地下図書館と小さな小さな賢者
元はふと思いついた連載物の導入部にするつもりだったので短いです。
普段歴史カテゴリで書いて、散々歴史をクラッシュさせている作者が書く内容では無い気もしますが……。
この国の帝城を遥かに超えるであろうその広大な地下空間には、歴史と言う名の全ての叡智が集っていた。
何年も、何代にも渡って「史官」に任じられてきた賢者たちが集めたこの帝国の全てだ。
魔法も魔導も政治も事件も――それこそ、この国で生きていた人間で載っていないのではないのではないかという程の数の人名もこの地下空間には残っている。
史官とは歴史を記する者。過去を学び、今生きている時代の全てを知り、そして未来へと導く者。正しき歴史を刻むために、時の皇帝にすら刃向い、何人もの犠牲者を出しても曲げぬほどの覚悟を以ってこの世のすべてをこの空間に遺してきた。当然のことながら、その中にはこの世に出してはいけない程の血なまぐさい事件の記述や、禁術の記載なども多数残っていた。
混沌としたこの空間で、静かに次の頁を開く音がする。おおよそ本を読むには向かない程の昏い空間に仄かな光が灯り、そしてまたこの空間に似つかわしくない程幼い少年が本を読んでいた。
たとえそれがこの帝国の闇の深さを示す史実に目を背けることなく、禁術の甘美な誘いに魅かれる事無く次の頁を開く。
何度も、何度も、何度も。
僅か10にも満たない歳で叡智を究めようとも、魔導の神髄に触れようとも次の頁を開く。
かつてこの書を記した賢者たちは行間で教えてくれる。
この世は何と醜いものかと。
だが、それでも記する事を止めなかった彼らは同時にこうも教えてくれる。
この世はなんと素晴らしいものかと。
空を行く龍の群れ。遥か東の砂漠の月。北の雪原に沈まぬ太陽。南の果てしない海。西の古代遺跡に眠る想像を絶する遺産の数々。笑う人。踊る妖精。喝采を挙げるドワーフ。歌うエルフ。誇り高き偉業。自然の奇跡。
少年は彼らの記した見聞録を読むのが一番好きだった。まだ見ぬ光景や溢れんばかりの日常の喜びの記述が最も好きだった。そしておそらくは、かつての賢者たちも。
だからこそ、少年が読むその手は止まらない。
いつか、自分もこの空間の一部になる。
その時は――……。
過去から学び、その知識を駆使し、そして記述し、望むべく後世に遺すであろう。
この世はなんと素晴らしいか、と。
本編?うーん……ウケが良かったりリクエストが多かったりしてから考えましょう。




