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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第二章 ほうかい
71/269

71.歯車の歪み その2

「……あ、もしもし。やなっぺ? 今ちょっといい? 」

『柊? いいよ、どうしたの? 何かあった? まさか、もしかして、大河内君が! 』

「んもう、そんなんじゃないってば」

『なら、何? 何なの? 』

「それが、その……。別にたいしたことないんだけど。……うふふ。ちょっとね」


 初めはテンション低めに話して、さりげなくタイミングを見計らって爆弾発言。

 よし、この手でいこう。

 やなっぺのリアクションを想像しながら、わざと遠まわしに、そして含みを持たせて話を進めた。


『ちょっと? ふーーん。たいしたことないんだ。じゃぁ、切るよ。電話』


 ちょ、ちょっと待ってよ、やなっぺ! 

 もう、ほんとうにやなっぺってば、文面どおり、ダイレクトな受け止め方しかしないんだから……。

 このままあっさりと電話を切られてしまうんなんて身も(ふた)もないではないか。

 これから待っている、史上最強の特ダネを聞かずして電話を切ろうだなんて、あまりにも残念すぎる。

 それはいくらなんでも、ひどすぎやしませんか? 

 そりゃあ、もったいぶったわたしが悪いのは百も承知です。


「やなっぺ、お願い。電話、切らないでー! ちゃんと話すから……」

『はいはい。で、何? 大河内君じゃないとすると。そうだ。また堂野とけんか? ほら、図星でしょ? 』

「ちがうよ。遥とは夕べちゃんと会って、今朝まで一緒に過ごしたんだから」

『そうですか、そうですか。オアツイコトデ……。よかったね。じゃあ、さよなら』


 やなっぺの棒読みが耳元で不協和音を奏でる。


「……って、そうじゃなくて。聞いて、聞いて。いい? やなっぺ、驚かないでしっかり聞いてね」

『あい……』


 完全にわたしの話を右から左に聞き流す気満々の、やなっぺの鼻にかかった惰性の相槌が、虚しく耳に届く。

 まあ、今はそうしてなさい。

 数秒後には、あなたの周囲を取り囲む天と地を、くるりとひっくり返して差し上げましょう。


「新しい友達できちゃった」


 まずはここからだ。

 誇張も何もない、実際に会った事をやなっぺに知らせる。


『友達? 柊にしちゃあ珍しいじゃん。学校で? それともバイト先? あ、それって、またまた男? モテるときって、結構続くからね。大河内君第二号が出現したの? 』

「だから、そうじゃないってば。どれもハズレ」

『ハズレ? なーんだ。じゃあもう、そんなの全くわかんないよ! 』


 徐々にやなっぺが話に乗ってくる。


「あのね、遥の先輩の親戚の人なの。名まえは、本田さんって言うんだ」

『本田……さん? なんか、聞いたことあるけど。堂野の先輩にいたよね、そんな名まえの人。男、じゃないんだよね。だったら女で、それで、その人がどうしたの? 』

「ふふふ、だから女性だって言ってるし。でもって彼女の仕事がすごいんだよね。多分やなっぺ、当てられないよ。めっちゃ珍しいんだ」


 ここら辺で、やなっぺの闘争心を煽る作戦に出る。


『えらく、挑発的じゃん。仕事ね……。わかった。弁護士! 』

「ぶー! 違いました。もっと目立つ仕事なんだよねー」

『目立つ? CA? 』

「キャビンアテンダントもちがいます! 」


 いいぞ! その調子! やなっぺの負けず嫌いのツボをくすぐっていること間違いなしだ。


「じゃあさあ。本田しぐれ、って言えばわかる? 」

『本田しぐれ? しぐれだなんて、また、珍しい名まえだね。芸能人みたい』

「そうでしょ? だってやなっぺの言うとおりだもの」

『ええ? ゲイノウジン? 』

「うん、そう。じゃあ、雪見しぐれならどう? 」

『雪見しぐれ? 彼女がどうしたのさ。何寝ごと言ってんの? 』


 ここまで言っても、まだわたしのことを相手にしない気満々なようだ。

 やなっぺこそ、寝言は今のうちだよ。


「へへへ。実は、その雪見しぐれさんと友達になったんだ」

『……』

「だから、彼女と友達になったの。ねえ、やなっぺ、聞いてる? 」

『…………柊、あんた、何か悪いものでも食べた? 』


 やなっぺのこの上なく冷静な声が届く。


「違うって! もう、やなっぺったら。わたしが冗談でわざわざこんなこと、電話なんかすると思う? 」

『思わない。でも、雪見しぐれだよ? 若手ナンバーワンの女優だよ? 』

「うん。そうだよ。これからも時々会って、いろいろ話そうねって、約束したんだ」

『……って、マジ? ホントのホントに? うっそーっ! 』


 予想通りのやなっぺの反応に十分満足したわたしは、夕べの出来事をすべて報告した。

 ただし、小百合さんに関しては、まだ体調不良だったという部分を伝えることも忘れなかった。

 その間、やなっぺの発した、ホントに? とうっそー! という言葉は、ゆうに百回は越えていたと思う。


 この日を境に、わたしと遥の歯車がうまく噛み合わなくなることなど全く気付きもしないまま、浮かれ気分でやなっぺとの電話を心行くまで楽しんだ。


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