六話 ー戦士ー
不足していた部分があったので修正しました。
フレイと共に門を出てから少し離れたところにソレはいた。
複数の冒険者と思しき人影が一人、また一人と四肢を引き裂かれ命を散らしていく。
しかし、それでも彼らは引き下がるようなことはしなかった。
「......良い戦士達だ」
ボソリと誰にも聞こえぬように呟く。
理念にとって彼らのような戦士は稀な存在であった。元いた世界の戦士の殆どが我が身の可愛さから戦いから逃げ、惨めに散っていった。だが彼らは違う。その目には純粋な闘志が垣間見え、街の人々を守るという気迫が伝わってくる。
俺も、負けてはいられないな。
誰よりも守ることに重点をおいて生きてきた理念。同時に戦士としての心も培ってきた。
ならば、
「術式権限・二重詠唱」
身体強化と銃を同時に発動。
身体が軽くなり両手に二丁の銃が握られる。
「ーーーー魔弾装填」
隣を一緒に走っているフレイに一言かける。
「フレイ、先に行ってくる」
「え、ちょっ......」
最後まで聞かずに一気にトップスピードまでギアを上げる。僅か数秒でキマイラの元へ到着。同時に二発の弾丸を放つ。
弾丸はキマイラの山羊の両目を狙ったものだ。弾丸に込められていたのは粉砕の魔術。弾着すれば極小規模の五百度を超える熱の爆発を起こす。
「ギァァァァ!?」
弾着。
勢い余ったせいか山羊の目どころか頭部が吹き飛んでしまった。まあ嬉しい誤算であるが。
「大丈夫、ではなさそうだな。ここは俺に任せるといい」
前線に立っていた男に開口一番言った。
「何言ってやがる、と言いたいとこだがアレをやったのはお前さんか?」
「無論だ。俺ならあの怪物を殺せる。君は怪我人を早く運んで治療を受けさせるんだ」
男に怪我人の運搬を言い渡す。顔を顰めたものの、状況を判断して怪我人の肩を持ち、こちらを見て言った。
「ガキに言われんのは癪だがそうせざるを得ないわけだ。......あいつらの仇、頼んだぜ」
男の目には闘志とは別に純粋な怒りと悲しみがあった。周囲を見渡し、散っていったかつて冒険者だった彼らを見て数秒黙祷したのち返答する。
「了解した。じきに奴が起き上がる」
男は頷き、撤退の合図をかけ、他の冒険者たちも頷いて撤退を始める。
数十秒後、残ったのは俺とキマイラのみ。
のはずだったのだが。
「リネンさーん! 置いて行くなんて酷いです!」
遅れてやってきた金髪の少女。戦場には似ても似つかぬ容姿のフレイが叫ぶ。
「あまり大きな声を上げないほうがいいぞフレイ。仮にもここは戦場なんだからな」
「う......ぐぬぬ」
正論に対し言葉を詰まらせるフレイに軽く心が和むところだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
キマイラが起きる。
「ガァォォォォ!! ガギィ!」
棘のついた巨大な尻尾を横薙ぎに振るうキマイラ。
真上に跳躍して回避。空中に浮かび上がったところ獅子が炎弾を放つ。
「ふっ!」
左手に持つ銃から魔弾を放って相殺。残った右手で獅子の顔面に魔弾を撃ち込む。
獅子顔は熱量で焼け爛れ、みるも無惨な状態となるも残りの顔が俺を捉え、着地する瞬間に尻尾を薙いできた。
「な!?」
迎え撃とうとしたところ、突然尻尾が三倍のサイズまで肥大化。これでは魔弾を撃っても完全に防ぐことはできない。
両腕を交差させて衝撃に備える他ない。
そんな危機的状況に美しい影が現れる。
「出でよ! カタリボルグ!」
突如現れた曲刀を手に取り、肥大化した尻尾を斬り刻む。
肉片となった尻尾は四方に飛び散り、キマイラは唸り声をあげた。
危機的状況を救ってくれた少女を見る。
「リネンさん。危ないですよ、あとでしっかりお説教しますからね?」
「あ、ああ、すまない」
頬の血を拭いながら言うフレイに感謝よりも先に身が震えた。
刀身に付いた血を払いながら残り頭一つとなったキマイラを睨みつけるフレイ。
「リネンさん。少々、私に単独でやらせてもらえませんか」
「なぜだ?」
「......ふぅ」、と息を吐き、今までにない真剣な面持ちでこちらを向くと、
「この状況も理由の一つですが、このキマイラ、私の仇でもあるようです」
視線だけを先に四散した尻尾の肉片に向けていた。
俺もつられて視線の先をみるとそこには真紅に輝く宝石の付いた白銀の指輪があった。
「アレ、私が幼い頃に友人が持っていたものなんですよ」
苦しげな笑顔を無理やり作り、続ける。
「そしてその友人は合成獣に食い殺されました。あとは......分かりますよね?」
フレイの友人が食い殺され、指輪はその遺品にあたるわけだ。リングの部分には首にかけられるようにチェーンが取り付けられている。尻尾についていたということは一度尻尾に殴られた後に殺された。
それが幼い子にとってトラウマのような光景であることは想像に難くない。
俺はフレイが危険に陥ったら即座に助けられるよう、三重術式の発動準備をすることにした。
「了解した。好きに戦うといい......だが、もし危険な状況になったら俺が奴を仕留める」
こくりと頷くフレイ。
痛みから立ち直ったキマイラを見据え、曲刀を構える。全身から放たれる闘気、殺気は先とは比べ物にならないほどに濃密で、俺自身も驚いている。
フレイには黙っているが、他に二つの極小の殺気を身に感じている。ひとまずフレイに関してはあの満身創痍となったキマイラを殺せるはずだ。
問題はまだ姿を現さない二つの殺気。
段取りをするに越したことはないので、予め具現系統の魔術の発動準備はしておく。恐らくこのキマイラよりは戦闘において厄介であることは間違いない。
この殺気を遊ばせている感じはよく身に染みて分かっている。殺気を遊ばせることができるような奴は戦いというもの何よりも楽しもうとする節がある。
俺は現在の身体での限界まで力を出す為に術式権限の制限を十二段階のうち七段階まで解放することにした。
横目にフレイを見る。
彼女は曲刀に稲妻を走らせながら、目を細めた。
「ーーーー行きます」
言葉と同時に美しき稲妻が走る。