間話 ー記憶の欠片ー
設定などはストーリーに合わせて随時更新する予定です。
『あんたイかれてる』
『お前はもう壊れてんだよ!』
『君に人の心は分からない、一生ね』
『誰よりも平和を願った貴方自身が、平和を壊しているの』
『もう......頑張らなくてもいいんだよ?』
かつて彼らは口々にそう言った。
ああそうだ。俺が壊れている。おかしい。狂っている。
そんなことは俺自身がよく知っているんだ。
どんなに責められてもいい、全てを俺に押し付けたっていい。
だからこそ、俺は地球を、人間を救おうと戦い続けた。ただの自己満足かもしれない。ただの傲慢かもしれない。
俺にとって、人が理不尽に殺されていくのが許せない。それを見過ごす俺自身が許せない。
♢♢♢
『矮小なる身で星々の神に楯つくなど片腹痛い』
人間を嘲笑う神。地球を破壊しようとする敵だ。
俺は構わず術式権限の最高位に位置する権限を解放し、発動する。
「術式権限・超星撃滅」
目の前に暗き宇宙空間を紅蓮に照らす球体が現れる。
この球体に込められた概念は触れたもの一切を無に帰す。滅ぼすというものだ。
神と言えど例外ではない。
『馬鹿な! なぜ貴様が権限を!? ......まさか地球の神が、いやまさか!』
火星の神は動揺し、取り乱す。
だが、関係ない。害虫は疾く排除するのみ。
「......消えろ」
瞬間、音もなく火星の神は消滅。残るものなど何もない。
殺して殺して殺し尽くす。
消して消して消し尽くす。
人間を害する者は神であろうと容赦しない。
問答など無意味。全てを敵に回しても構わない。
正義や悪などという世迷いごとなんぞ信じはしない。
「俺は救う」
残された願望や感情は殆どない。
あるのは【救い】のみ。
記憶は既に九割九分が消えるほど磨耗し、人としての心はとうに崩壊している。
♢♢♢
水星の神、金星の神が暴走した俺を止めようと犠牲になった。
彼らは地球の助力として大いに活躍していたのだ。
それを俺は殺してしまった。
地上に戻った俺の姿は酷いものだったいう。
元は黒かった髪の毛は真っ白になり、目からは色素が失われ、灰色になっていた。表情は抜け落ち、人であるのかすら分からない。
「兄、さま」
誰だろうか。
「ごめんなさい、兄さま。私が両親を説得できていれば兄さまはあんな戦争に......」
君は誰なんだ。
「だから、私が、秋乃が兄さまの側にずっといます」
ドクンと心臓が大きく鼓動する。
何故だろうか。
俺はこの子を、秋乃を知っている。
違う、秋乃は俺の......家族だった。
「あき、の。みんなは、大丈夫、だった、か?」
命の灯火はもはや消えかけていた。
秋乃に出会って、全ての記憶を取り戻した。
今はみんなの安否が心配だ。
「はい! 兄さまが、戦ってくれたおかげで、誰も、死なずにぃ、ううぅ、兄ざまぁぁ!」
秋乃が号泣しながら抱きついてくる。
何年ぶりだろうか。十年以上は経っている気がする。
「あき、の、そんなに、泣いた、ら。可愛い、かお、が、だいな、し、だ、ぞ?」
すまない。
にいちゃんはちょっと眠いんだ。
ああ、みんな、生きていてくれてありがとう。
もう、俺に悔いはない。
最後に俺は笑顔になれただろうか、涙は流せているだろうか。
感覚が薄れていく。命の灯火が消えていく。
みんな、本当に、ありがとう。
だから、少し、だけ、おやす、み。
そして俺が最後に見たのは涙を流して駆け寄ってくるかつての友人たちの姿であった。