殺し屋の詩
―殺し屋になった僕は今でも詩を書いている―
―昂った夜に、脳みそを休ませる前に―
―ちょっとだけ心を休ませるために―
モノクロの洋館に
真っ赤な口紅だけが横たわる
マグロの死んだ目はいつものように斜めを向き
大海原を泳いでいた頃の記憶は宙を泳いでいるだろう
なぜ貴方はそこにいるの?
なぜ私はここにいるの?
現実を直視するのはやめた方がいい
あなたの魂と体を紡ぐ糸は既に無いのだから
後悔と懺悔の世界から解き放たれたのだから
さあ自由を謳歌しなさい
さあ新しい世界に旅立ちなさい
ぐずぐずしてると闇に飲み込まれるよ
―今日の詩は80点、この気分でこの詩は上出来だ―
―でも最後の1行は余計かもな―
これでチート無双になったな
異世界ならお前でも勇者になれるよ
俺にお前の女をよこせ
俺にお前の金をよこせ
夢から覚めさせてやったのだから
俺に感謝しろ
俺に跪け
その目はなんだ
恨みか
逆恨みだな
こっちを見るな
これは夢だ
落ち着けよ
何も悪いことはしてないだろ
幸せを分けてあげたのだから
本当は分かってるだろ
お前の価値はこの世には無いことを
価値ある世界に向かいなさい
―これは初めて仕事をした時の詩だ―
―全くもって最悪だ、これを公表したら酷評されるだろう―
―きっと、あの頃は綺麗なやり方ができなかったんだな―
―そういえば初めて書いた詩はどこにいったかな―
一本杉で殴られた
縄張りなんて誰が決めたの
初めて自分でカブトムシを捕まえた
次は3代目盛り場に行ってやる
秘密だってみんな知ってるよ
お前が自慢げに場所を話すから
今度は朝の4時に行ってやる
全部捕まえてカブトムシの王国を作るんだ
お前の王国は僕が全部壊してやる
嫌なら僕に跪け
嫌なら僕に命令するな
殴られる痛みを教えてやる
頬より目が痛いんだ
目より鼻が痛いんだ
鼻より心が痛いんだ
傷はそのうち治るけど
心はいつ鎮まるのかな
親には言えない
きっと先生に言う
パパママ知ってる?
先生は何もしないよ
裏でもっと虐められる
姉にも言えない
きっと悲しむ
妹にも言えない
きっと泣いちゃう
僕が我慢すればいいんだ
あと2年だけ
中学は私立に行こう
友達は何人できるかな
親友を作ろう
ケンって呼んでくれるかな
賢治でもいいや
僕も名前で呼んであげるよ
―センスは無いけど素直でかわいい詩だな―
―そうだ、寝る前に、あの詩を読み返してみよう―
青く透き通る風の中でお前は言った
ここで貴方と暮らしたい
紅く打算的な情熱は遥か彼方へ行った
その残り火だけを刻み込んで
黄色い糞みたいな世の中で俺には金が要った
記憶を洗い流すために
白い無機質な空間であいつは俺の心に押し入った
何を取り戻せと言うんだ
黒く歪んだ障囲の中でお前は逝った
その媚びた目は俺を惑わせ続ける
―最初は笑っちゃったけど、今思い返せば味がある―
―結局僕の人生もこの詩と同じだった―
-視界からは一切の色が消えた-
-モノクロの景色の中で-
-薄れゆく意識の中で-
-お前との思い出だけが色づいている-
-もう自分に嘘は吐かなくてもいいんだな-
男は大量の血を吐き微笑みながら逝った。