第14話『極悪との対峙』 第1節
部屋を出たクイズ部3人と妖精1人は部屋を出て、アルフレード達が待つという角鷲亭の入口ホールに向かっていた。
歩きながらカズから角鷲亭について聞きながら入口ホールに向かう。
入口ホールは今現在いる宿泊棟とは別に、渡り廊下を渡った先の酒場棟の1階にあるらしい。
今いるのは宿泊棟の二階中央部付近なのだろう、客室とみられるドアは俺の出てきたドアを合わせて7枚並んでいて通路の先の一方が階段、もう一方がバルコニーになっている。
ドアの前には等間隔に十字の格子が入った窓があり、室内を明るく照らしている。
ガラスの質はあまり良くないらしく、少し曇っているものの景色を眺めるには十分な透明度で、遠くまで見渡すことが出来た。
窓の外には見渡す限り草原が広がっており、所々に木々が生えていてそのことがのどかな牧場の風景を想像させていた。その空には夏の入道雲と、透き通るような青空が広がっている。
青空?ここは迷宮の中で建物の中のはずではないのだろうか?
また前のゲームみたいに幻覚なのだろうか?それにしては前のような非現実感はなく、ちゃんと目的地まで行けると思えるような現実感がある。
「ここってホントに迷宮なのか?モンゴルとかじゃないよな?」
「そんなわけないでしょ!バッカじゃないの?もうちょっとよく考えなさいよ。モンゴル人がどこにもいないじゃない。」
「いやいやモンゴルだからってモンゴル人がどこにでも出没するわけじゃねぇだろ。」
「そんなこと知ってるわよ!バカにしないでよ、ホントにもう!!」
そんな事を言いながらアズはブツブツ言いながら俺のいる方と逆の方向を向いている。
俺は何かアズの気に障ることを言ったのだろうか、アズには聞こえないように少しアズと距離を取ってカズに小声で話しかける。
「おいカズ、アズが怒ってるんだが、理由を知ってるか?」
「いやわかるでしょそのくらい?」
「いや、さっぱりわからないんだが。」
「じゃあわからない方がいいかもね、その方が上手くいきそうだし。」
「いやまぁお前がそういうならそこまで知りたいとは思わないが……。うん、まぁいいや。それでここって迷宮の中でいいんだよな?」
「うん、そうだよ。でもね、たぶんゼンが考えているような場所じゃないみたいなんだ。」
「はぁ!?だって迷宮って地下とかに何層もあったり、巨大な塔とかのなかとかよくゲームで言うダンジョンとかそういうものだろ?」
俺は驚きのため大きな声を出してしまい、アズはイラっとした顔で俺を睨みつけ、エスリンは耳を塞いで怪訝な顔をしている、そんな中でカズは1人楽しそうに笑っている。
なんだよ俺は変なこと言ったのかよ?だって迷宮ってそんなもんだろ?
「カズならそんなリアクションをすると思ったよ。これはアステリさんから聞いた話なんだけど、このオルガニアの迷宮は異次元空間をに作られてるみたいなんだ。」
「異次元空間?あの青い猫型ロボットのポケットの中みたいなもんか。」
「うん?まぁそれに近いかもね、それでさその次元が重なり合っていてそこにできた空間の一つ一つがゲームの会場で、そのゲームのクリア者の待機所として、この迷宮角鷲亭があるんだって。アステリさんが言ってたよ。」
何となく理解はできるんだが、だからといって詳しく説明しろと言われても何も答えられないほど、フワッとした話だ。つまりゲームをクリアしたらこの中間層の迷宮角鷲亭に移動させられて次のゲームの開始を待つみたいな事だろうか?
だけど異次元とかさ、もう何がきても驚かないかもな?
「うん、まぁなんとなくわかったけどさ、それとここの事がどう関係してるんだ?」
「詳しくはわからないけど、その異次元の中で無理やり作ったのがこの空間みたい。」
ホントなんでもありだなここは。
そんな風にたあいもない話していると、いつの間にか宿泊棟と酒場棟をつなぐ渡り廊下まで来てしまったようだ。
渡り廊下はかなり広くゆうに7人が並んで歩けるほどであり、屋根も木造のようでしっかりとした出来だ。
外の天気は相変わらず快晴で、適度な湿り気のある温かな風が吹いており、今このような状況でなければ昼寝をしたくなるそんな陽気だった。
しかしそんな中で渡り廊下の先、珍妙な5人ほどの集団が酒場棟の入口付近に広がるように陣取り、こちらを待ち構えていた。
そんなここの風景と全く似つかわしくない異物の集団は、こちらの事を遠くから確認している。すると侍女とみられる異国の民族衣装を着た女の子が、中央の見るからに偉そうな男に耳打ちし始める。
こちらとしては無視して先を行きたいところだが、あんなにあからさまにこちらの行く手をふさがれては無視するわけにもいかない。
俺たちが戸惑いながら立ち止まっていると、真ん中に立っている派手な刺繍が入った赤いマントに頭にはグドラと呼ばれるスカーフを付け、首回りと指には色とりどりの宝石を身に着けている。
そんなどこぞの中東の人を連想させるような格好をしたイカツイ男が薄く笑みを浮かべばながら、侍女と執事と思われる男3名を引き連れて優雅に勇ましくこちらに歩みを進めてくるではないか。
こんな所で何するつもりだと様子を伺っていると、こちらの3メートルほど手前で立ち止まる。
「いやぁ愉快だ、このような珍妙な衣装を着た生き物どもが見られるとはな。このパーティーに参加して正解だったな。なぁサニヤそちもそう思わぬか?」
「はい、さようでございますねガリブ侯爵殿下。」
「サニヤ、前から言っておろうワレの名はジャッバール様と呼べと。」
「かしこまりました、ガリブ侯爵殿下。」
「まあ良い、おい!そこの虫けらども何をしている!ワレの前でなぜ許し得ずに頭を上げている!!膝をつき、こうべを垂れよ。」
そう言いながらこちらを睨みつける瞳は紫色に鈍く輝き、その目を見るだけで体はすくみ上り今にも膝をつきそうになる。
「どうした何を戸惑う必要がある、貴様らのような下等生物であればこうべを垂れるのが当たり前と体が理解しているはずだろう?」
「クソッ、どう……なってんだ?!」
まるで体が言うことを聞かない、目の前の男の言葉が、表情が、態度が体の上にのしかかるようにまるで体の上に鉛をおかれているような、そんな圧力をかけてくる。
それを打ち破ったのは、一番小さく非力だと思っていた者だった。
「てめぇふざけてんじゃねぇぞぉ、魔眼なんか使いやがって俺様を誰だと思っていやがる。」
「ほう、見たところ妖精族のようだが、よくワレの魔眼を打ち破ったものだ。ほめてつかわそう。」
「ハンッてめぇに褒められてもうれしかねぇよ。それよりもてめぇはこいつらになんか用なのかよ、俺様達はこう見えても暇じゃねぇんだ。そこを通しやがれ!」
エスリンの一喝があってからずいぶん体が軽くなっている。
今、エスリンは俺と、目の前の男の間に壁を作るように飛んでおり。小さい背中だが何故だか今はすごく頼もしい。
目の前の豪奢な格好をした嫌な目をした男は考える様に顎を撫でた後に、右手の手のひらをこちらに威圧するように向けて言葉を発した。
「貴様の胆力に免じて教えてやろうではないか、なに簡単な事よ。歌劇を行っていた矮小な種族が珍妙な格好をした子供に助けられたことを喧伝していたのだ。それを聞いた我は珍品に目がないのでな、そのようなものがいれば一度目にしてやろうと思ったまでよ。」
「ふざけんな!なんで俺たちがお前の道楽に付き合わなきゃならないんだよ!」
俺がそう叫ぶと目の前の男はこちらを人睨みする、それだけで俺は言葉が続かなくなる。
どうしてエスリンはこんな奴を相手に平然としていられるんだよ、俺には無理だ……。
「フン、貴様ら虫けらなどワレの暇つぶしにもならない、どうだ?貴様らの衣装ワレがもらってやろう。さすれば貴様らなどゴミほどの価値もなくなる、どうだ?」
その問に答えたのは先ほどまで俺の隣で固まっていたはずのカズだった。
「お断りいたします。あなたの言っていることは道端にいる強盗と変わりありません。僕たちはあなたの命令に従う理由がありませんし、従いたいとも思いません。ハッキリ言いますとクソくらえこの野郎です。」
その言葉の後には沈黙がその場を支配していた。
まるで自分たちの周りだけ時間が止まってしまったような、全員の息が止まってしまったかのようにすべての時が止まっているような錯覚。
その一瞬とも数刻とも感じる時間の中を、食い破るように哄笑が響き渡る。
「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハッハハッ」
笑ったのは目の前の男だ。その笑い声には狂気と凶兆をはらんでおり、他を黙らせるには十分なものだった。
「ヨクゾッ!ヨクゾッ我ニソノヨウナクチヲキケタモノダ、ソンナニ死ニタケレバ、イマスグ死ネ!!!!」
そういった男の顔は先ほどの人間の顔ではなく、頬のあたりから黒いうろこのような物が生えてきている。その姿はもはや人外の領域に達していたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
遅くなってしまいすいません。