第9話『第1階層 空中庭園』 第4節
俺とカズはニヤニヤ笑い合った後にイザベラさんに話を聞く事にした。
「すいません、イザベラさん詩の続きを教えてもらってもいいっすか?」
「わかりました、ですが私には解読できない部分も多かったのでそこはそのまま飛ばして、口頭で伝えさせていただきます」
「はい、大丈夫です」
「では……」
そういうとイザベラさんは書き留めていた羊皮紙を取り出して読み上げる。
「石の□舟
青の中を□□□
命の□□□流れ出て
人々□眠りにつく
行く手□太陽が□□
どこにも行けず
水の□□に□□唄を
火の□□□礼賛し
□□□太陽は□を閉じる
こんなところでしょうか、まだ二行ほどありますが」
「十分です。ありがとうございました」
詩を口頭で歌い上げたその声は透き通るように響き渡り、部屋にいる全員が聞き入っていた。
かくいう俺も聞き入っていたので、カズトが代わりに答えている。
「それでどうですか?謎は解けましたか?」
「そうですね、僕の予想では大体の所はわかりました。」
「本当ですか!?早く聞かせてください、早く!!」
先ほどまでは見下すように冷たい感じで見下ろしていたイザベラさんだったが、今度は今にもカズを掴みかからんとする勢いで身を乗り出している、若干怖い。
「ちょっと待ってください、まずはゼンが分かったことを話しますから」
「あなたも何かわかったのですか?話してください早く、話しなさい早く!!!」
待ってちょっと顔が近い、やばい俺のトラウマスイッチが刺激される!なんで話を俺に振るんだよ。
「ほらゼンなんか気づいたことあるんでしょ話してよ。」
「あの……えっと……その、いいんだけど、すいませんけどあの離れてもらえないでしょうか……。」
俺がそういうとイザベラさんはハッとした顔をしてすぐに2、3歩離れ片目にかかったモノクルを指で押し上げる。
「申し訳ありません、私としたことが取り乱してしまいました。どうぞお話しください。」
これで俺は何とか気を取り直すことができた、カズトとアズサは俺の方をみて腹を抱えて笑っている、なんだよお前らいつか覚えてろよ、お前らの嫌がることを絶っっっ対やってやるからな。
ともかく俺は気付いたことを話さなければならない。
「オホン、それじゃあ俺の気付いたことを話すぞ。まずはこの部屋の中を見て何か足りないものがあることに気付いたんだ」
「は?足りないものなんかある?つかさ逆にこの部屋って何もないじゃん青空と石の床ばっかじゃん」
アズの疑問に一々答えていたら日が暮れてしまう、適当にはぐらかして話を先に進めよう。
「それってお前に必要なものってことだろ、今は関係ねぇの。とにかく空に足りないものそれは雲だってこと、どんな空でも少しも雲がないってのはなんかおかしいだろ?」
「そうですか?この部屋を作った人間がただ単に忘れたという可能性は?」
「その可能性もある……と思います、でもさっきのイザベラさんの詩の内容で確信したんだ……です」
どうもイザベラさんと話すときはしどろもどろになってしまう、なのでイザベラさんの方に視線がいかないように気を付けながら話そう、そしたらちょっとはましになるだろう。
俺はひとつ咳払いをして再び話し始める。
「それで俺が一番気になったのは『太陽は□を閉じる』の部分だな、太陽を閉じるってのは太陽の光が遮られるってことでそうなるのは日が沈んだときか、雲で太陽が覆われたときじゃないか?」
「なんか無理やりじゃない、ホントにそんな意味なの?」
「ぶっちゃけ言っちゃえば確実にそうだとは言えないけど、アズは他に何か意味があると思うのか?」
「う~~ん、まぁ思いつかないけどさぁ」
「だろ、だから思いつくまではこれを仮定にして話を進めるぞ」
「はいはい、わかったわよ。好きにすればいいでしょ」
そういいながらアズサは口を膨らませてそっぽを向く、なんだそのあざとくしてますよと言わんばかりのポーズは、なんかイラっと来る。つうかさっきからアズサのせいでちっとも話が進まない、もういかげんだまっててくれないかな。
そんなことを考えアズサを睨んでみるが、アズはまったく気にしていない。とにかく話を進めよう。
「それでだ、さっきバイロンが火を焚こうとして、木が湿気っていたのか煙を出していただろ?その煙を見ていたら明らかに煙の動きが変だったんだ、まるでそちらの方に煙がたまるように仕掛けがあるみたいだった。それでその時に少しだけ周りの景色が一瞬だけ変わった気がしたんだよ」
「それでつまりどういうことなんですか?」
「煙はただの燃えカスだから無理だったわけ、でも水蒸気とカスの塊なら仕掛けが反応してこの幻覚魔法も解除されるんじゃないかなと思う。そうつまりこの部屋の中で雲を発生させて太陽を隠すことが、クリアの条件じゃないのかというのが俺の結論だ」
俺の話を聞いたイザベラさんはなるほどとつぶやきながら何かを考えているようだ。
そして考えを終えたのか今度はカズの方に視線を移す。
「それであなたも同じ意見ということでよろしいのですか?」
「はい。僕も過程は大分違いますが、雲を発生させることというのがクリア条件というのは一緒です」
「そうですか、それで雲をどうやって発生させるかは考えついているのですか」
その問いかけにカズは渋い顔をする、俺は雲を発生させることまで考えてなかったので、どうしてカズが渋い顔をしたのかはわからない。だけど普段そんな顔をなかなかしないカズがそんな顔をするのだ。何かかなり厳しい条件があるのだろう。
「はい、考えはありますでもその前にイザベラさん、魔法で雲を発生させたり、霧を発生させることはできないんですか?」
「それは難しいですね、近代の魔法は四女神時代に比べてかなり劣化しています。例えば初級の水魔法で
石の投擲と同じくらいの速度でのコップ一杯の水の生成、上級でも弓の投射ぐらいの速度での樽一杯の水の生成でしかありません。色々応用して熱湯や水壁を作ったりしますがそれだけです。四女神時代の魔法は天候を操り自然を支配していたといわれています。ですので私も上級の水魔法は使えますがそれ以上は無理です、他の皆も同じでしょう」
「そうですか……じゃあかなり危険な賭けになる可能性があります」
「賭けですか……であるならばやはりアルフレード様の裁可を仰がなくてはなりません。ですがその前にどのようなことをするのか聞いてもよろしいですか?」
そうカズに聞いているイザベラさんの顔は真剣なものだ、今ここにいる全員の命がこの迷宮で達成するべき使命がかかっている。そんな中でのことだ真剣にならざる負えない。……だが
「この部屋の空気を抜くんですよ。」
そう答えたカズの顔は悪戯をする子供のような顔で、この状況を楽しんでさえいるようなそんな気さえする無邪気な笑顔だった。
読んでいただきありがとうございます。
これからも頑張って書こうと思いますので、よろしくお願いします。