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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第一層 空中庭園攻略編
19/99

第16話『極悪との対峙』 第3節

 俺たちはアズを担架に乗せて、治療室まで運びベットの寝かせた。


 治療室の中は、学校の保健室を思わせる作りでベットが2台あり白い清潔なシーツで覆われている。

 診察台と事務机、それに薬品棚とすべて木製であるものの全て重厚な作りで落ち着いた雰囲気を放っている。

 一番気になったのが薬品棚で、通りがかりに少しのぞいてみたが色々な色の薬品の入った瓶が陳列してあったり、大きな瓶の中には見たこともないような生物を液体に漬けたものが入っておりここが異世界だということを思い出させる。


 アズはベットに寝ているが、まだ荒い呼吸を繰り返し青い顔をしている。

 その横たわっているアズの額にウエイトレス姿の美女が手をのせ何かを呟くと、手が輝くように光り始める。すると見る見るうちに呼吸は静まり、顔色は血色を取り戻していく。


 俺はホッと息を吐きだす。

 倒れてしまった時はほんとに驚いたが、すぐに良くなってホントに良かった。


「これで大丈夫でしょう、魔力に当てられ慣れてない人がよくかかる病気ですが、寝ていれば回復するでしょう。起きたらこちらの薬を飲ませてくださいね。」


 彼女はそういうと薬品棚から青い色の薬を取り出し、ベットの横にある台の上に置いた。


「こちらは魔力の体内からの排出を助ける薬です。飲ませるときは機械人形(オートマタ)を今から呼びますのでそれに指示してください。私はこれからまだ仕事がありますので、失礼いたしますわ。」


「ホントにありがとうございました」


「いいんですのよ、これもFM(フロアマスター)としての仕事ですからね」


 そう言いながらこちらに微笑むとゆっくりとした歩みで治療室を出ていった。

 そして残されたのは俺とカズの二人だった。


 いつもなら軽口をたたき合ったり、色々相談したり今だって話さなきゃいけないことは山ほどある、でもそれ以上に気になっていることがあって、その事が俺の口を重くさせていた。


「今のがさっき言ってたアステリさんか?」


「うん、僕たち全員を治療してくれたのもあの人だよ」


「そっ……か」


 そして再び沈黙が降りる、しかしそのことがいやそれよりもこんな事になってるのに平然とした顔をしているカズの態度が、俺の我慢をいとも容易く消し去ってしまう。


「なぁ、カズお前さなんであの時わざと挑発するような事言ったんだよ」


「うん……。ごめん」


「ゴメンじゃわっかんねぇんだよ!!なんでなんだよ、あっちの方が人数も多かったしあの男もただ者じゃないってわかるだろうが!!そのせいでアズが今こんな事になっちまってるんだぞ!!!」


ああ、俺は何を言ってるんだこんな事いうつもりじゃなかったのに。


「そうだね……、僕はここじゃ戦闘はできないって思ったから、だから……」


「そうだなお前の言う通りだよ!!戦闘はしなかったさでもアズはこんな事になっちまってるんだぞ、お前が余計なこと言ったせいで!!!」


 どうしてこんなこと俺は言ってるんだ、言葉と心は熱くなっているのに頭は妙に冷静だ。

 だからかわからないが、俺の言葉は次から次へと溢れてくる。


「ほんとに……ゴメン」


「お前どっかおかしいんじゃないか、こっちに来てから……。前までそんな喧嘩とか売るような奴じゃなかっただろ!!それに前のゲームだって最後は俺がいなきゃみんな死んでたんだぞ、お前のしょうもない作戦のせいで!!!」


 これは言い過ぎだ、作戦が決まらなければあのまま死んでいたかもしれない。そう思っていても口に出してしまえばどうしようもない。


「うん……、カズにばかり迷惑をかけてゴメン」


「ホントだよ!!お前は無能なんだからなんもすんじゃねぇよ、この足手まといの役立たず!!!」


 嫌だいやだいやだ、なんでこんなこと言ってしまうのか。

 いつも助けてくれるのはカズなのに……。俺は助けられてばかりなのに……。


 そうして周囲に沈黙が降りる、カズも何か言おうとしているみたいだが悲しそうに、辛そうに、俯いているだけで言葉が出てこないみたいだった。

 俺は逃げ出したかった、でも謝らなければとも思ったそんな二律背反な思いが俺をその場に縛り付けていた。


 そんな空気を読んだのか読まないのか、引き扉を開けてメイド服の少女が入ってくる。


「失礼いたします。アステリ様よりお世話を仰せつかりました。機械人形のエネアと申します。どうぞご指示をお願いいたします」


 そう言ったのちお辞儀をして俺たちの目の前まで歩いてくる。


 俺は恥ずかしさでいたたまれなくなった、どうしてこんな事を言ってしまったのか、でも心の隅には俺も間違ったことは言ってないという思いがごちゃごちゃになって……。


「ご指示を……」


 俺は逃げ出していた、機械の少女の脇を通り抜け扉を勢いよく開く。

 その時にもカズは俺の名前を呼び呼び止めようとしていた、でもそんな事は全く聞きたくなかったほっといてほしい、そんな思いばかりが先行して。


 その後は無我夢中で走った、逃げられる場所なんかどこにもないと知りながら。




読んでいただきありがとうございます。

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