第22話『後悔と戸惑い、そして』 第6節
俺たちを取り囲んでいる人垣の中から、それを押しおけながらカズとアズがこちらにやってくるのが見える。
アズは先ほど治療室で見た青白い顔とは別人のように、血色のいい顔をしているというかいつも以上に元気そうに人々を押したり蹴とばしたりしながら歩いてくる。
そして開口一番言ったのがこれだ。
「ちょっとゼン!!あんた勝手にに動き回んないでよ、探し回るのはこっちなんだからね!」
元気になった途端にこれだと苦笑いが出てくるが、なんだかホッとするような嬉しさがあるのも事実だった。
「ちょっと聞いてんの?」
「ああ聞いてるよ、悪かったよ。色々あったんだよ……」
俺はそう言いながらカズの方を見ると、カズは居心地が悪そうに肩をすくめるだけだ。
普段なら喧嘩した時など、居心地が悪いのが嫌な俺がすぐに謝りに行くのだが、謝って仲直りしてしまえば能力の代償の事を言わなければならない。そして要らぬことまで二人がしょい込んでしまうんじゃないかという思いが、俺の口を重くしていた。
「そっか、カズから聞いたんだけどさ、あんたたち喧嘩してるんだってね。いいから早く謝っちゃいなさいよ、私が仲たがいさせてあげるから」
「いやいやいや、それって一層仲悪くするってことだからね!?」
「し、知ってるわよ。そんな事!ただの可愛いあずさジョークじゃない、スルーしなさいよ!」
なんだよあずさジョークって初めて聞いたわ。しかも自分で可愛いとかいってるし。
まぁそれでも仲直りしなきゃいけないってのはアズが完全に正しい、俺もそう思っていたんだがアズの言葉、エスリンの励まし、ハーフリングたちの歌と踊り、アルフレードの真摯さに背中を押された気がする。まぁ気のせいかもしれないが。
「えっとカズ、あのさ……、ほんっとにごめん、あの時はなんかカッとして言っちゃいけないことまで言ってしまって、それで……。とにかくゴメン!!」
それで俺はまた頭を下げる。考えてみれば頭を下げてばかりだな俺、まぁ頭を下げて済むなら安いもんなのかもなぁ。
「そんな……謝らないでよゼン。僕の方も悪かったんだから、僕もやらなくてもいい喧嘩をしようとしてしまって、それでアズが倒れてしまったんだから。ゼンの言ったことは正しいよ、僕の身勝手でみんなが危険な目にあったのは間違いないんだから」
「ああ、その事については俺も本気で怒ってる、あそこであんなことはいう必要がなかったと今でも思ってる。それでも俺は言ってはいけないことを言ったと思ってるんだ」
「うん、それじゃあこれであいこだね」
「ああそうだな、これで貸し借りなし負い目もなし、哀れみも全部なし!もう後悔しないし戸惑いもしない俺はお前と今まで通り、いや今まで以上に一緒にしっかり話そうぜ!それでこの事は全部帳消しだ」
「うん、そうだね。もっとみんなとちゃんと話すべきだった。これからはちゃんと話すよ」
そう言いながら俺たち二人は笑い合う、さっきまでの気まずい雰囲気などなかったかのように。
そんなこっぱずかしい青春模様はやっている本人だけじゃなく、周りの人々を赤面させるには十分なものだったらしい。
「オホン、ゼン君、カズト君、話は終わりでいいのかな?申し訳ないのだけど、こちらから話さなくてはいけないこともあるのだが」
「へ?ああ、大丈夫ですけど……。ってなんでお前ら涙目なんだよ」
「泣いてなんかないわよ、これは心の汗よ」
お前はどこのジャイアンだよ。
「いやぁ~ええ話や。ワイもええ齢やから涙が止まらんわ~ええ話やぁ~」
「「ええ話やぁ~」」
ハーフリングのバイロンとメアリー、エミリーも今の話のどこがよかったのか泣き真似でからかってくる、。ホント恥ずかしいのでもうやめてくれない?
周りにいた人たちも先ほどまでより人数は少なくなっているものの、その大半が多かれ少なかれ赤面したりしている。
なんだこれ、穴があったら入りたいとはまさに今の状況の事だ。別に穴じゃなくてもいいから袋でもいいから今すぐ欲しいと切実に思う。
そうして俺たちが恥ずかしさともどかしさにもんどりうっていると、別の所から聞き覚えのある声がする。
「何なのですかこの人込みは!隊長!探しましたよ、こんなところで何をしておられるのですか?」
「ああイザベラくんか。すまないなゼン君たちとあのことについて話し合おうと思っていたんだが、いつの間にやらこんなことになってしまっていたんだよ」
そう言いながらアルフレードは肩をすくめてため息をつく。
その様子を見ていたイザベラさんは呆れたような、諦めたような顔をしたのち再びアルフレードを睨む。
そこでふとイザベラさんの後ろにいる一人の人物に気が付く、その人物は小柄で頭からすっぽりと緑のローブをまとい、性別の区別すらつかない。
そんな緑ローブが俺の方、正確に言えば俺の肩のエスリン12の方を見た気がしたが、すぐに視線をそらした。
「それは必要かもしれません、ですがこのような人が多い場所でしていい話ではないと思います。この後ろの方についてのお話もありますし」
「ああ、そうだったその事についても彼らに話さないといけないだろうね、それでは我がパーティーの皆さん、場所を変えて話したいと思うんだがよろしいですか?」
その問いにハーフリング達は元気に答え、アズはカッコいいと呟きながら惚けた顔でうなずいており、俺とカズも異論はなかったので大丈夫と答えた。そしてエスリン12はメンドクサそうだから俺様眠るといって姿を消してしまっていた。
そのまま俺たちはイザベラさんの先導でひと気の少ないところに向かった、そうしている時にもイザベラさんの後ろにはぴったりとくっつくように緑のローブが歩いている。
ホントに何者なのだろうかと、じっと見ていたのだがそれを何と勘違いしたのかアズが辞めなさいよと説教じみたことを言ってくる。
そして着いたのは豪華な長テーブルと、それを豪華な椅子が囲むように置いてあり壁などにも様々な装飾が施されている談話室と呼ぶにふさわしい部屋だった。そこには待ち構える様に2名の騎士と、その騎士たちとは明らかに違う格好のロドリゴのオッサンが壁の近くに立っていた。
これで協力関係にあるパーティーメンバーがそろったと思ったのだが、なぜか人数が少ないように思った。
「この部屋はアステリ様より貸し与えられている部屋です。ここでは周りの眼もありませんので大丈夫でしょう。それでは隊長お願いいたします」
「ああ、ありがとう副隊長。それではみなさん集まっていただきありがとう、それでまずは我々の状況の確認をしていきたいと思う。まずは……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!その緑のローブの奴は誰なんです?そんな奴前はいなかったはずだよな?そんなのが内輪の会議に出ててもいいんですか?」
俺はたまらずに何も説明がないままの状況につっこんだ、俺以外はさほど気にしていないような感じなのでもしかしたら俺が寝ているうちに何があったのかもわからないが、置いてきぼりにされてるのはなんか嫌だ。
「ああ、済まなかった君は寝ていたのを忘れていた。彼女はこれから我々のパーティーに協力してもらおうとしている人物なんだ。君、済まないがフードを外してくれないか?」
「はいっっ!!す……すいません、今外します。ほんと……に……すいません!」
そう言って緑のローブのフードを外すと栗色の大きな瞳は涙で揺らめき、栗色の長い髪は後ろで編まれて風に揺れている。その少女はこちらにおびえる様に身をすくませて、両手にもった杖を胸の前できつく握りしめていて、その事が彼女の性格を如実に表しているようだった。
そして彼女の最も気持ちを表しているのが頭の上にちょこんとのっている、獣のような耳だった。
その栗色の耳はおびえる様にぺったりと倒れこんでいた。
読んでいただきありがとうございます。
登場人物がかなり多くなっている気がしますので、後で登場人物紹介を投稿するかもしれません。




