幕間 『器用で不器用な卑怯者』 前編
一部胸糞悪い表現があります、気にする方は読み飛ばしてください。
「ゼン、お前もうバスケやめろ、お前なんかとやっても全然楽しくないし、お前も楽しくないだろ?」
俺と一緒にスポーツをやってた奴は、みんな似たようなことを言った。
別に楽しくなかったわけじゃない、ただみんなに気を使っていただけだ。
自慢じゃないといっても自慢になってしまうかもしれないが、俺は小さいころからスポーツがなんでも得意でどれでもよくできた、でもその代わりに一つの事に打ち込まないからある程度までしかうまくならなかった。
それでも中学時代にはそんなに強くない公立校のスポーツ系の部活で、1年生ですぐにレギュラーを取ることができたりもした。
でもそのかわり、周りからは妬まれ陰口を叩かれ、ある時はいじめられることもあり。俺は積極的に頑張って目立って上手くなるという事をやめたのだ。
そしたら軋轢は減ったし友達はよくできるようになったし。俺は冗談を言ったり笑わせたりする盛り上げ役だったこともあり、人間関係はとてもよくなったんだ。
しかしスポーツは全然楽しくなくなった、いつもさぼってゲーセンにばっかり通ってばかりいた。
それから高校に入って最初サッカー部に入ったのだが、そこは真剣にサッカーをやっている奴ばかりで気まずくなり、俺のような半端者がいられる場所はなくてすぐにやめることになった。
次に入ったのがバスケ部だ、ここの部員の多くはやる気がない、ただモテるために入ったような奴ばかりで俺に丁度あっていると思った。そしてその考え通り中学と同じようにまともに部活動もせずに、ただただ友達と喋ったり意味なくゲーセンに通ったりしていた。
しかしバスケ部には例外がいた、よくマンガで出てくるような熱血漢でバスケが生きがいだと真面目に言っているような奴だった。
そいつは全然バスケがうまくなかった、1ON1でほとんど練習していない俺とやっても1点もとれにないような、そんな感じだ。
だけどそいつはそんな事は関係ないとでもいうように、必死に練習し。そしてただただ前を向いて勝ち負けを超えて何かを見ているそんな感じがした。
しかしそんな奴が俺たちは気に入らなかった、俺たちは練習していないのに練習している様子を見せつけられると、相手はそんな気がないとしても罵倒されさげすまれている、そんな無言の圧力をかんじてしまっていたのだ。
しかもその姿に感化されたのか3人ほどが一緒に真面目に練習するようになり、いっそう俺たちは肩身が狭くなってしまっていた。
だからその後起こったことは当然の成り行きだったとも言える。まず始めは練習にかこつけてわざとぶつかったり蹴ったり殴ったり、聞こえる様に陰口を言ったりそんな事を遊び感覚でやっていた。
そうしていくうちにまず一人が辛くなってしまったのだろう、退部届が顧問の方に出されていることを知り、しかし逆にそのことが傲慢な俺の周りの人間にに火をつけてしまったようだった。
だけど俺は逆にとたんに怖くなり、逃げ出したくなったけど友達との関係を壊したくなくて、部活を辞めるわけにもいかなくなった。それに俺がイジメなんてやめようなんて言い出せるわけもなかった。俺は周りに流されて自分の意志を持たない道化師みたいなものだ。そんな俺が勇気を持っているわけもない。
「ざまぁみろだよ、下手糞のクセに練習しやがってほんと目障りだったわ。」
「ホントだよ、あの熱血君に感化されただけのクセにちょーしにのってガンバちゃってホント笑えるわ。」
「だよなどうせ一回戦も突破できないぜあれは。」
「だよなだよな、でさ残りの奴どうするよ?まだ続けるだろ?」
「あたりめぇじゃん、熱血君がやめるまでやろうぜ。もっとえげつなくな!」
「うわっお前ちょ~ドSじゃん、でも面白そうだから俺もやるけどね。」
そんな軽い感じで、自分たちの傲慢さ、考えなさ、悪辣さなど、今考えると身震いするような事を平気でやっていた。
こんな事いまさら言うのは虫のいいことだというのはわかっているけど、俺は仲間とやっていることに心の中で賛成なんてしてなかった、なにしてるんだよそんなことやめろよお前ら、そう言えたらどんなに幸せだっただろうか。
結局のところ、俺は友達から仲間外れにされて、要らないもの役立たずになるのがどうしても嫌だった。そんな自分勝手な自分本位な理由だけで、何の恨みもない、少し気にくわない奴をこんなにおとしめられるのかと、そんなこと思うと自分の心臓を握りつぶして死にたくなるそんな衝動に駆られた。
だけどそんな俺の感情とは関係なく、事態は着実にすすんでいった。
俺たちの熱血君たちへのいじめは激化していった、練習中にバスケットボールをぶつけたりトイレの水を頭からかけたり、熱血君たちの私物をズタズタにしたりかなりひどいことを平気でやった。
そうしてまた一人退部していく、残ったのは熱血君ともう1人だけだった。
俺以外の奴らはもう既に歯止めが利かなくなっており、熱血君がやめるまで絶対にやめないと息巻いていた。
だが俺は熱血君ともう一人の会話を偶然であるが聞いてしまい、自分の今までやってきたことに恥ずかしくなり怖くなってしまった。
「なぁもうこのバスケ部やめよう、このまま続けていてもまともにバスケなんてできないよ。それだったら公園にあるゴールを使ってバスケした方がましだよ」
「お前はそうしろよ、俺はやめないから」
「なんでそんな意地張るんだよ?そんなにこの部が好きなの?ここには最低な奴らしかいないのに」
「高校バスケでインハイ優勝してみたいとかの夢だって確かにあるよ、でもそれよりも俺は負けたくないんだ!」
「負けたくないってあいつらになの?そんなの意味ないよ、こんなのに勝ち負けなんてないよ……」
「あいつらに負けて部活をやめるのが嫌だって気持ちもある。でもそんな事よりこのまま部活をやめて逃げたら俺のバスケに対する思いや信念から逃げてる気がするんだ」
「そんなことないよ……」
「いやそうなんだよ、俺ってバスケ下手じゃん?でも好きだっていう気持ちは人一倍で、だからみんなにウザがられて邪魔だ役立たずだって言われて……辞めたいって何度も思ったよ、でも辞められなかった。だから俺は自分の気持ちの邪魔にはならないように、自分自身にとっての役立たずにはならないって誓ったんだ。だから、俺は部活を辞めない!!」
「そっか、分かったよ……。」
そういった熱血君の顔は恥ずかしさなのか誇らしさなのかそれとも夕日の色なのか、真っ赤に染まった顔に意志のこもった輝くような瞳をしていて、俺は必死にその場から逃げ出した。
それからすぐに俺はバスケ部を退部した。
バスケ部の奴らには色々言われたが、全部無視してバスケ部に近づくのはやめた。
だが俺がやめたことは何の意味もないし救いもないと知ったのは、そのすぐ二週間後だった。
熱血君と最後まで一緒にいたバスケ部員が自殺未遂を起こしたのだ。
その後の顛末は噂でしか聞いていないが、その時いたバスケ部員は全員呼び出されいろいろ事情を訊かれたらしい、俺には担任が聞いてきたが他は顧問の先生だったらしい。
そして自殺未遂の件と陰湿ないじめがばれたバスケ部は廃部になり、バスケ部員は今回の事をすべて黙っていることを条件に処分はなしになった。多分学校側が世間体を気にして、いじめ問題を公表したくなかったのだろう、世の中なんてこんなもんだ。
その後の部員たちの事については知らないというよりあまり知りたくなかった、俺はなるべく元バスケ部員には近づかないようにしたし、向こうも同じだったようだ。
俺は怖かったとにかく怖かった、自分本位で他人を傷つけても平然としている自分が、自殺未遂する前に辞めたんだから自分は関係ない、と思おうとしているどうしようもなく卑怯者の自分が。
それから何とか平然とできる様になってからは、クラスでふざけたりして自分は大丈夫です、いいやつですというポーズを全力でするようになった。
でもそんなことしても自分の惨めさは消えない、でもやり続けるしか俺は方法を知らなかっただけだけど……そんな時に自分の前に突然現れたのがカズだったんだ。
読んでいただきありがとうございます。
唐突なゼンの過去話になりました。
ホントは一話でまとめるつもりでしたが、前編と後編に分けることにしました。