プロローグ ー解放ー
俺は、その日。
廃人となった。
幾度の戦いを経て肉体は傷つき、磨耗した。
精神は人間から、やがて機械的なものへと変わっていき、人類を守る為だけの殺戮マシンとなる。
ただ、地球に迫り来る危機を救い続け、私欲は一切満たさずに生ある限り戦い続けた結果が今の姿だ。
自分がもはや人間のソレではないことに気づいたのは旧友と久方ぶりに出会ったとき。
『貴方、壊れてるわ』
と言われた。
いったい何を言っているのか分からないと言うと次にはこう答えられた。
『親しい人達を守るために戦うなら理解できる。けれど、見ず知らずの、ましてや人類を守るために自分の命を平気で天秤にかけられるなんておかしいわ。貴方、もう......』
そこまで言われてようやく気づく。
既に磨耗した記憶から常識を探し出し、照らし合わせると、ああ、確かに壊れている。と、自覚した。
俺は持ちうる全てを使って救い続けた。代償なんぞいくらでも払い、代わりに力を手に入れ、反動で血反吐を吐いたこともある。
それを苦しいなんて、おかしいなんて思わなかった。俺はこうあるべきとして受け入れ、ひたすら走り続けた結果がこれだ。
彼女と別れた後、俺はとうに涙すら流せない機械に成り下がっていた。
やがて地球最大の危機が訪れた時、俺は人生最期の戦いに挑み、身体は朽ち果て、精神は壊れたものの、最期には笑顔で人類を守れて良かったと言って消えることができた。
一度廃人となった俺は最期に笑顔を取り戻して逝くことができたのだ。
もう思い残すことなど何もない。
しかし、運命はそれを決して許さなかった。
ああ、またか。
と、俺は呟く。
また誰かを守らなければいけないという強迫観念にも似た何かに駆られ、生き続けなければならないのか、そう思われた時、突然自分の中で枷のようなものが外れるような感覚を得た。
『君は呪いから解放された。好きに生きるといい』
どこからともなく聞こえた声は言葉を残し、消えていく。
俺は全身が引っ張られると同時に意識を手離した。