第12話『中間層 迷宮角鷲亭』 第1節
誰かの呼ぶ声が聞こえる。
体はベッドか何かに横たわっているのだろう、柔らかい物に包まれている。
体を動かそうとするも、何故か指以外ほとんど動かない。
そうしているうちにも俺を呼ぶ声が絶え間なく聞こえてくる、だけど体が動かない俺にはどうしようもない。
先ほどまでの事は何だったのだろうか?もしかしたら夢だったのではないのだろうか?金色の怪物に喰われ、変な奴に会い、ダンジョンに入らされ、変な奴らと協力関係を結んだり、こう考えてみれば夢であってもおかしくないくらい現実離れしている。
また呼ぶ声が聞こえる、何度も、何度も、何度も……
「うるせぇよ!!何度も言わなくても聞こえてるっつうの!!!」
余りのうるささに跳ね起きて叫んだため、体に痛みが走り顔をしかめ背中を丸める。
酸欠の中、変な能力を使った影響だろうか、体の節々が痛み思うように動かなかった。
なんとか痛みをこらえて前を向くと、涙目のアズの顔と笑顔のカズの顔があった。
それを見て俺はすごくホッとした、意識が途切れる前のカズの手に引っ張られて助けられたがその後どうなっていたのかはわからなかった、二人とも助かってくれてホントに良かった。
「ちょっとゼン!ホントに心配させんじゃないわよ!!」
そう言いながらアズは抱き着いて……いや違うもうこれは突進、相撲で言うならぶちかましラグビーでいうならタックルだ。普段なら躱せるが俺は今動けない、甘んじて受けるしかない。
「へぶっっ!?」
俺はベットに叩きつけられ、思わず変な声を上げてしまう。
アズの頭が俺のみぞおちに突き刺さり呼吸困難に陥り、しかも両腕は俺を締め上げる様に絡みついている。
「ちょっと何とか言いなさいよ、あんたはあの部屋をクリアしてからずっと寝てて、あたしとカズでずっと看病してたんだから!礼の一つでもあってもいいんじゃない?」
「うぐぉっ。
「ほら何言ってるのかわからないわよ、もっとちゃんと喋りなさいよ。」
「アズ、もうやめてあげようよ、さすがにカズが死ぬんじゃないかな?」
「へ?ああホントだ」
「ゴホッゴホッ、アズてめぇ本気で俺を殺す気かよ!!」
「ゴメンゴメン」
そう言いながら右手で頭をコツンとやりながら舌を出している、なんだそれお前殴られてぇのか?可愛く……は少しはあるんだが今は怒りとイラつきが勝っている。
「ゴメンゼン、アズもかなり心配してたんだよ。僕たちを助けてここまで運んで治療してもらったまではいいんだけど、一人だけ目を覚まさないからさ」
「そっかそんなに心配してくれてたんか、なんかうれしいやら恥ずかしいやらで複雑だな」
「ちょっとカズ変な事言わないでよ、こんな奴別に心配なんてしてないわよ」
「いやいや、お前自分で心配してたって言ったんじゃねぇかよ」
「うぐっ、そ、そう!アルフレード様があんたが目を覚まさないからそのことを気にしていたから。そのことを私が代わりに言っただけよ」
なんだこのツンデレは、今更そんなキャラ出されてもこっちは戸惑うだけなんだが。
だが二人とも心配してくれていたのはホントだろう、それだけでなんだか嬉しかった。
「それでなんだけどアルフレードさんが言っていたんだけど、ゼンの動きが突然素早くなって僕たちを軽々と運んで穴に落としていったって聞いたんだけど何があったの?」
「ああ、それな。う~~んなんて説明すべきか……」
「ああ!思い出した、あんた助けるならもっとうまく助けなさいよ、あんたが穴の中におろしたときに頭ぶつけてコブが出来てたのよ、謝りなさいよ!」
さっきまで泣きそうだったくせに、今度は謝れとか言い出しやがった。
しょうがないだろうがあの時は時間がなかったし、行動の設定の仕方もよくわからなかった。助けられただけでも感謝しやがれ。
「サーセンサーセン、それでな簡単に説明するとだな。酸欠であ、もうやべぇしぬってなった時、いきなり心の中にエスリン12とかって奴の声が聞こえて、で俺の隠されたパゥワーがさく裂してみんなを助けれたってわけなんだよ」
「カズこいつヤバいわ、酸欠になったから頭がやられちゃったんだわ」
「うんそうだね、もうちょっとゼンには休んでもらった方がいいのかもしれない」
「ちょっと待て、俺が嘘言ってると思ってるのか?全部事実だから!助けてもらったお前らが一番わかっているだろ」
「それでもねぇ」
「ねぇ」
なんだよお前ら仲良しかよ、なんか腹立つんだけど。
でもこいつらに信じてもらうには証拠が必要なようだ、となれば一番の証拠を呼び出すしかあるまい。
「エスリン12!!エスリン12聞こえてるんだろ!出てきてくれ!」
「カズこれは本格的にヤバいかもしれないわね、また宿屋のおねぇさんを呼んで回復の魔法をかけてもらうしかないわね」
「うん、それに心のケアも必要かもしれない」
「うんちょっと待ってね、マジで俺は病気じゃないから。おい聞こえてんだろ!今出てこなかったら、クリアしたときにバロールにお前がさぼってったって言ってやるからな!」
『ああん?言ってみろよこの野郎、その瞬間にてめぇの顔ぐちゃぐちゃにつぶしてやるからなぁ』
バロールの名前を出した途端に出てきやがった、こいつはバロールの下僕かなんかなのか?
まぁなんでもいい出てきたからには能力の事を説明してもらおう。
「なにこれ心の中に声が聞こえるんだけど、なんか気持ち悪い感じ」
「これって念話かな?すごい、ホントに心に直接聞こえるんだね」
どうやら2人にも聞こえているようで、しきりに驚いて周囲を見ている。良かった、ここで俺しか聞こえないとかになったら、マジで病院送りにされる。
「な!ちゃんといるだろ?おい、エスリンお前が知ってる能力の事この二人にも話してやってくれ」
『ああ?気安く俺様に話しかけてんじゃねぇぞ、なんで俺様が懇切丁寧にてめぇらに話してやらなきゃいけねぇんだよぉ』
「いいじゃねぇか、お前サポート役なんだろ?だったら教えてくれてもいいじゃん」
『ハッごめんだね、あんときはしょうがなく力を貸してやったんだ、てめぇみたいなクソガキにいつでも力を貸してやる義理はねぇよ』
「そうかよ、あ~あ助けてくれたら、今度バロールにあった時にお前はすごい頑張っていたって言おうと思ったんだけどな~仕方ねぇか~」
こんな安い挑発には乗らないだろうな、しょうがない別の手を考えて……
『しょうがねぇな~俺様が懇切丁寧に説明してやるかぁ、ホントは嫌なんだけどなぁ』
なにこいつ!ちょろいよかなりちょろいんですけど!
もしかしてバロールって名前出せば何でも聞いてくれんのか?これは使うしかねぇな。
『おい、聞こえてんぞぉ、今回だけは特別だってのいつもはやんねぇんだよ。それじゃあいいか、ちょっと待ってろ念話で多人数と話すのはめんどくせぇんだ、実体化して今出てくからよぉ』
その声が聞こえて来ると、スイッチがオフになったような微かな違和感を感じた。
実体化なんてできるのかだったら最初からすればいいのに、そう思いながらエスリンが出てくるのを待つ。
「いや~ほんと良かったわよ、ゼンが脳内彼女と話をするヤバいやつになったんじゃないかと不安になったわよ」
「僕は酸欠で脳組織が壊れるっていうのを聞いたことがあるから、それかもって思ったよ」
「お前らな……それにしても俺たち酸欠状態に結構なってたんだろ?なんで体のどこにも異常がないんだよ、普通もっと重体になってないか?」
「それはもうこの宿のおねぇさんのおかげよ、えっと名前は……」
「アステリさんね、そのアステリさんはこの迷宮の運営側の人間で中間層のこの迷宮角鷲亭を管理している人で、古代魔法の回復魔法で参加者全員を直してるんだって」
「ここ宿屋の中だったのか……」
そういえばと思い改めて辺りを見渡す、ベットが自分のを合わせて2台に机とその上にランプが一つそれから窓の外は明るい光に包まれていて、午後の陽気のような穏やかさを感じた。
窓?ここは迷宮の中のはずで、しかもかなり明るくぽかぽかしている。
「なぁなんでここ迷宮の中なのに……」
「おらおらぁ、出てきてやったぞ、敬え崇め称えろこの野郎どもぉ!!!」
その聞き覚えがある声を聴いてベットのヘリを見てみるとそこには、ゴシックロリータを着こなしている手の平ほどの黒髪の縦ロールに金眼の妖精が座っていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
なるべく同じ時間に投稿できるようにしますので、よろしくお願いします。