第13話『中間層 迷宮角鷲亭』 第2節
俺のベットの端に座っていたのは黒髪縦ロールの金眼のゴシックロリータ妖精だった。
うん自分で言ってみても属性盛りすぎの変な生物だ。しかもなんか偉そうだし。
「オイオイ、俺様の可愛さに言葉もでねぇてのか?わりぃな、てめぇみてぇな子供は眼中にねぇんだ諦めてそこのまな板女とでも付き合うんだな」
そう言いながらその妖精はベットの端に立ち上がり胸を張る、その胸は体と比べて服の上からも分かるぐらいに膨らんでいるため手の平ほどの身長と相まってアンバランスさを感じる。
そして背中には透明でトンボの羽の幅を広くしたような羽が生えており、さも自分が妖精だと自己主張しているような感じだ。
「その口調にその声ってことはエスリンなのか?」
「ああん?それ以外のなんになんだよ。これだから人間てやつは話が通じねぇ奴ばっかで困んぜぇ」
「ちょっとあんた!だれがまな板よだれが!!こう見えても結構あるし、それに友達にはモデル体型で羨ましいってよく言われてたんだから!」
「ああん?そりゃあんたにきぃつかってそう言ってたに決まってんだろうがよぉ。まな板はおとなしく台所で寝そべってりゃいいだろうがぁ」
「なんですって!!??」
エスリンが登場したかと思ったらいきなり喧嘩になるとは、まあどうやったって喧嘩になりそうな組み合わせではあるが。
二人は今は口論しているが、アズは意外に手が早い、いつ殴ってもおかしくない。
でもこれ俺が止めんの?いやいやいやなんか口を挟んだだけで殺されそうなんですけど……。
横目でカズの方に助けを求めると、カズの方からはゼンがやってよという視線を受ける。
虎穴にいらずんばとかいう奴だ、しょうがないやってやる。
「あ~お二人さん、そんなに怒っちゃせっかくの可愛い顔が台無し……」
「「うるせぇてめぇは黙ってろ!!!」」
「あ、はい」
うん、無理ですね。これは無理でしょうね、誰が止めれるんですかこれ、止められる奴いたら呼んできてほしい止められたら俺の生写真サイン入りでやるからさ。
うん?いらない?そうでしょうね。
俺はカズに視線を送り、次はお前だと目線と首を振って言ってやる。
それがわかったのかカズはしぶしぶ二人に話しかける。
「あのさアズ……」
「なによ!!」
「アズはもっと自信を持った方がいいよ、ゼンはいっつもからかって変なこと言うけどいつもアズの事をねっとりとした目で見てるしね。特に足とか」
「え!?」
今のカズの一言にアズは固まってしまっていた。そして俺の事を睨みながら拳を握りしめている。
おい!ちょっと待てなぜか怒りが俺の方に向かっているぞ!
「エスリンさん?」
「ああん、あんだよ!」
「さっきからカズが君の事をぺろぺろしたいクンカクンカしたいって顔で君の事を見てたよ、ここだけの話カズは小さい女の子に目がないんだ」
「なん……だと!?やべぇ今すげぇ寒気がしたぜ。知らなかったとはいえ、こんな危ないやつに話しかけていたとはなぁ……」
そう言いながらエスリン12は自分の体を抱きしめながら、身震いしている。
おいちょっと待て!!俺にそんな性癖ねぇぞ、俺はもっとまともだ!おっぱいが大きくておっとりした子がってそんな事は今は関係ない!カズの奴なんてこと言いやがるんだ。
そんな俺の気持ちをジェスチャーで表すと、カズは手を合わせてこちらに謝ってくる。
だが何とか喧嘩は収まったようだ、俺の怒りは後でカズにぶつけるとして今は話を進めよう。
「それじゃあエスリン、俺にくれた能力の説明してくれるか?」
「すいません話しかけないでくれますか、キモいので」
「おい、ちょっと待て!さっきまでの口調はどうしたんだよ!それにさっきカズが言ったのは誤解だから、俺にはそんな趣味ねぇから!!」
全力で否定してみるが、女子二人は完全に俺の事を虫でも見るかのような目で見てくる。
あ~あもうこれどうすんだよ、完全に俺の話聞かないじゃん。
そうしているとカズが代わりに話し始める。
「エスリンさん、悪いんですけど能力の事教えてくれませんか?これからの迷宮攻略にも必ず必要になると思うんです。お願いします」
「ハァ、しょうがねぇなぁ話してやる、まず先に言っとくがお前らの便利な能力には必ず代償が付きまとう、だからそんなに簡単に使えるもんじゃねぇってことを忘れんな」
「わかりました、ところでいまお前らって言いましたけど、僕とアズにも能力があるってことですか?」
「たりめぇだろ?てめぇらの体はバロール様の特製なんだ、全員あるに決まってんだろぉ」
「じゃあその能力と、その能力の代償を教えてください」
「それは教えらんねぇなぁ」
「ちょっとなんで教えられないのよ、あたしたちの事でしょ?話しなさいよ!!」
そう言ってアズはエスリン12を捕まえようと手を伸ばすのだが、蝶が舞うようにするりと飛び今度は机の上に移動する。
「人間って奴はどうにも暴力的でいけねぇな、話せないのにはちゃんと理由があるんだぜぇ」
「何よ理由って?」
「1つは条件だな、ゼンの奴は条件を満たしたんだそれで能力を解禁させた。他の奴はまだ条件を満たしていないそれだけだぜぇ」
「条件って何よ!」
「それぐらい自分で考えな、ゲームは簡単すぎてもだめだし難しすぎてもだめなんだ。そのバランスをとってる俺様も大変なんだぜぇ。」
「けち臭いわね、じゃあ他にも何かあるわけ?」
「あるぜぇ、もう一つの条件は覚悟や意志の強さだな。能力が必要じゃない奴にやっても碌な事にはならない、だからこっちがその意思があると判断した奴にだけ能力を渡すってことだ」
「何よそれ!あんたが適当に決めるってことじゃない!?」
アズの言っていることがもっともだ、結局は最後に決めるのはエスリン12でありどんなに条件を満たしても向こうが駄目といったら駄目ということだ。
「ハンッ、力をもらってる側のクセによく言うぜ、自分では何の努力もしない癖に力だけもらおうなんてぇのは傲慢だぜお前らぁ。」
「それは……。」
なんだかやり込められてしまってる気がするが、しかしエスリン12の言ってることももっともだ。
それでもこの迷宮をクリアする為には、能力は絶対に必要になるに違いない、だから今はそのことを無視しても能力についていろいろ聞かなきゃいけない。でもエスリン12が気分を悪くして話さなくなるというのが、一番最悪なパターンじゃないだろうか。
「まあいいじゃん、別に今能力が必要なわけじゃないし必要になったらくれるってことで今は納得しとこうぜ」
「まぁそれでいいけどさ」
「なぁエスリン次は俺の能力の事を教えてくれよ」
「俺様ロリコンのキモい野郎と話すのは嫌だぜぇ」
「あっそれあたしも!」
「おい、俺のシリアスな雰囲気を返せ!こっちは真面目に話してんだよ、そっちも真面目に話せよ。ほらカズからもさっきのは冗談だと言えよ」
「えっ!?」
「なんでお前が驚いてんだよ、俺がお前にロリコン要素を見せたことが1回でもあんのかよ?」
「ゴメンゴメン、エスリンさんさっきのは冗談なんだ、ちょっとかわいい子が好きなだけの奴なんですよ」
「へッしゃあねぇな、てめぇに免じて今回は見逃してやるが、次俺様を変な目で見やがったら内側から破裂させて殺すからな覚えてろよぉ」
カズのセリフはフォローになってるような、なってないような微妙な感じだが、少しは誤解が解けたってことだろう。だがめちゃくちゃ物騒なこと言ってんなこの妖精。
「それでゼンって変態野郎の能力のことだったな」
「あんまり誤解解けてねぇな!」
「ハンッそんな事はどうでもいいだろうがよぉ、能力は自分の体を第三者視点から見下ろしてその体を自由自在に動かせるって能力だな」
「なるほど、アクションゲームみたいな感じになるってことですか?」
「ああそうだぜ、能力ってのは個人の性格に合わせてこっちが設定してあんだ。こいつはそういうゲームなんかが好きなんだろうぜ」
それは当たっているような気がする、俺は格闘ゲームやシューティングなんかよりそういうゲームの方が好きでよくやっていた。
「それで能力の発動条件はあるんですか?」
「そりゃあ決まってる、俺様に発動させてくださいってお願いすることだぜ?」
「なんだそれ、すげぇめんどくさいじゃねぇか。どんなにピンチでもお前にお願いしなきゃ駄目だってのか?」
「その通りだぜぇ、能力を発動させるためのキーは俺様の中に入ってんだ、それがなきゃ絶対に発動しねぇぜ。ハハハッ残念だったな」
「メンドクセェがしょうがねぇか。能力使うにもちゃんと考えなきゃな、使うかもしれないとなったら初めから発動してからやるしかないな。」
それにしても不便な能力だ、アニメやゲームなら主人公が考えたり、能力名言っただけで能力が発動したりするのに、これは能力使うにも考えなければならないな。
俺の考えてるのを見計らったのか、カズが続けて話し出す。
「それじゃあ最後に、能力を使った時の代償って言ってましたけどいったいどんなものなんですか?」
「それは個人の能力によって違げぇな、原則的に強い能力ほど代償はでけぇが変態野郎の能力はそこそこの力だから代償もそこそこだな」
「それで……ゴメンゼン、代償の事聞いても大丈夫?」
「ああ大丈夫だ、俺も聞こうと思ってたんだ。みんなで一緒に聞こうぜ」
こんな時にも気を遣う奴だなカズは、俺は元から聞くつもりだったしみんなに聞いてもらった方が何かあった時に対処できる幅も大きい気がする。
それに自分一人で抱え込むよりみんなに聞いてもらった方が安心だ。
「そんじゃあ話してやるぜぇ、お前の代償は……」
エスリン12が言いかけた時に突然扉が開かれ、バンッという音が鳴った。
それで俺たち全員は入口の方に振り向いく。
「おう、お前ら!!……ってそこにいんのは妖精か?始めて見たぜ」
入ってきたのは騎士の中でも浮いていたオッサンことロドリゴだ。
俺も今更ながらに名前を思い出した、でももうオッサンでいいよな。
「オッサン!!今重要なこと話してんの!邪魔しないでくれる?」
「おお、すまんすまん、隊長と副隊長がお前らが大丈夫そうだったら下にある、入口ホールまで来てほしいっていっててな。それで呼びに来たんだが……なんか邪魔しちまったようだな」
「いや……大丈夫だオッサン、おれ達もすぐ行くからさ」
「おう、そうかじゃあ俺は先に行ってるからな」
そう言ってオッサンはさっさと扉を開けて出ていってしまう。
なんか話してもらう空気じゃなくなった、それに……やっぱり聞くのは怖い気がする。
「なんか呼んでるみたいだし、先にそっちを済ませようぜ」
「おい、いいのかよぉ聞かなくてもよぉ?」
「いいのいいの、ほら早く行こうぜ!」
そう言って俺は痛む体に鞭打って強引に立ち上がり、みんなから逃げる様に扉を出たのだった。
読んでいただきありがとうございます。
次の話は幕間を予定しています、本筋のゲームは少し先になると思います。