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11.

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 ゴクリと唾を飲み、覚悟を決めたマルグレットが手を伸ばして短剣に触れた瞬間。


 バチッ!


 首元の琥珀から光が放たれて短剣を弾いた。同時にショールに組まれた琥珀糸による陣が浮かび、室内を光が覆う。


「な、なにっ、どうなっているのっ? こうなったら、全員皆殺しにっ……」


 眩い光で視界がぼやけ、状況がつかめないラウラの喚き声は音を立てて開かれた扉で遮られた。その扉から警備人と近衛服を着た屈強の男五人ほどが雪崩れこんでラウラを囲み、瞬時に彼女の腕を後ろ手で拘束する。

 この数秒で起きた事態が把握できず、言葉を失っていたラウラが我に返ってもがき怒鳴った。


「は、放しなさい! 私に触らないで! 私を一体誰だと思って……」

「琥珀の魔法が放たれた場合、身柄関係なく即座に捕獲せよとの近衛総隊長からの命ですので」


 拘束している体格のいい近衛兵はラウラへ冷静に答えた。その横で細身の魔術を扱える警護人がテーブルのカップと床の短剣を順次見て頷く。


「なるほど、お茶に毒が入っていたので先に厄払いの術が発生したのですね。それがなければ、私達は間に合いませんでしたね」


 ―――お茶に、毒。厄払いの術。

 ラウラは『こんな時にカップが割れるなんて、まったく私の手を煩わせないでほしいわ』と言った。ラウラの計画では、おそらく『毒』でマルグレットの息を止め、自殺したことにするつもりだったのだ。

 だから飾り棚にわざと砂糖壺が置いた。その砂糖壺をマルグレットが取りに行った隙にラウラがカップに毒を盛るために。そしてそのカップが割れたのは、アベルからの贈り物がマルグレットに迫ったどくを払うためだった。

 術が発動したおかげですぐに警護人たちがこの部屋に駆けつけられ、自分が命拾いしたことを理解した。

 事の流れを掴んだマルグレットとは反対に、ラウラは変わらず混乱している。


「なっ、なんでこんな館に近衛兵がいるのよっ! どうしてこの私を拘束するのっ?」

「全てはアベル様のご指示です」


 なんでどうしてと喚くラウラに応えたのはマルグレットの母だった。

 母親は未だ怯える娘を強く抱き寄せ、その強さのままラウラに向き合う。


「マルグレットを切りつけた犯人が未だに消息不明なのはおかしいと。マルグレットに更なる危機が及ぶかもと万一に備えて、アベル様が手配してくださいました」

「マルグレットを傷つけた犯人は確実に捕らえないといけないからね」


 母親の腕の温かさに安堵していたマルグレットであったが、更なる力強い声の方を見れば、扉で息を切らしているアベルの姿があった。


「すまない、遅くなった。ラウラがグリーディ家に赴いたと聞いて早馬で駆けてきたが、先に魔術師を捉える必要があって。だが間に合って、良かった」


 ふう、と大きく息を吐いて呼吸を整えたアベルは室内に足を進めてマルグレット達に近寄り、ラウラを見据えた。


「ラウラ、外に控えていた魔術師は捕らえたよ」

「そ、んな、彼が捕まるわけが……」

「魔の魔術師の魔力は封印の陣で無に帰した。それから先代から続いていたシュバルシェ家と魔の魔術師との繋がりの証拠も揃えた」


 アベルは一息吐いて。


「もうシュバルシェ家はお終いだ」


 静かに、はっきりと告げた。

 その宣告にラウラは目を見開いた。そして部屋中に響き渡る悲痛の声。


「うそ、い、や、嫌よっ! それではヘンリックが、ヘンリックと私はっ」

「君のその背の紋様は、魔の魔術師が施した偽物だろう。君とヘンリックは天命の番いではない。神を冒涜した君やシュバルシェ家を、国も神殿も許さないよ」


 自分の未来を予測したであろうラウラはそこで口を閉ざす。その顔は血色を失って強張り、悲哀に満ちていた。

 アベルは冷たさから一変し、マルグレットへ温かい目を向ける。 


「君に渡しておいてよかった」


 アベルが示したのはマルグレットのネックレスとショール。


「今度はちゃんと発動してよかった。どちらも魔の魔術師に対抗できる術を施していたんだ。以前ヘンリックが着けていた試作は発動しなかったようで……」

「ヘンリックはどうして貴女なんかを愛するのっ! 神はどうして私を選んでくれないのっ! 私の方が貴女よりもヘンリックを愛しているのに、彼に相応しいのに! どうして、どうして貴女なんかがっ!」


 アベルのヘンリック、という名に反応してラウラが再び喚き始めた。

 そのラウラの叫びがマルグレットに突き刺さる。ラウラはマルグレットのことを『昔から忌々しい』と評した。それにマルグレットは温室での二人を、愛の言葉を交わしていたラウラを見ていたからわかっている。ラウラは魔術とは関係なくヘンリックを愛していた。ラウラはマルグレットを殺しても足りないくらいに憎んでいる―――


「私ならヘンリックを王にすることだってできるのに、どうしてそんな無力な女なんかを皆してっ」


 ラウラの怒涛のような叫びにアベルが冷たい瞳を向けた。


「マルグレットは無力ではない」

「その女ではヘンリックを王にはできないわっ」


 ラウラが何度も『ヘンリックを王に』と口にしているが、マルグレットにはその拘りがわからない。

 ヘンリックは作りたい魔術があるのだと楽しそうにいつも話していたのだ。それが幼い頃からの夢だと。


「ヘンリック様はアベル様の元で働いていることに誇りを持っていました。お仕事での夢もお持ちで、王になることに興味など―――」

「無能な女に何がわかるのっ! ヘンリックは王になる資質を持っているわっ! 彼こそ王になるべき人材よっ」

「ヘンリック様がお仕事で目指していたのは民への……」

「無駄だよ、マルグレット。ラウラに君の声は届かない」


 アベルがマルグレットの肩を叩いて顔を振る。ラウラの目はマルグレットへの憎しみしか映し出していなかった。いま誰が何も言っても彼女はそれを受け入れることは一切ないことは明瞭だった。

 そして、マルグレットを罵倒する言葉を吐きながらラウラは連行されて行った。





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