第20話『後悔と戸惑い、そして』 第4節
俺がアルフレードが戻ってくるかもしれないと思い、色々な種族で賑わっている酒場スペースの席で座っていると話しかけてきたのはハーフリングの3人だった。
はぁめんどくさい奴らに見つかってしまったとそんな考えが浮かんでくる。
バイロンは筋肉質で関西弁で、なんかよくわからんけどむさくるしい、双子のメアリーとエミリーは小学生ぐらいの背の高さで笑顔が可愛らしいが、いきなり漫才をかましてくるようなノリに俺はついていけそうにない。
そんな事を思い怪訝な顔をしている俺に、バイロン達はそんなこと全く気にせずに話しかけてくる。
「いやぁ~ほんまさっきのゲームでは死にかけたわぁ、息が出来んのやもんこれは死んだと確信したわ」
「「確信したわぁ」」
「いやぁ~でも助かったわぁ、それにしても兄ちゃん力持ちやなぁもしかしてあんちゃんトロールとか親戚におらへん?」
「「おらへん?」」
さっきからバイロンは俺の左腕を叩きながらニコニコと話しかけてきて、それに相槌を打つようにはハモリながら双子が話しかけてくる。
「いねぇよから!俺の親せきにトロールなんて、まぁうちの母さんは体形はトロールみたいなもんだが」
「「あんちゃんの母ちゃんトロール女!!」」
「いや確かにそんな風なこと言ったけど、俺の母さんトロールじゃねぇから!それに他人に言われるとなんか腹立つわ」
「あんちゃん勘弁したってや、この子らまだ20歳でまだまだ世間様の事よう知らんのや」
「20歳!?年上じゃねぇか!!」
「あんちゃんハーフリングはな人間の2倍近く生きられるんや、せやから20歳は人間にしてみれば10歳ぐらいなもんや。」
まぁ確かに20歳といわれるより、10歳ぐらいといわれた方が納得がいく。
それでも俺より長く生きてきてこれかよと思わないでもない。
そうしていると双子の一人、俺にはどちらがどちらかはわからないがギターみたいなものを背負っている方が近づいてくる。
「あんちゃん、あんちゃんってアタシ立ちより年下なん?」
「うん、まぁそうだな。俺は17歳だしな」
「なんや、年下かいなほなアタシの事はエミリー先輩やで」
「そうですね、エミリー先輩。ってなんで俺がお前を先輩呼びしなきゃなんねぇんだよ!」
そういうと双子は爆笑して腹を抱えて笑っている、つられてか肩にいるエスリン12もケタケタと笑っている。
何が面白かったか分からない俺は、微妙な顔でその様子を見ているしかない。
笑い終わると双子は再び話しかけてくる。
「すんまへん冗談やさかい気にしないでんか?この子の冗談みたいな顔に免じて許したってや」
「誰が冗談みたいな顔やねん、こんなかわいい顔に向かって!!」
「可愛いってだれがやねん、ブッ細工な顔して!」
「お前かてそうやないか。って私ら……」
「「おんなし顔やないかっ!!!」」
その漫才が終わった後、瞳をウルウルうるませてこちらをじっと見つめてくる。
うん、面白かった、面白かったからその顔やめてくれ罪悪感に苛まれる。
そんな様子を見かねてか、バイロンが申し訳なさそうに話しかけてくる。
「ほんますんまへん、ハーフリング族、特にワシら村は歌と踊り、それにボケとツッコミをこよなく愛してまんのや」
「愛してるというよりもほとんど病気な気がするけどな、それにしてもお前ら他の人と言葉が違うって言われない?俺たちの所では関西弁って呼んでるんだけど」
「カンサイベンってなんですのん?ワシらのは由緒正しきハーフリング語やで、ワシらはハーフリング語に誇りをもってまんねんで」
そう言ってバイロンはどや顔をしながらこっちを見てくる。
途轍もなくどうでもいいのだけど、まだまだ聞きたいことがあるから黙っておこう。
「うん?じゃあなんで人族のアルフレード達と言葉が通じてんだ?人族とハーフリング族じゃ言葉が違うんだろ?」
「なんやそんな事も知らんと、こんなとこ来たんか?」
「ああまぁな、すかした色白野郎に無理やり連れてこられたからなぁ、ここの事は何にも知らねぇんだよ」
「オイ!バロール様への暴言は許さねぇぞ!このくそ野郎!!」
バイロンと話していたのに、肩にいるエスリン12が体が小さいくせにものすごく大きな声で俺の耳元で怒鳴ってくる。
そのせいで少し耳がキーンとなりつつ俺は顔をしかめる。
「うん、わかった。ほんとすいませんごめんなさい。だから耳元で叫ぶのはやめてくれ……」
「たくよぉ、喧嘩売っていい奴と悪い奴がいるんだぜぇちっとは考えやがれぇ」
そういうとエスリン12は口を尖らせたままそっぽを向いている。
許してくれているわけではないようだが、もう怒ってはいないようで俺はホッと胸をなでおろす。
「ごめん、話がそれちゃったな。それでどうして言葉が通じるんだ?」
「お、おう、その妖精はんめっさ大きい声やなビックリしたわ。おっと言葉の件やったなそれなら簡単や、ここが神域なだけやで」
「神域?それってなんだ?」
「あんちゃん神域も知らんとは、どんだけ世間知らずやねん。神域はゴブリンでもしってんねんでぇ?」
「「ぷぷう、あのあんちゃん神域もしらんとか、うちの村の5歳のチーちゃんかて知っとるのにぃ~」」
「うるせぇ、いいじゃねぇか知らなくたって、世の中知らなくていい事なんていっぱいあるだろ!」
「あんちゃん、なんかそれは違うようなきがするでぇ……」
双子はいまだにこちらをクスクスと笑いながらこちらを指さして笑っている。
知らないものは知らないんだからしょうがないじゃねぇかよ、こっちは異世界出身なんだわかるわけないだろ!
「あんちゃん、神域はな昔、神様がいらっしゃった場所でとてもありがた~~い場所なんや。そこではな異種族で言葉が通じるようになったり、力がつよぅなったり色々すごい場所やねん。それでやな、このオルガニア迷宮も昔むか~し神さんが造られたっていう、すごい神域やって話なんや。」
「へぇ~なるほどなそれでか、どおりで人間離れした奴らとも言葉が通じるわけだよな」
「そうなんや、だから神域は国の偉い方がみんなで管理してる場所なんや。でもな、たまにそこでやる祭りちゅう奴に参加したこともあるんやが、ほんっと楽しかったわ飲んで、食って、踊って、そりゃもうすごかったんやで!!」
「「すごかったんやで!!」」
「へぇ~それは楽しそうだな、俺も見て見たかった」
「ああ聞かしたる、見せたるわ。話があっちゃこっちゃいってもうたが、ホントは助けてくれたお礼代わりに歌と踊りをやってやろう思うてな」
「すっごい踊るで!!」
「すっごい歌うで!!」
そういうと双子は背中に背負っている胴が大きめのギターみたいなものと、縦笛を横に連ねた笛のような物を取り出し、バイロンも長細い一本の笛を取り出す。それじゃあいっちょやりまっかというバイロンの声で楽器を構える。
するとすぐに準備は整ったのか双子は目配せをする、そして突然流れる様に陽気で楽し気な曲が始まった。
ギターが音をはじき軽快なリズムを作ると、笛の音色がその音をさらに盛り上げ歌は激しさを増していく。
ハーフリングたちはその軽快なリズムに合わせて、飛んだり跳ねたりダンスを踊る。それは決して高度なものじゃない、でもみんなを盛り上げるには十分すぎる効果を持っていた。
周りを見るといつの間にか近くにいた人々はこちらを見ている、ある者は楽しそうに眺め、ある者は音楽に合わせて手拍子をし、ある者は一緒に踊りだしている。
ギターの軽快で楽しげな音は太陽のような陽気さを、笛のガラスを吹いたような透き通る音色は夏の南風のようにステップを刻む速さを速くする。
ハーフリングの双子が、バイロンが、エスリン12がみんながみんな楽しそうに満面の笑顔で、跳ね回りくるくると回り、歌を歌う。
何がそんなに楽しいのか、そんな風に思ってた俺もいつの間にか手拍子をし右足でリズムを刻んでいる。
そして曲に終わりがやってくる、いつか誰もに終わりがやってくるように、それでもみんなそんなこと知らない、今を楽しもうとばかりに踊りは激しさを増してくる。
トントンタン、トントンタンそんなリズムが急激に速くなり、最高潮に高まった時に終わりの一音が鳴らされた。
周りからは一斉に拍手が巻き起こる、そんな拍手を受けて汗だくになってるハーフリングの双子、エミリーとメアリーは幸せそうに微笑み合って、二人で手を繋ぎ同時に頭を下げた。
テーブルの上では終わってしまうのが名残惜しいというようにエスリン12がくるくると回っている。
そんな中拍手しながら近寄ってきたのが、白銀の甲冑を着た美丈夫の男アルフレードだった。
「いやぁ、素晴らしい演奏に踊りだったよ。こんなに楽しいのは久しぶりかもしれないね。」
それは今までの苦労を吐露するような、この場には似つかわしくない疲れた声だった。
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