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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 あこがれ
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49.やさしい涙 その3

 夢美がどこまでも否定してくる。けれど彼女を裏切ったのはまぎれもない事実だ。

 真実をありのまま語るのも、なかなか勇気がいるものだ。

 夢美が遥のことを好きだと知っていながら、結婚の約束をしたのが中三の時。

 お互いにまだ子どもで、受験も控えている大切な時期だというのに、結婚の約束だなんて。

 いったい何を考えているのだろうと、軽蔑されてもおかしくないような話だ。

 でも夢美にはきちんと言った方がいい。

 わたしはなんとか気持ちを整理して、すべてを洗いざらい話すことに決めた。


「思い過ごしなんかじゃないんだ。ほんとに悪かったって思ってる。だって、だって。わたしが遥と付き合ったのは、中学三年の時なんだよ。夢ちゃんが遥を好きだって知ってたのに、わたしは、夢ちゃんを裏切ったんだもの」

「ひいら……」

「ごめんね。わたし、すごく悩んだんだけど、でもやっぱり、遥のことが、その、好きで、遥と一緒にいたくて……」

「そうだったんだ……。いいんだって。ひいら、泣かないでよ。そっか。それで、あたしを気遣って、中三の時は誰にもそのことを言ってなかったんだね。だって、あの当時、中学では誰もひいらと堂野くんのこと、知らなかったはずだよ。噂にすらなってなかったもの」

「うん。絶対に誰にも言わないって決めてた。だって、親にも気付かれたくなかったし。まあ、うちもいろいろあるからね」

「そっか、中三か。ホントにわからなかった。いや、でも、それって本当のこと? そんなそぶり全くなかったよ。いや、あたしが鈍感だったのかな? 」

「ううん。ほんっとに、誰にも知られないように内緒にしてたから。あの当時、遥って結構恥ずかしがり屋だったし、二人きりでどこかに行ったりとか、恋人らしいことは一切なかったし、好きだとかそんなことも言われてなかったし……」

「ええ? そうなの? じゃあ、別に付き合うって感じでもなかったんだね。じゃあ、好きって言われなかったってことは、ひいらが告白したの? 付き合って下さいって」

「いや、そういうことでもなくて…………」


 わたしから告白したわけでもないのに、どうして遥と付き合うことになったのか。

 夢美にとっては理解し難いことなのかもしれない。

 まさか、中学生の分際でプロポーズされたなどと言うのも現実味がなくて、話し辛い。

 無言のまま首を横に振ることしかできなかった。


「やだ。じゃあ、何? お互いに告白とかもなしで、どうやって付き合うってことになるの? 目と目で合図して、いつの間にか付き合ってました、なんてこと、聞いたこともないし、実際にあるとも思えないし」


 それはそうだ。夢美のおっしゃる通り。

 ああ、恥ずかしいけれど、そして、夢美にはますます信じてもらえないかもしれないけれど。

 こうなったら、本当のことを言わなければ、この話題は終わらないだろう。


「それは、その……。プ、プロポーズ、されて。いきなり、その、結婚しようって言われて……」

「ふーん、そうなんだ……って、う、うそーーーー。中三でしょ? 受験勉強中のあの頃だよね。えええ。やだ、何それ。びっくり通り越して、頭の中、真っ白だよ」

「なぜかそんなことになっちゃって。わたしだってわけがわからないまま高校生になって、大学生になって、昨日まで、その、向こうで、一緒に住んでて……」

「へ? 一緒にって、それって、同棲? ひゃあーーー」


 それからは夢美の質問攻撃が容赦なく続き、昨夜から実家に帰って来ている理由も含めてすべて丸裸にされてしまった。

 笑ってるのか泣いてるのかわからないまま夜が更けていく。


「でもさ、ひいら。ホントにありがと。ひいらが自分に正直でいてくれたから、あたしも彼に巡り会えたんだと思う。だって、ひいらが自分の気持を隠して、あたしのために心を砕いてくれてたら……。今のあたしは存在しないんだよ。それにひいらだって堂野君と婚約することも叶わなかった。そんなの絶対に嫌だもん。ひいらだって、嫌でしょ? あのね、ひいらには悪いけど、堂野くんよりずっとずっと彼の方が、いいんだもん。彼が大好きなんだもん」

「夢ちゃんったら」

「えへへへ。ごめんね、なんだかいっぱいのろけちゃった」

「夢ちゃん。ありがと。夢ちゃんが友だちでよかった。夢ちゃんと幼稚園、小学校、中学校時代をずっと一緒に過ごせて……よかった」


 わたしたちはしっかりと抱き合って、二人して声を出して泣いていた。

 夢美の優しさが嬉しかった。

 遥のことなんて彼氏に出会った瞬間、心から消え去った……なんて言ってたけど、夢美がどれほど遥のことを好きだったかはわたしが一番よく知っている。

 今は嘘偽りなく婚約した彼のことを一番に愛しているのも伝わってくるが、そうなるまでには、いろいろ心の葛藤があったに違いない。

 夢美のわたしに対する優しさをひしひしと感じる夜だった。

 わたしたちはしっかりと手を繋いだまま、朝までぐっすりと眠り続けた。


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