第23話『新たなゲームへのプレリュード』 第1節
緑色のローブを着た日本でいう中学生ぐらいに見える少女は、全員が見ていることに緊張したのか腰は引けて手は握りしめすぎて白くなっており、眼はオドオドと動いている。
そしてやはり気になるのが頭についている耳だ。
髪の毛の色と同じ毛の生えた栗色の三角耳が、少女の警戒心を表すようにぴくぴくと動いている。
やっぱり獣人と言えばこの姿だよなと、そんな関係のないことを考える。
最初の神像があった部屋でも熊の獣人がいたけど、あれはもうほとんど熊といってよかったと思う。だけど目の前の少女はほとんど人間で、見える部分だと耳だけしか獣人と呼べる特徴はない。
そんな風にみんなでじろじろ見るために、ますます獣人の少女は縮こまってしまっている。
それを見かねてかアズが近づいて何か話しかけるとよしよしと頭を撫でている。いつの間に仲良くなっていたのかわからないが獣人の少女は嫌そうなそぶりはせずに、されるがままにされている。
なんとか平静を取り戻した少女は、アズを壁にしてその脇からこっちを見ている。
そういえば俺だけが彼女と面識がないのだ、俺への視線が特に強い。それを察したのかアズが獣人の少女に話しかける。
「ああ、そういえばあいつを見るのは初めてだったか、大丈夫あいつは顔もキモいし弱虫で周りに気を遣ってばっかりのどうしようもない奴だけど、悪い奴じゃないわよ。そうよね?」
「オイ!なんで俺の悪口言いながらその答えを俺に聞こうとするんだよ!!」
「ひぃ、ごめん……なさい、私は食べても……おいしくないです。助けてくださぃ」
「ちょっとルーがおびえてるじゃない、いやらしい目つきでみるなこのロリコン野郎!!」
「おい!変なこと言いだすな、どうしてこの話の流れで俺がロリコン野郎になんだよ、絶対おかしいからそれ!!」
俺とアズの際限ない罵り合いを見かねてか、割り込むようにアルフレードは声を掛けてくる。
「あ~痴話げんかしているところ申し訳ないんだけど、話を進めさせてもらってもいいかな?」
「はい!アルフレード様、お願いします!!でも痴話げんかじゃないんですよ」
「お前……、俺と態度違いすぎんだろぉ。やっぱり」
そう言ってみるものの、アズはこちらを一瞥もしやがらない。何だってんだ全く。
「それじゃあすまないが獣人の少女ルー、君の自己紹介をしてもらってもいいかな?」
その呼びかけにどうしたらいいかわからないのか、アズの方を仰ぎ見るとアズは母親のように優しい声で大丈夫だよと励まし、それで踏ん切りがついたのか獣人の少女はオドオドと話し始める。
「あの……えっと、ボクの名前はルーっていいまう、……えっと半分獣人で……半分人間です。よりょしく……おねがいします」
そんな風に噛み噛みながら挨拶をした獣人のルーは、すぐにまたアズの後ろに隠れてしまう。
アズの影から右目と右耳だけがひょっこりのぞいていて、そこが誰しもの保護欲を沸かせるのだろう周囲を見ると全員がやさしい目で少女を見守っているがわかる。
「そうつまりは彼女は半獣半人なわけなんだが、彼女も我々のパーティーに入ってもらうことになった」
「ちょ、ちょっと待てくださいよ。別に反対するとかじゃないんだけど、全く話が見えてこないですけど!!どこをどうして仲間にすることになったのか説明してほしいんですけど!?」
「隊長、さすがに説明不足すぎます。話を聞いていた私たちもそれでは納得できかねます」
イザベラさんの容赦ないツッコミにアルフレードは申し訳なさそうに頭をかいている、流石に自分でも説明が足りな過ぎたと思っているようだった。
「あ~すまない、説明不足だったようだな。まずルー君と出会った時の事からの方がいいだろうね。それじゃあアズサ君、説明を頼めるかな?」
「はい!アルフレード様!ちょっとゼン、あんたのために話してやるんだからちゃんと聞きなさいよね!」
「お、おう。……なぁカズあいつって昔からあんな感じなのか?別人すぎるだろ」
「あれは子供の頃からだよ、小学校に来ていたイケメンの教育実習生にもあんな感じだった」
「そんな小さいころからかよ、これは将来ヒモ男の嫁になるフラグ立ってんな」
「ちょっと!ごちゃごちゃうるさいわよ、今から話すんだから静かに聞きなさいよ!」
そう言ってアズは俺とカズを半眼で睨んでくる。
怖いよこの人、ほら後ろにいるルーもおびえてるじゃねぇか。
そんなこんなでアズの話が始まったのだが、説明が下手すぎて所々よくわからなかったが要約すると。
ゲームをクリアしてアステリさんから治療してもらって用意されている部屋に向かう時、なんとなく周囲を散歩がてら歩いていたら、殴られているルーを発見。何とか助けようとするも聞いてもらえず、襲い掛かられそうなときに獣人の親玉みたいなのが出てきて、そのまま事態は収拾。ケガをしていたルーをそのまま連れて帰ってきたらしい。
まぁアズらしいちゃらしいんだが、お前は浦島太郎かと突っ込むのをすんでのところで抑えた。
「まぁ今の話で何となく話は分かったんだが、でも大丈夫なのかその子すげぇおびえてるみたいだけど?」
「大丈夫よ、こう見えてこの子優秀な、どるいど?とかって奴だし、私と二人っきりだとすごい元気なんだから。ね~ルー?」
「はい……です。ボク一応……ドルイドの力が使えます。絶対アズサお姉ちゃんの力になりますぅ!」
「そ、そうか頑張れよ。アルフレード達はルーをパーティーに入れるのに賛成ってことでいいのでしょうか?」
俺のその問いかけにアルフレードは自信満々に答える。
「ああ、私は賛成している。人族ではドルイドの適性を持ってる者は稀有だ。そんな人物が仲間になってくれるのであれば、私は歓迎したいと思っている」
「アルフレード隊長が決定されたことです。こちらは何も異議などあるはずが……」
「ちょっと待ってくれねぇか?」
イザベラさんの賛成の表明に割って入ったのは、先ほどまで自分は関係ないとばかりに近くの壁に寄りかかって詰まらそうにこちらを眺めていた、1人だけ浮いている騎士だった。
「アルフレードさんよぉ、ほんとにそれでいいのかい?獣人なんかを仲間に入れて?そんなことでこの迷宮をクリアできるんですかねぇ」
「ロドリゴ!!貴様隊長に向かってその口の利き方は何だ!!お前は今はあくまでアルフレード様の部下なんだぞ、隊長の命令は絶対だ、これは軍規で決められていることだぞ!!」
オッサンもといロドリゴのアルフレードに異議を唱えるような発言に、今までの沈着冷静な仮面は剥がれ初めて出たイザベラさんが感情をあらわにした瞬間だった。
「へいへい、すいませんね。ただねこれだけは言っときますけど獣人だけは信じちゃいけねぇと思いますがね。そうでしょうアルフレード王子様」
その発言で場が凍り付くのを感じる、俺達三人は唖然としてみてることしかできないが、その場にいる騎士全員がロドリゴに向かって殺気を放っているのが何となくわかった。
そしてイザベラさんが剣を抜こうと手を掛けたところでアルフレードの怒号が響き渡った。
「総員絶対命令である!即時敵対行動を中止せよ!!」
その声を聴いた騎士たち全員が姿勢を正し、アルフレードを注視する。ロドリゴのオッサンも嫌々ながらもちゃんと命令に従っているようだった。
そして俺たちとハーフリングたちは訳が分からず、唖然としたままだった。
「総員傾注!!騎士ロドリゴの行いは厳罰に値するが、現在はそのような時ではない以後の私刑などの行いも禁止する!!よいなっっ!!!」
「「「「はっ!!!」」」
「騎士ロドリゴ、貴殿も今の状況はわかっているだろう?」
「はっ、失礼いたしました。つい獣人のことで我を忘れてしまいました」
「諸君らの気持ちもわかる、しかし現在は戦力の不足が目下の課題だ。今は過去の禍根を忘れ、獣人の少女の手を借りることにする。異議はあるか?……無いようだな、ではこれ以降の争いは禁止とする」
「「「はっっ!!ガルド聖王国に、女神ヴィレスの栄光あれ!!」」」
今の訓練された何かを見せつけられた俺たちは茫然としていたが、アルフレード達はさっきの元の雰囲気に戻っている。恐ろしく速い切り替えの早さだ。……なんだこいつら。アルフレードって王子なのか?確かに外見でいったらまさに王子様だが。
そんな事を考えていると、照れているような恥じているようなそんな微笑みを浮かべながらアルフレードがこちらに話を振ってくる。
「待たせてすまなかったね、それでどこまで話したのだったかな?」
そんな気の抜けたことを言うものだから、俺は言わずにいられなかった。
「さっきのあんなもん見せられて、普通にで話しなんてできるかっっ!!!!」
そんな俺のツッコミが部屋中に響き渡り、そのまま虚空に消えていった。
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