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1.

軽く読めるようにしたつもりでしたが、小難しいかもしれません。

 




 神に選ばれた人間こどもはその体に輝く“紋様”を持っている。

 そして同じ場所に同じ形の紋様を持つ唯一無二の“つがい”が存在する。

 その二人を“天命のつがい”と呼ぶ。





 『天命の番い』はジェライト国の神殿に伝わる一文だ。文面通りジェライト国内では毎年幾人か輝く緑色、宝石のペリドットのような輝きの紋様を持つ子供が誕生しており、『番い』となる“同じ場所に同じ紋様”を持つ者もまた存在していた。

 そしてジェライト国においては『紋様を持ち魔力や統治能力の一番高い王族の者』が国王となる掟がある。天命の番いは国王の伴侶にも関わる。故に紋様を持つ者は確実に管理できるよう神殿に申請をすることが義務付けらており、『神の子』として神殿において管理されていた。


「昔は『天命の番い』には紋様はなかったんだ。でもある子供に魔物が“囁いて”ね。魔物の囁きに惑わされてその子供は天命の番い以外の者を伴侶に選び、選んでもらえなかった番いは自ら命を絶ったんだ。神は死んだ子供を哀れに思って自分の番いが見てすぐにわかるように紋様を入れるようにしたんだって」


 マルグレットにそんな昔話をしてくれたのは三歳年上の兄、ステファンだった。

 通常紋様は手のひら大の大きさである。しかしマルグレット・グリーディの紋様は背中全面に広がっていた。人とは異なる大きさの紋様に、幼いマルグレットは己の背を嫌悪していたのだが、


「マルグレットの紋様が他の人よりも大きいのは、貴女の相手がすぐにわかるようにしてくれていて、その天命の番いと幸せになりなさいという神様の御意志なのよ。それに貴女の紋様はまるで咲き誇る花のようで、とても綺麗よ」


 母親は笑顔で背の紋様についてマルグレットにそう言ってくれていたので、いつしか背の紋様は自分に必要なものと考えるようになり、自分の番いとなる人物が誰であるのか神殿からの通達を心待ちにしていた。

 そしてマルグレットが五歳の時に、彼女の天命の番いは五歳年上の王族に連なるパウマン家の長男ヘンリックだという連絡が神殿から正式に届いた。

 それを知った時、マルグレットは自分の番いの存在を嬉しく思った。幼い頃は純粋にその気持ちだけであったが、歳を重ねて周囲の視線や会話から身分差というものを感じるようになった。グリーディ家は先々代が築き上げた財で名が知られるようになった商家であり、紋様がなければ王血族のパウマン家に嫁ぐことなどあり得ないことを知ったのだ。

 マルグレットは日々パウマン家長子という立場である彼の天命の番いとして恥じぬように、紋様に頼ることがないように礼儀作法を身に着け、知識を得る努力をし、人脈も築き上げた。幸いなことにパウマン家の者は皆マルグレットのことを気に入り、婚約前にもかかわらず一族の一人として扱ってくれていた。なによりもヘンリックがマルグレットのことを全身全霊で愛していたので、周囲が何と言っていようとも身分差など関係なく彼と幸せになるであろう未来をマルグレットは思い描いていた。

 しかし。


「俺は君を愛している。それなのに、この紋様があるばかりに」

「同じ紋様が私にあれば、私達はすぐにでも結婚できるのに」


 マルグレットの視線の先で、涙を浮かべながら愛を囁きあう男女がいた。ヘンリック・パウマンとラウラ・シュバルシェ令嬢だった。

 天命の番いは一目見た時から惹かれ合う。それは紋様が確認されてから今日まで至極当然のことで、マルグレットとヘンリックもそうだった。確かに二人は一目見た時から惹かれ合い、だからこそマルグレットは彼に支えられながらパウマン家に相応しくあろうと頑張ってきたのだ。

 ところがここ数カ月、ヘンリックの目と心はマルグレットからラウラに移ってしまった。常にラウラを追い、瞳に熱を含ませているヘンリックを、常に間近にいたマルグレットが気付かないはずがない。

 ラウラ・シュバルシェはジェライト国において古くから続く高貴で名高い一族の女性で、マルグレットよりも二つ年上だ。プラチナ色の巻き毛に陶器のような白肌、魅惑の紅い唇の持ち主である麗しきラウラ・シュバルシェは社交の場では一目置かれている存在である。

 マルグレットは人目を忍んで手と手を取り合う二人を物陰から黙って見つめていた。ヘンリックの『天命の番い』として、感情のまま二人の前に躍り出て正当にラウラを非難することもできた。しかし彼の目が『ラウラを愛している』と訴えているためにそれは躊躇われた。

 数か月前までヘンリックはあの瞳でマルグレットを見ていたはずなのに、最近は恨みがましい瞳をマルグレットに向けることが多くなった。ヘンリックの熱いその瞳は今やラウラのもの。

 十六歳になったマルグレットとヘンリックの婚約式は半年前に執り行われており、結婚する日取りの話をしていた矢先の光景だった。






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