第26話『新たなゲームへのプレリュード』 第4節
俺たちは勇ましく堂々とあるいは颯爽と部屋を出たのはいいのだが……。
いつの間にやら俺たちは路頭に迷っていた。
最初は良かったのだ、機械人形のメイドさんを探して、ああでもないこうでもないと俺やアズそれから双子が喧嘩をしながらも、知っている場所を歩き回っているまでは楽しいものだった。
しかしアズと双子が外に出ようと言い出してからが大変だった。
外に出た途端にルーが走り出し俺たちはそれを追いかける羽目になった、ルーは思った以上に走るのが早くなんとか遠くにある背中を追いかけるのがやっとだった。
ルーが立ち止まったのは5分ほど走った後の事だ。
そこは周囲が木々に覆われているが、程よく木々の間隔がとれているため木漏れ日が温かく辺りを照らしていて、気持ちよくなるような小さな林の中だった。
俺達はへとへとになっていたが何とか追いくことができた。でも一番意外だったのが双子が息も切らさずにすぐに追いついたことだった。そして俺の横をエスリンがパタパタと飛び、俺のちょっと後ろをアズが走ってくる。そして最後にフラフラとよろめきながら、ほぼ死に体のカズがやってきていた。
「あんちゃんらまったく体力あらへんなぁ、アタシらより足遅いとか致命的やで」
「ほんまやほんまや、もっと気張らんとあかんでぇ」
そういってケラケラ笑っているが、こっちはもうフラフラだ。
俺は一応元バスケ部であるもののちゃんと練習してなかったし、ブランクもかなりながい。
はぁもっと体鍛えておくべきだった、と今更になってそう思う。
「いやホントお前ら体力あるよな、びっくりしたわ。その小さい体にどこにそんな力があるのやら」
「こんくらい基本や、薪木集めならだれにも負けへんわ」
そう言いながら腰に手を当てて胸を張る。
まるでエヘンとでも言わんかのようなその態度に苦笑してしまうが、ハーフリングの小柄で小回りが利き運動能力が高い能力は、もしかしたらこの後のゲームで何かしら役に立つかもしれない、そんな愚にもつかない考えが頭をよぎる。
そんな事を考えているとアズはルーの事が心配だったのだろう、近づいて話をしている。
「ルー?どうかしたの、いきなり走って?」
「ゴメン……なさい、なにか懐かしい……匂いがして」
「もう、心配するから勝手に走ってどっかにいかない事!いいわね!」
「うん、わかったの。えへへ……ありがとうアズ」
そう言って照れたように笑うルーをアズはまた可愛いなこいつめといいながら、頭を撫でまわしている。そんなことする前に聞かなきゃいけないことがあると思うんだが。
「なぁルーここで立ち止まったってここに何かあるって事なんだろ?」
「うん、アレを……見てほしいの」
そう言って指さした先には立派な石柱が立っている、エジプトとかでオベリスクと呼ばれる柱に似ている気がするけどそれよりは小さく、表面にびっしりと文字が書いてある。
「なんだこれ、よくこんなものがあるってわかったな」
「ううん違うよ。あそこの……木の上だよ」
木の上?言われたとおりに俺は上を見上げると、石柱よりも背の高い大きな大樹の枝の所々にまん丸なぼんぼりみたいな緑がくっついているのがわかった。
「ああ、あれってもしかしてヤドリギじゃないかな?」
「知っているのかカズ?」
「え?あ、うん。詳しくは知らないけど、広葉樹とかに寄生して養分をもらって生きる植物だったはずだよ」
「そういや名前だけは聞いたことあるな、主にゲームだが」
「オイオイ、てめぇらヤドリギも知らねぇのかよ。ドルイドにとってヤドリギが寄生している木は聖なる木なんだぜぇ。それを感覚で探せるってぇことは、あの獣女はいいドルイドなのかも知んねぇぞ」
確かに感覚的なものかなんなのかわからないが、遠く離れた迷宮角鷲亭からここを見つけるのは並大抵のことではないだろう。
これはすごい戦力なのかもしれない、そう思いルーのいた方に目を向けるのだがすでにそこにすがたはない。
「ちょ、ちょっと危ないんじゃないの?降りてきた方がいいって」
そうアズは悲鳴を上げる様にルーに呼び掛けるが、ルーは真剣そのものでヤドリギのついた木によじ登っている。その身軽な動きは先ほどのオドオドとした弱気な少女とは思えないような素早い動きで感心してしまう。
「いやぁ、ルーって意外と木登り上手いんだなぁ」
「ちょっと感心してんじゃないわよ。ねぇルー大丈夫なの?」
「大丈夫、平気……なの。司祭様にちゃんと教わった……から」
そう言いながらローブの中に手を差し込むと、革の鞘が付いたナイフのような物を取り出すと鞘を取り外し、黄色に輝く刀身で手早くヤドリギを切り始める。そしてもう少しで切り離せるという時に手を止めてこちらに声を掛けてくる。
「ごめんなさい、誰か下でヤドリギを受け止めてほしいの……」
「はいはいはい、うちがしたげるよ」
「うちもしたげるよぉ」
「しゃあねぇな、俺様も協力してやるぜぇ」
そう言いながら双子と、いつの間にか出てきていたエスリン12の三人はルーの真下に移動する。それを見計らってルーはヤドリギを切り離しそれを受け止めようと動いた。
しかしヤドリギの大きさは意外と大きかったために双子の視界を覆ってしまうほどで何とか受け止めたようだが、エスリン12はヤドリギの中にすっぽりと入ってしまっていた。
「オイ、前が見えねぇぞそれに抜け出せねぇ、何とかしやがれてめぇら!!」
そう言いながら暴れるので、ヤドリギがまるで生きているようにバサバサと動く。
「木のお化けや~~
」
「お化けが出たで~~」
「俺様はお化けなんかじゃねぇ、いいから早くここから出しやがれぇ」
「わかったから、落ち着け!じっとしてろよ今出してやるから」
「オイッ、早くしてくれこの中ぁチクチクしていてぇんだよ!」
そう言いながらエスリン12はまだがさがさと揺さぶっているが、少し落ち着いてきたのかおとなしくなっている。俺はヤドリギの中に手を入れ、エスリン12を引っ張りだそうと手をヤドリギの中に入れる。
少し手を入れたところで、何かぷにっとしているが適度に反発がある柔らかいものを触った気配があった。
「おい何しやがるッ!!てめぇ変なとこ触ってんじゃねぇぞ!!」
「いやだってお前、こっちはお前の姿が見えねぇんだから、しょうがねぇじゃねぇか!」
「だからってだなぁ、お、俺様のむ、胸をって何言わせやがんだぁ!この変態野郎がぁ!!!」
「ごめんって、痛ったぁ!!噛むんじゃねぇよ、こっちは助けてやってんだぞ!」
その事の同意を得る様にあたりを見まわしたのだが、女子全員特にアズが俺を蔑むような眼で見ていた。
いやいやおかしいだろ、俺は助けろって言うから助けようとしただけなのになんでこんな目に合うかなぁ。
その後俺はエスリン12に罵られながらも救出に成功する。
ただし、女性全員からの信頼と好感度を犠牲にして……。
「テメェ、後で……覚えてろよ、妖精族に悪戯した奴は初めてだぜぇ。フフフハハハハハ面白れぇテメェにはこのエスリン12様を貶めたことを後悔させてやるぜぇ」
「いやほんと謝るので、許していただけませんかね。なんなら貢物を用意いたしますので、この通りですので何卒ご容赦を」
そう言って俺は日本伝統の謝罪スタイル、ドゲザを披露する。
異世界でもここまで徹底した土下座をした奴は初めてだろう、すなわち俺は異世界での土下座の発明者となったわけだ。うん、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
「あんちゃん、頭低すぎやろ。アタシ達までかなしぃなってくるわぁ」
「あんちゃん惨めすぎやなぁ」
何とでもいえばいい、臆病者の俺は相手との関係を良好にするためなら手段をいとわないぜ。
「ゼンあんたって奴はどこまで残念なのよ」
「僕はゼンらしくていいと思うけどね」
なんだお前らのその反応は、友達が困ってるのにちょっとくらい一緒に謝ってくれてもいいじゃないか。
「ヘッ、貢物次第で考えてやってもいいがなぁ、別に許してやるってわけじゃねぇんだぜ。テメェが哀れすぎるからまぁ少しぐらいなら容赦してやろうかって話だぜぇ。勘違いすんなよ!」
今の反応を見るの意外と許してくれそうな感じになっている、案外ちょろい妖精だ。それともこれがドゲザの威力なのだろうか?
そんな感じで無駄に時間を使っていると、俺の背後の方から聞いたことがある野太い声がする。
「おいってお前らかこんなところでどうしたんだよ、道にでも迷ったのか?それにゼンお前そんな恰好でなにやってんだよ」
俺が驚いて振り向くと、オッサンことロドリゴが陽気そうに笑ってこちらを見ていた。
読んでいただきありがとうございます。
なんか寄り道しすぎて全然本筋にたどり着けませんが、なんとか後数話でいきたいと思います。
辛抱強くお付き合いいただければありがたいです。




