幕間 『器用で不器用な卑怯者』 後編
外面だけは取り繕い、友達とも深く付き合わずにいた俺に突然話しかけてきたのは、全然話したこともない髪をぼさぼさにした外見もさえない変な奴だった。
「あの……もしよかったら……クイズ部に入らない?」
それはもう部活の勧誘のシーズンをとっくに過ぎ、夏が終わろうとしている9月の事だった。
俺は昼休みいつも一緒にメシを食っている友達とは別に購買でパンを買って、日ごろのうっ憤を晴らすかのようにパンを豪快にかじっていた。
そんな無防備な状態で俺はあっけにとられていた、まさかこんな時期に俺みたいなやつに部活への勧誘をしてくる奴がいるとは夢にも思っていなかった。
確かに事件は終息した、でも人のうわさは消すことが出来ない、学校側はなるべく内密にしようとしていたようだが人の口に戸は立てられない、どこから漏れたのかいじめをしていたことと、部員が自殺未遂したことはすぐに全校中に広まってしまっていた。
そのため元バスケ部員は全員好奇の目や侮蔑するような目で見られることになった。
俺も例外ではない、陰でいろいろ言われていることは知っていたし、多くの人から避けられるようにもなった。
でも前から付き合いのあった友達は、いつもと同じように接してくれていて、それだけが救いだった。
そんな俺に部活の勧誘だなんて、自分で言うのはなんだが最初の印象はこいつ何言ってんだと思ったものだった。だから俺が続けて言った言葉は当然のものだった。
「わりぃ、俺もう部活に入るつもりないんだ、ゴメンな?」
これで話しかけてくることはもうないだろう、外見もひ弱で内気そうだから強く出てくることはないそう思ったのだが。
「でも……君はクイズ好きだよね?」
どうして断られたのにまだ俺に話してくるのか全然わからない、それになんで俺がクイズを好きなんてわかるんだ?
「いやいや、俺クイズとか興味ないしさ、第一なんで俺がクイズ好きなんて君が知ってんの?」
「前に駅前のゲームセンターで……クイズのゲームしてたでしょ?」
言われて思い出した。前にバスケ部の奴ら(まあ、今はもう元なわけだけど)とゲームセンターに行ったときに何名か遅れてくることになって、暇つぶしにやってみようということになったのがクイズのゲームだった。
あんなことだけでクイズ好きだなんて、どうしてこいつは思ったのだろうか。
「いやいや、いやあれは単に暇つぶしに、友達とやってみようってなっただけだっての」
「そうかなぁ……でも一度クイズ部を見に来てよ……いつでもいいから」
そういうと頭がぼさぼさのしつこい男は離れていった。
ホントに変わったやつだ、どうして俺なんかに話しかけてきたのか。
そんな感じので一方的な事だったんだけど、なぜか俺は無性にあいつが入っていってほしいと言っているクイズ部を見学してみたいと思ってしまっていた。
その後今日行こう今日行こうと思っているうちに1週間近く経ってしまい、もう相手も忘れているだろうと思って行かないつもりだったのだが、その日は友達が全員用事があるということで一人で帰ることになり。
今更だけど行ってみてもいいか、なんて突然そんな気持ちになった。
俺は校内のクラス棟を抜けて、間にある渡り廊下を抜けて文化部棟にやってきていた。
そこは以前までクラス棟があった場所で新しく、クラス棟を作ることになり余ったそこは文化部棟になった。そのためリノリウムの床は所々色が変色してしまっており壁も所々に落書きがあったり、ポスターをはがした後の四隅の切れ端が張り付いたままになっており、埃っぽさも相まってかなり古い場所に感じた。
俺は元々運動部棟しか行ったことがなかったためこちらに来るのは初めてだった。
入口付近にある古びた案内板の内容を頼りに棟内を進んでいく。
クイズ部があるのは3階ある文化部棟の端っこの一室だった。
壁にはクイズ部新入部員歓迎の文字が書いてあるポスターが多く張られているが、多くが色褪せてはがれかけてしまっている。
部室の横にひくスライドドアは昔からある扉なのだろう、鉄でできた古く重そうな扉はこちらを拒むように目の前にそびえたっている。
扉を開く手は遅々として動かない、とてつもなく重い扉を開けているかのように。
そしてドアの前に立ち止まっていると、部屋の中から声が聞こえてくる。
「カズト先輩聞きましたよ」
「えっ?!……何のこと?」
「とぼけちゃって、バスケ部でいじめやって部員を退部に追い込んだ奴勧誘したそうじゃないですか?」
「……誰の事?」
「いや誰って?詳しくはしらないですけど、和田とかって人ですよ。」
「うん?あ~あの人か……それはしらなかったなぁ」
カズト先輩と呼ばれてる人物の声は聞き覚えがある、俺を勧誘してきたやつだ。
あいつ何も知らないで俺を誘っていたのかよ、納得したよそんなんじゃなきゃ、俺を誘ってくるわけがない。
「ちょっとしっかりしてくださいよ、アズさんも心配してましたよ変な奴が入ってくるんじゃないかって」
「そうなんだ……でも彼は大丈夫だと思うよ」
「どうしてですか?噂では部員4人をいじめて退部に追い込んだって聞きましたよ、そんな人がいい人ではないと思いますけど……」
「う~んなんて言えばいいのかなぁ。彼の眼と表情を見たんだけど……あれは罪悪感と後悔それに自分を責めて平静をよそわなきゃ今にも……消えてなくなりそうっていうのかな?そんな感じが彼からはしたから」
扉の前で俺は呼吸を止めていた、一度会って話しただけそんな奴が俺の何を知っているんだ?!という怒りと、自分の悪さがばれてしまった子供のような羞恥心であったり、そんな感情で体が震えて仕方なかった。
「そうなんですか、じゃあ悪い人じゃないんですね?」
「ううん、悪い人だよ。でも……悪いことをしたらちゃんと自分が悪いと後悔出来て、その贖罪のために何が自分にできるか考えられる……器用で不器用な人だと僕は勝手に思ってるよ。それにクイズが好きそうだったし」
「最後の関係あるんすか?」
ふざけんなお前に俺の何がわかる!!俺はな自分可愛さに相手を貶めても何も感じないしずっと他人の目を気にして言いたいことも言えず、ただみんなを笑わせる事しかできない道化師だよ。俺はそんなやつじゃない、そんなやつじゃないんだよ!!
「ちょっとアンタここで何してんのよ?」
その声がして固まっていたからだを動かし、何とか後ろを振り向くと俺より少し低い身長ですらりとした手足で肝心な部分に膨らみがないショートカットの女は、俺をまるで不審者を見るような目できつく瞳に炎をちらつかせながらこちらを睨みつけている。
俺は何も言い返すことが出来ず、そのままその女の横を躱すように、逃げて逃げて後ろからの静止の声など気にも留めず走って逃げた。
その後色々あったがクイズ部に入り、カズとアズと友達になったのは俺にしたら当然の事だった。
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