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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第一層 空中庭園攻略編
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第11話『第1階層 空中庭園』 第6節

またまた長くなってしまいました。

 頭の中には今の状況にはそぐわないような明るく楽し気な少女のような声が聞こえてくる。


『おい、聞いてんのかよ!何とか言ったらどうなんだよ、あぁん?』


 そういった声が聞こえてくるのだが、呼吸ができずに今にも死にそうな状況で答える余裕なんてあるわけがない、しかも少しこの声は偉そうでムカつく。


『おら今はお前の心の中に話しかけてんだよ、声なんて非合理的なもので話しているわけじゃねぇんだよ。』


 (わかったよ、わかったから俺の頭の中でキイキイ叫ぶなこっちは死にそうなんだ)


『へっそうかよ、いい気味だぜ。だがよこのまま終わっちまうのも詰まらねぇな。だからなお前が望むなら生き残るための力をくれてやっても良いんだぜ?』


 (そんな都合のいいことがあるのか?ピンチになったら新たな力に覚醒するなんて)


『ハッお前がどう思おうがかまわねぇが実際そうなんだ認めろよ。それによぉお前バロール様の言葉忘れたのかよ。』


 そうバロールが俺に最後に言い放った言葉、”君たちのこれから使う体には色々改良を施しておいた”をやっと思い出す。今まで忘れていたがもしかしたらバロールはこうなることを予見してたのかもしれない。


 (それで結局力って何なんだ、今の状況でも役立つものなのか?)


『おう役に立つぜぇ、つうかこの能力がないとこのピンチは乗り越えられねぇだろうなぁ?』


 (それじゃあその力を使うしかねぇだろうが、早くやってくれ)


『待て待てそう焦るんじゃねぇよ、バロール様の指示でこの能力のデメリットもちゃんと教えてから力を使わせろと指示をくださってるんだからよぉ』


(デメリット?そんなものあんのか、MPが減るとか回数制限があるとか使うとダメージを食らうとかか?)


『このゲーム脳が!ゲームを基本にしか考えられねぇのかよ!そんな生易しいもんじゃねぇよ、お前がお前じゃいられなくなるそんなデメリットさ、それでもお前は能力を受け入れるのかよ!』


(ああ受け入れてやるよデメリットでも何でもさ、このままじゃどうせ死ぬんだ、だったら受け入れる以外選択肢ねぇだろ!早くしろよ!!)


『ハハッ待っていたかいがあるぜ、こんなにとんとん拍子に進むとはな!!』


(うるせぇな、早くしろよ!こんな話している間にも全員死ぬかもしれねぇんだぞ、そしたらお前だって困んだろうが!!)


『へいへい、わあったよ。じゃあいくぜ!ミューテーションプログラム展開、……展開完了。プログラム実行、……実行完了。最適化処理実行、……実行完了。アバターへの適用作業を開始……50%完了……80%完了……100%完了、ミューテーションプログラムの実行をすべて完了、アバターの再起動を開始します。3……2……1』


 その機械的な音声が聞こえたかと思うと、俺の視界は暗く昏い深い深淵に落ちていった。




 そして突如として目を覚ます、覚ましたのはいいのだが……


(おいどうなってやがる、なんで俺が俺自身(・・・・・)を見下ろしてんだよ!聞いてんだろ答えやがれ……えっとお前名前なんていうの?うっかり聞くの忘れてたけど)


『ぎゃあぎゃあうるせぇぞ、俺様の名前はエスリン12(トゥエルブ)だ。エスリン様でもトゥエルブ様でもどっちでもいいぞクソ野郎!』


(なんか変な名前だな~まぁいいや、それで俺はどのくらい眠ってたんだ?この状況は何だ?俺はどうしたらいいんだ早く答えやがれ!!)


『質問ばっかしてんじゃねぇ殺すぞ、まぁしょうがねぇてめぇらのサポートも一応俺の仕事だ答えてやんぜぇ、まずてめぇを再起動するのに2秒かかった、だから意識がなかったのは2秒ほどだな今の状況ぅ?見りゃ分かんだろ幽体離脱って奴だ、お前のようなゲーム脳の奴でもわかるようにで説明してやるとサードパーソン・シューティングって奴だぜ』


(はぁ?なんでここでゲーム用語が出てくるんだよ、まあいいけど。それにしてもこのエスリン12って奴は謎が多そうだ、バロール様とか言ってたし)


『おいおい、聞こえてんぞぉ』


 心の声を聴かれるというのはかなり嫌なもんだ。

 それよりもサードパーソン・シューティングとはな、日本のアクションゲームの大半がこの形だ、第三者の視点でキャラクターを操作し敵と戦ったりする例えば敵の大軍を相手に武将が敵を倒しまくるあれだと思ってくれればいい。

 それが今の俺の状況だ。


(でもただ第三者の視点で動かすだけでそんなのが意味があるのか?)


『ハッ何もわかってねぇな、よく考えてみろやぁお前の霊体とお前の体はいわばゲームのプレイヤーと操作するキャラクターの関係だぜ。キャラクターがダメージを負おうがプレイヤーには全く関係ない、しかもキャラクターはどんなプレイヤーの無茶な操作にもこたえるんだぜ?全然ちげぇじゃねぇか』


 言われてみればそうだ、普段自分がしたくても無意識の内にリミッターをかけていたことが無理やりすることができるのだ、いつもよりも何倍も肉体を酷使できる。

 だけど今の状況では意味がない、今の体は酸欠でまともに動かすことすらできないのだ。いくら酷使できても動かなければどうしようもできない。


『ハァこいつホントダメダメな犬の糞みてぇやつだな、俺様がそんだけしかしないと思ったのかよぉ、ちゃんと肉体自体のスペックも向上させて、自己再生能力もおまけでつけといたぜぇ。無酸素状態でも10分は戦闘できるぐらいにはなってるはずだぜ』


(それは至れり尽くせりだ、だけどさっきから体を動かそうと頑張ってるんだがピクリとも動かないんだがなんかの不具合か?お前ちゃんとやったんだろうな?)


『俺様に向かってお前呼ばわりすんじゃねぇ!いいか、イメージしろ!!お前が大好きなゲームだ、そしてキャラクターを動かすにはコントローラーが必要だ、そうだろぉ?そしてコントローラーのケーブルをお前のアバターに接続しろ。それでなにもかも上手くいくはずだぜぇ』


(ああ分かったやってやる、やってやるとも俺には今はそれしかできない、そして今度こそみんなを救助けるんだ)


 俺はイメージする、まずコントローラーだ十字キーに四つのボタンとアナログスティックにセレクトスタートボタン、そしてLRボタンというニホンでかなり普及しているコントローラーをイメージする。

 よし!出来た!今俺の掌の中には黒く機能性を追求した形をしたコントローラーが握られている。

 後はコントローラーのケーブルを繋ぐだけ、イメージする想像する、するとコントローラから光る管のような物が現出しそれがするすると伸び、壁に背中を預け座り込んでいる自分の体へとケーブルを伸ばす。

 カチリとした音がしたのかしてないかわからないが、自分の体の肩甲骨辺りにその光りの管がつながった状態になる。これで大丈夫なはずだ。


『フン、やることが何もかもが遅せぇ。だが上出来だ!俺様はいったん休止状態に入る、後はうまくやりやがれぇ』


ああこれなら何とかなりそうだ、ありがとうなエスリン。


『ハンッ、礼を言ってる暇があるなら、早く行動することだぜ。脳内での念話は現実世界の100分の1の時間で済むとはいえ確実に時間は経ってるんだ、早くしないと全員死ぬぜぇ。ハハハッそれじゃあな、まあまた近いうちに合うことだろうぜぇ。』


 そうした声が聞こえたと思うと突如として何も聞こえなくなる、口が悪く他人を見下すような事をいうような声だったが聞こえなくなるとなんだか寂しい。


 だが今はそんな事を言っている場合ではない、今は一刻の猶予もない。

 いま霊体のように空を浮遊している俺は簡単に全体を見渡すことができた。


 先ほどまでに部屋の中には17名の人がいた、アルフレードとイザベラさんにオッサンを入れた騎士隊10名、ハーフリング族の4名、俺達クイズ部の3名の計17名だ。


 しかし先ほど幻覚魔術が解けたために中央に穴が現出し、中央部にいた騎士4名が穴の中の階段の上に横たわって気絶しているようだった。そしてアルフレードはイザベラさんを肩に担ぎながら這うような速度で階段に向かっている、この6人は大丈夫だろう問題は残りの12名だ。


 カズとアズは俺の両隣にいて、今の俺の力を試してみるには丁度いい、ハーフリング族も一つの所に固まっているし体も小さいから運ぶのは簡単そうだ。しかし残りの騎士たち6名は部屋の中にてんでバラバラに横たわっているのだ、間に合えばいいが。


 俺はまず自分の体、さっきエスリンが言っていたようにアバターと呼ぶことにする。アバターの動作を確かめる、十字キーを押すと座っている体が動き出し立ち上がり一歩前に進んだ、ホントにまるでゲームみたいだ。

 

 でもそこから先が問題だ、普通のゲームなら最初から動作のボタンを設定してあるが俺は何もしていない、エスリンにちゃんと聞いとけばよかったと後悔したが、よくよく思い出してみればイメージが大事だと言っていたつまり動作の設定もイメージ次第なのだ。


 俺は右側の四つある丸いボタンに右から時計回りにABCDとして動作設定をつけていく。

 今必要な動作は担ぎ上げる、担ぎ下ろす、ものをどける、あとはジャンプぐらいだろうそれだけあれば今のところは何とかなりそうだ。


 Aボタンを担ぎ上げる、Cボタンを物をどける、Dボタンを必要かわからないけどジャンプボタンに設定し、Bボタンをそれぞれをキャンセルするボタンに設定する。まずはこれで何とかやっていこう。


 まずは隣にいるアズに十字キーで歩き近づきAボタンで担ぎ上げる、普段の俺なら担ぎ上げるのに時間がかかってしまっていただろう、けど今はスムーズにまるで自分の体が機械になってしまったかのように一連の動作をスムーズに行っている。


 アバターはアズを担ぎ上げ今はお姫様抱っこの状態で前に抱えている、当たり前のことだけど重さや触感なんかは感じないホントにゲームのキャラクターを操作しているのと同じだ。


 そのままアズを抱えたまま中央の穴を目指して歩く、その歩きも軽快だ何も担いでいないのと同じ速度で歩くことができる。そのまま歩き穴の中に降りてBボタンで階段の上にアズを下ろす。結構乱暴に下してしまったがダイジョブだろう。

 というか繊細な動きは難しいのだ設定した通りの動きしかできないのだから。


 俺はすぐさまジャンプで穴の外に出る、そのジャンプだが2mほども飛んでしまう、こんなに飛ばなくても上には登れるのだが後で設定しなおした方がいいかもしれない。でもいまは他の人を一刻も早く階段に移動させなければそう考え即座に移動する。


 それからは順調にカズやオッサン、ハーフリングは二人ずつ運んでいく、まだ時間はあるのだろうかタイムリミットが知りたい、そう思っていると視界の右上端に数字のカウンターが表示される。


 残り時間はあと三分ぐらい残りは4人ほどだ、急がなけれと思い、操作に慣れてきたアバターを動きのロスがないように動かして、なんとか3人を階段に運び終えると残り二分だ。これは楽勝だと思ったが残り1人が難題だった、かなりの巨漢だ身長は190cm近くあり体重は100kgを超えていそうだ、腕に抱えるのは無理だろう俺は少し迷った末動きの設定を変えることにする、足をつかんで引きずるようにする。


 だがかなり時間がかかる、摩擦などで動きが制限されてしまっている、時間は刻々と過ぎていく。


 残り30秒で何とか穴の縁まで持っていき、こちらで少し押してそのまま本人の体重で穴の中に落とす。


 なんとか間に合った、後は俺のアバターが穴に落ちれば終わりだ、残り10秒そう思って穴に落ちようとするもアバターがなぜか動かない、どうした?何が起きたんだ?あともうちょっとなんだあと一歩だけそう一歩なのだ一歩だけ動けば。


 10……9……8……7


 目の前が暗くなり始める、体があってこその霊体、体がない霊体はそれを維持できない、体は器であると共に霊体をつなぎとめる鎖だ。肉体がなくなれば俺は消えてしまうだろう。


 動け動け


 6……5……4……3


 ああもうだめだ俺はここでゲームオーバーかぁ、まぁ楽しかったしいいかなぁ。



 いやダメだそんなの嫌だ


 駄目だ駄目だダメだ駄目だ、俺は生きたい、生きてこのゲームをクリアして……


 2……



「ゼン早くこっちに!!!」


 手を伸ばしてきたのはカズだった、そういつでも手を伸ばしてくれるのはカズだ、いつも助けてくれるのはカズだった。


 1……


 俺はカズの手に引っ張られて穴の中に落ちていき、同時に目の前が暗くなっていく。


 よかった……みんな……助かった。


 0……



読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字の指摘、感想、ブックマークなどいただければ嬉しいです。

これからも少しずつ書いていきますので、よろしくお願いします。

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