人々が手を上げる。
その中でどうやって選んだのかエルフの男をミナスはさししめした。
「それではそちらのエルフの方、発言をどうぞ」
「ありがとうございます。私はマギア共和国より参りました、アルゴスと申します。それでは質問ですが、この迷宮は何階層あるのでしょうか?」
「その質問にはお答えできません、階層数を言うことによってゲームの内容を予測できる可能性をなくすため、そういった質問にはお答えする権限がございません」
「それでは1階層ごとに1つのゲームがあるという考えでよろしのでしょうか?」
「はい、1つの階層に原則としてゲームは1つです。ただし運営の都合上増加する可能性はございます」
「それではこの階層の事ですが、見た感じでは20の扉があるかと思われますが、それはパーティーの1つにつき1枚ということでよろしいでしょうか?今我々は100人以上おります、もし一人が一つ使った場合入れないものがいると思いますが?」
「その心配はございません、扉の先は空間がねじれているため扉を閉めた時には別の空間に移動しています。そのため扉を閉めるまでに入った者が1パーティーになります。また差し出がましいようですが少人数でのパーティーは推奨できません」
「ほう、それはなぜでしょうか?最終的に叶えられる願いが3つであるならば人数が少ない方がいいのではありませんか?」
確かに考えが合わない人たちと最後までいった場合、何を叶えるかで揉めて最悪殺し合いになることだってあり得るんだ。先ほどまでの説明でここまで考えられるとは、エルフはゲームや小説なんかのようにとても頭がいい種族のようだ。
「詳しくは申し上げられませんが、少人数の方々はこれからのゲームで必ず不利になります。この迷宮は知識や力、精神などを試される場です。それらを兼ね備えていると自分で思われてる方は少人数で参加されてもいいかと思いますが、なぜ運営側が扉を20しか用意しなかった理由をお考え下さい」
今現在俺たちはカズとアズと俺合わせて3人しかいない、しかも俺たちはどうあがいてもただの高校生だバロールが最後になにか言ってたがそれよりも一緒に行ってくれるような仲間を見つけるべきだろう、そう例えば隣の金髪イケメンのような。
「それでは他の方は何かございますが?」
ミナスがそういうと隣の金髪イケメンはスッと手を上げる、他が誰も手を上げなかったこともありミナスはすぐにその挙げた手に気付いた。
「はい、ではそこの人族のあなた。発言をどうぞ」
「私はガルド聖王国の騎士、アルフレード・デ・シルヴァと申します」
それから数秒だろうか一瞬ではあるだろうが、静まり返った部屋のせいだろうものすごく長く感じられた。
「不老不死になることはできますか?」
ちらりと覗き見たその男の顔は暗くてよく見えなかったが、何かの決意の光のようなものがうっすら見えた瞳から感じられた。
「それは申し上げられません、しかしその答えはこの階層をクリアすれば得られるでしょう」
「わかりました」
そういうとアルフレードは右腕を前にして優雅にお意義をする。
「それではもうご質問もなさそうですので、これで質疑応答を終わらせていただきます。最後に……」
そういったミナスはスカートをつまみ、最初と同じカーテーシでお辞儀を行う。
「皆様の健闘をお祈りしております。どうぞ良きゲームを……」
そういった彼女は背景に解ける様に消えていった。




