第17話『後悔と戸惑い、そして』 第1節
逃げ回って走った先は綺麗に整備され、そこの木々には白色の花が咲き誇っている豪華な噴水がある、そんな美しい中庭だった。
ここに来た理由なんかない、ただ走り回っていたときに人の少なさそうなところに向かっただけだ。
俺はそこに備え付けられているベンチに乱暴に座る。
俺は何をやっているんだろう、あんなこと言うつもりじゃなかった。
そういうのは簡単だけど、心の隅で少しは考えた俺の本心であることも事実で……。
だからこそ俺は俺自身が許せなかった、どれだけ本心だとしても言葉にすることと、しないことでは海よりも深い隔たりがある。
そんな風に落ち込んで、周りに元気に咲き誇る花を見て俺は立ち上がり八つ当たりしようとしたところに、俺が最も来ないだろうと思っていた奴が声を掛けてきた。
「オイッ、花に八つ当たりすんじゃねぇよ。てめぇみてぇなクズよりも花は偉いんだぜ」
そんな風にいつもの感じで話しかけてきたのはエスリン12だった。
花の近くを少し飛び回ったのち、俺の隣のベンチの手すりの上に座って詰まらなさそうに足を動かしたり腕を上に突き出して伸びをしている。
「なんで……来たんだよ。カズにでも行けって言われたのかよ!」
「ケッ、誰があんな奴の指示に従うってんだよぉ。俺様はただ花を見たくて来ただけだぜ、妖精は白くていいにおいがする花が大好きなんだぜぇ。まさしくこんな花だ」
そう言いながら今まで見たこともなかったような笑顔で、白い花の周りを踊るように歌うように楽しそうにぐるぐるとゴスロリ服のスカートをひらひらさせてながら回っている。
そんな姿はまさしく妖精だった。
「おい、知ってるかよ?この花はハウソーンっていう木の花でよぉ、春になるとこんな風に白い花を咲かせて秋には真っ赤で綺麗な葉っぱをを一杯つけるんだぜ。しかもこいつの木の実は薬にもなるんだぜぇ、こんなに良い木はねぇぜホントによぉ。それになこの木のすごいところは寒くても熱くてもどんな時にでも、生きようとする強さがあるってところなんだぁ」
そんな木のウンチクをどや顔で言ってくる、もしかして慰めてくれてるのだろうか?
でもそんな彼女の姿を見ていると俺のしていることがなんかバカバカしくなってくる。
俺はカズに対してひどいことを言った、そんなどうしようもない俺だけどまだカズにもアズにも恩返しできてない、俺に居場所をくれた感謝もしていない、だから今は前に進みたいそんな気持ちになってくる。
そんな少し前向きな気持ちになるとこれからどうしようかという、頭が抱えたくなるような問題が出てくる。どうやって謝るかだ、ハッキリ言ってその事が一番怖いのだ許してくれなかったらどうしよう、多分カズは許してくれるんだろう、それでもやっぱり拒絶されるかもしないそんな堂々巡りだ。
「はぁ~お前は暢気そうでいいな、花があればそんなに幸せかよ」
「ああ幸せだね、後は歌と踊りがあれば後は何もいらねぇな」
「そんなもんか?」
「そんなもんだぜ、俺様にしてみたら人間の方がよくわからねぇな。どうして金なんていう紙くずや金属のきれっぱしを後生大事にしてるのかさっぱりだぜぇ」
「まぁ確かにな、でもお金があればとりあえず生きられるし、ほしいもの買えるからなぁ~便利だし金があればなんでもできるし、お金持ってるやつは偉いって感じだし。」
「ハッホント人間てぇのは度し難いぜ、欲望のままに生きて本当に大事なものをなくしても気付かねぇ、しかも大事に思ってるものも時には平気で捨てようとしやがる。それで自分たちが賢く偉くなったつもりでいやがんだ、ホント人間てのは大嫌いだね」
そう言った顔は嫌悪に歪んでおり、いら立ちのためか片足で地団太を踏んでいる。
彼女に何があったのかはわからない、でも様子を見ただけでも相当嫌なことがあったということはわかる。
俺もそんな人間の一人だ、欲望のまま相手に言いたいこと言うだけ言って逃げてきた。このまま何もしないでいれば大切なものを失ってしまうだろう、そう思うと覚悟は決まってくる。のだが。
「でもなぁ~。ちょっと怖いしなぁ」
「なんだてめぇ女々しい野郎だな、半分はお前のせぇじゃねぇんだから早く謝りやがれ。馬鹿野郎が!!」
「まあ確かにカズにも悪いところもあったしな……。うん?でも半分は言いすぎじゃないか7割ぐらいは俺が言い過ぎたのが悪いんだと思うんだが」
「ああ、そういや言ってなかったな、てめぇの能力の代償」
「さっきの事と関係あるのか?」
「まぁ少しはな、てめぇの代償はなぁ……」
「おい!ちょっと待てよ!まだ心の準備が出来てねぇよ」
さっきオッサンが来てうやむやにした代償の話を蒸し返されるとは思わなかった。
確かに聞かなきゃいけないことではあるが、医者に再検査を言われてその結果を聞かなきゃいけないそんなふうな言い知れぬ不安がある。
だからまぁ、後で何とかしようと後回しにしようとしたのだが、このゴスロリ妖精は空気を読まず、いやあえて空気を無視してるのだろう性格的にそんな感じだけど、こういうきっかけでもなければ聞く勇気も出てこなかっただろう。
そしてエスリンはどうしても言いたかったのだろう、イライラと腕を組みながらこちらを睨みつけている。
これはもう観念するしかない。
「わかったわかったよ、どうぞ教えてくださいエスリン様」
「最初っからそういやぁ良いんだ、手間のかかるやつだぜぇ」
そう言いながら上機嫌に羽をパタパタと動かし、ベンチの手すりに腰かける。
「それじゃあまず、代償の話をする前にお前の能力のおさらいだ。お前は自分の魂を肉体から切り離しそこから操作することによって、普通ではできないような力や動きができるようになる。ここまではいいかよぉ」
「ああ、大丈夫だ」
「問題なのは肉体から魂を切り離すことだぜぇ、たま~になら何の問題もない。幽体離脱って聞いたことあんだろぉ。あれと似たようなもんだ、すぐもどれりゃ大丈夫だぜ。しかしな回数が増えると元に戻りづらくなるいわゆる魂の変異ってのが起きちまうんだぜ」
「でもさ……そんなに使わなきゃいいんだろう?」
「まあな、でもよぉお前だって体験しただろうが頭で考えていることと、体の動きがチグハグになっちまったことをよぉ。」
さっきの喧嘩の時の事だろう、頭では止めようととしているのだが、体は全然いうことを聞かずに激情のまま、言うべきでないことも言ってしまった。
あれの原因は能力を使った事が根本にあったようだ。
「あんな事がこれからも起こるってことか……?」
「あんなもんで済めばいいけどなぁ、使えば使うほどお前の体はお前の物じゃなくなるぜ」
そう言われて背筋が凍るような思いがした。
あんな風に自分がなるとは思っていなかった、理性が利かず感情に任せるままに動いてしまう体があんなに怖いと思わなかった。能力を使えばもっとひどいことになる、そう思うだけで足がすくむ。
しかし、力を使わないで乗り越えられるほどここのゲームは優しくはないことは、前のゲームで十分に理解させられた。
「でもやっぱり……、クリアするには能力を使わなきゃいけないよな?」
「さぁな、てめぇの勝手にしな。能力を使いたければ俺様に言えばいつでも使わせてやんぜぇ。それでこれからてめぇはどうすんだよ。お友達は女の方が回復してから入口ホールに向かうって言ってたぜぇ」
「俺は……」
いますぐにでも謝りに行くべきだ、でもいまは心の整理がついていない。
喧嘩の事もあるが、代償の事についても二人に話した方がいいかわからない、無用な心配をかけてしまうだけなような気がする。
そして俺はまた臆病に逃げ込んでいく。
「先に入口ホールに行って、アルフレードと合流するかな。」
「ヘッそうかい、てめぇがそうしたいんならそうすればいいぜ、それで後悔しなきゃいいがなぁ。」
そう言ってクククと小さく笑うと、俺の肩の上にゆっくりと腰を掛ける。
そんなエスリンの意味ありげな言葉に苦笑しながらも、どこか心地よさを感じながら俺は入口ホールに向かって少し軽くなった気持ちで歩いていった。
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