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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 あこがれ
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31.好きだと言って その2

「ふ、藤村……。久しぶりだね」


 別に照れるような相手でもないんだけど、親しかった人物に遥と一緒のところを見られるのは、たまらなく恥ずかしい。

 わたしは繋いでいる手を離し、藤村に引き攣り笑いを返した。


「おお、久しぶり。元気だったか? って、堂野もいるのかよっ! ふーーん、相変らずお熱いことで」

「よお! 久しぶりだな、藤村。もうすぐ夏だからな。暑いのはあたりまえだ」


 遥がやや皮肉を込めて藤村の肩を叩く。


「はいはい。堂野の言うとおりでございます。でもなんだって、東京にいるはずのご両人がこんなところに? おまえら、帰るって言ってたか? そんな連絡、受け取ってないぞ。あれ? 俺、メール見落としたのかな……」


 当然ともいえる藤村の質問に答えるために、大急ぎでアイスを買ったわたしと遥は、藤村を伴って店を出て、駐車場の片隅で話し始めた。


「ちょっと野暮用で。たった今、こっちに帰って来たところなんだ」


 遥が遠まわしに帰って来た理由を藤村に告げた。


「野暮用? にしても珍しいよな。春休みにも帰ってこなかったおまえが、なんだってこんな中途半端な時期に帰ってくるんだよ。もしかして、農作業の手伝いか? 」

「いや。ちょっと別件でな……。まさかおまえとこんなところで会うなんて、ホント、偶然だよな。俺たち、月曜にはまた向こうに帰るさ」

「ふーん。そうか。短い帰省なんだな。なあなあ、今からちょっと飯でも食いにいかねえか? な、ご両人」


 頬を紅潮させ意気揚々と藤村がわたし達を誘う。


「あー。今夜はだめだ」


 当然のごとく遥が首を横に振る。


「なんで? たまにはいいじゃないか。堂野、おまえ、付き合い悪くなったんじゃねーか? それじゃあ蔵城。おまえは行けるだろ? ちょっくら俺に付き合えよ」


 遥の堅い決意を読み取った藤村が、今度はわたしに矛先を向ける。


「え? わたしもだめだよ。今夜はちょっと……ね? 」


 久しぶりの再会を喜んでくれている藤村には悪いけど、今夜はそれどころではない。


「ちぇっ! つまんねえの。なんだよ、おたくら二人とも。そんなに二人っきりがいいのかよ。ったく、やってらんねえな。昔、ケンカばっかりしてた冷戦状態のおまえらがなつかしいよ。なのに、今はなんてっこった! おお、あっつい、あっつい、んじゃあ、今夜はあきらめるわ。……で、何があったんだよ。さっきから変だぞ」


 藤村もわたしたちの異変に気付いたようだ。

 まあ、隠しておく間柄でもないし、ここは正直に話したほうがいいのかもしれない。

 遥も同じ思いだったのか、一呼吸ついたあと、藤村に話し始めた。


「……こいつとのこと、親にバレた。今から親父らに殴られに行く」

「はあ? 」


 藤村がぽかんと口を開けて、遥をじっと覗き込んだ。


「もし生きていたら……。明日なら、多分、おまえに付き合える」

「ええっ? お、おい! どういうことなんだ? 生きていたらって。それに、親父さんたちに殴られるって、意味わかんねえよ」


 藤村は何度も首を傾げ、不思議そうに真っ暗な天を仰ぐ。


「だから、そのまんま、今言った言葉どおりだけど」

「じゃ、何か? おまえ、蔵城のこと、親に内緒にして付き合っていたってことか? そんでもってそれがバレて、殴られるとでも? なんでそれくらいで殴られるんだよ。おまえの親父も蔵城の親父も、穏やかそうな人に見えたけどな。俺の親父に比べたら格段に優しそうだったけど。それに、おまえら親戚同士だろ? 何を今さら、怒られることがあるんだよ! 」


 藤村が、血相を変えて詰め寄ってくる。


「あははは……。それがあるんだよ。この歳になってもまだ親に引っ叩かれるようなことをやってしまったのさ。おまえにまだ言ってなかったけど、俺、今、こいつと一緒に住んでる。寝込みをお袋と柊の母親に突撃された」

「なななな、なんだって!! 寝こみって、その、あれだよな? 二人で仲良く一緒に寝てたってことか? ひょえーーー! やばいよ、それ。マジで? まるでテレビドラマの世界じゃないか! 」

「そういうことだから。悪いが、今夜はもう帰るわ。じゃあまたな」


 お、おい、待てよ……と口をパクパクさせている藤村をコンビニの前に置き去りにして、わたしたちは再び家に向かって歩き始めた。

 なんだか藤村に申し訳なくて、ついつい後ろを振り返ってしまうけれど、相変らず藤村はわたしたちの方を見たまま街灯の下で呆然と立ちすくんでいた。

 遥は藤村のことなど全く気にも留めない様子で、すたすたと歩いて行く。

 あいつを驚かせるつもりはなかったんだけどなと言って、あははと笑い出す始末だ。

 これから巻き起こるであろう深刻な事態に備えて、まるで自ら勇気を奮い立たせるかのように、わざと陽気に振舞っているようにも見えた。


 次第に住宅がまばらになり、街灯も少なくなる。

 暗闇に遥の笑い声だけが低く響き渡った。

 宅地造成中の看板のところまで来ると、人通りもほとんど無くなる。

 そこはかなり高台になっていて、街全体を見下ろすことができる絶好の場所でもある。

 街の灯りがまるで天の川のように帯状につながって、わたしの目の前に迫ってくる。

 ここまで来れば、家まではあと五分くらいだ。

 するとぱったりと歩みを止めた遥が、突然わたしの背中に手を回し、抱きしめてきた。

 あまりにも急だったので、わたしは目を見開いたまま、何も身動きが取れなくなってしまった。

 両腕でぎゅっと包み込むように抱きしめる遥が、わたしの肩に顔をうずめるようにして、くぐもった声を出した。


「柊。ごめんな。俺が強引に一緒に暮らそうなんて言い出したせいで、こんなことになって……。でもな、今夜どんな結果になっても、俺の気持ちは変わらないから」


 遥の腕により一層、力が込められているのが伝わってくる。



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