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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第二章 ほうかい
58/269

58.男だね。絶対に男だ。 その1

「ふーん。そうなんだ……。ところで、昔の友達って誰? そんな人、東京にいたっけ。それともあたしの記憶違い? 」


 やなっぺは、こういう話の矛盾点に対して、やけに嗅覚が鋭かったりする。

 アートデザイナーの直感とでもいうのだろうか。

 ここは冷静になって、怪しまれないようにしなければならない。


「う、うん。まあね。その友だちと……バイト先で偶然会って、それで、もらったって言うか……その……」


 もっと具体的にもらった人の名まえを言うべきだった。

 田中さんとか、鈴木さんとか。山本さんでもよかった。

 その方が真実味が増して、やなっぺもすぐに納得してくれたかもしれない。

 そうだ、白石さんはどうだろう。彼女の名まえを出すのも一案だ、と思ったが……。

 でもだめだ。白石さんは中学だけでなく高校も一緒だったから、やなっぺもよく知っている。

 大阪の大学に行っている彼女がなぜ東京にいるのかと、これまた一悶着起きてしまうではないか。

 それに、もし遥の耳に入ったりしたら、すぐに嘘だとバレてしまう。

 そもそも白石さんがわたしにチケットをくれるはずがないからだ。


「偶然? で、チケット二枚? 」


 わたしが俯き加減でごにょごにょともたついていると、やなっぺがすかさず突っ込んでくる。


「ねえ、どうなの? そこんところ、はっきり教えてよ」

「そう……だよ。偶然……。友達誘って行けばいいって……」


 そうだ。やましいことなんて何にもない。

 ほんとうに、もらっただけなのだから。


「やなっぺ、なんか疑ってるみたいだけど、本当にもらっただけなんだよ。他意はないってば」


 酔ってるはずのやなっぺが突然真剣な顔になって、カウンセラーのごとく大真面目に頷いてみせる。


「ふうーん。もらっただけ、ね? 柊が雪見しぐれのファンってことも知ってるんだよね、そのくれた人。……その人、男だね。絶対に男だ」


 や、やなっぺ。何が言いたいのだろう。

 やなっぺだっていつも男の友達と出歩いているのだし、映画のチケットをもらったくらいでそんなに詮索しないで欲しい。


「そ、そうだよ。男性だよ。ただの友達だから……」

「ほらね、やっぱり」


 やなっぺが勝ち誇ったような顔を、これ見よがしにわたしにひけらかす。


「だから、やなっぺが思ってるようなやましいことは何もないんだってば」

「そりゃあ、もちろんそうでなきゃ。何かあったら大変だよ。で、堂野は知ってるの? そのお友達のこと」

「も、もちろん知り合いだよ。だって中学の同級生だもん。でもね、やなっぺ。こういうことは、その……。ちょっとデリケートな問題だから、バイト先でその人と偶然会ったとか、チケットもらったとか……。そういうことは、いちいちこと細かに遥に言うつもりはないんだ。だって変に勘ぐられたくないでしょ? 余計な心配はさせたくないし」


 いくら恋人同士だからといって、何から何まで知らせる必要はない……と思う。

 遥のプライベートだって、すべてを把握しているわけではないのだからお互い様だ。


「……なんか怪しい。柊、早口になってる。焦ってる。あわててる……」

「え? そうかな……」


 やなっぺの含みを持たせた口調が恐怖を助長する。


「その人がただの友達で、堂野も知り合いなんだったら、どうして隠すの? あんた達、お互いに秘密は作らないはずでしょ? また前の二の舞? 」


 完敗だ。やなっぺにはもう隠し通せない。

 ここは正直に、あったこと全部を説明するべきなのかもしれない。


「二の舞だなんて、そんなこと言わないでよ。わたしは、遥を裏切るようなことは……してないよ。多分。きっと……」


 だんだん自信が無くなってくる。


「じゃあ、どうして? なんで堂野に言わないの? このままの状態で堂野が気づいたら大変だよ」

「あのね、それが……。その友達のこと、遥はあまりよく思っていないんだ。昔ちょっといろいろあって」

「いろいろ……ね。もしかしてその人。生徒会長やってた人? ……その話、聞いたことあるかも」


 わたしは絶句して、やなっぺから思わず目を逸らしてしまった。

 彼女がそんなところま知っていただなんて驚き以外の何物でもない。

 でも、大河内のことをやなっぺに話したことなんかあっただろうか。

 そういえば高校の卒業式のあと、遥と藤村とやなっぺの四人でお別れパーティーと称して、ファミレスで食事をしたことがあった。

 調子に乗った藤村が、大河内を話題に出して遥をからかったのだ。

 わたしが中学時代に好きだった人は大河内だと誤解したままでいる藤村は、遥を嫉妬させるためにそんな話を持ち出していた。

 その時の遥の不機嫌さが尋常じゃなかったので、やなっぺの記憶にしっかりと残っていたのかもしれない。


「柊。なんかさあ、あたし思うんだけど。そのチケット、元生徒会長君に返したほうが良くない? 堂野が知ったら間違いなく大暴れするね。そのお友だちのところに殴りこみに行くんじゃない? 」


 殴りこみ? そんな大げさな……。

 でも、遥ならやりかねない。

 遥の大河内に対する気持は、いつだって危ういものがあったはずだ。

 だからこそ、わたしもこのことを内密に済ませようとした。

 遥には絶対に知られたくなかったから……。


「悪いこと言わないからさ。堂野が変な気を起こす前に、きちんとしとかなきゃ。ねえ柊。やっぱ、送り返すべきだよ」


 やなっぺの目が真剣にわたしに訴えかけてくる。

 わたしはここまできて、ようやく自分の間違いに気付き始めた。

 やなっぺの言うとおりだと。


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