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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
特別編2 街頭インタビュー
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クリスマス、恋人たちは…… その4

「では、残念ながら、今年のクリスマスは一緒に過ごせないということなのですね。でしたら、去年、あるいはお二人が付き合い始めて以降に過ごされたクリスマスで、何か記念になるような思い出はありますか?」


 今年がダメなら、過去に遡って聞けばいい。

 この二人なら、何か楽しそうなネタを隠し持っていそうだ。


「うーーん、どうだろう……」


 はるか君が腕を組み、一生懸命記憶をたどっている。

 その困惑の表情ですら、女性をときめかせるのに充分すぎるほどのビジュアルだと思われる。

 これはもてるだろうなと心の中でうなった。


「では、彼女さんはいかがですか? 何か印象に残っていることはありませんか? 」


 男性はこういう(たぐい)の話は照れもあるのか、なかなか本当のことを話してくれなかったりする。

 ここは隣の彼女に訊いてみるのが得策だろう。ところが。


「あ……。あの、特にクリスマスの思い出とかそういうのはなくて。去年は受験生だったし、実家暮らしというのもあって、あまり彼とは、その、恋人同士らしいイベントとかはなかったので」

「そうですか。ご実家の目がありますものね……」

「はい、そうなんです」


 これは困った。二人は同じように首をひねるばかりで、これと言った回答を引き出せない。

 いくら実家暮らしだとは言っても、ちょっと外に出れば映画館もあるだろうし、テーマパークに行くことだって出来たはずだ。

 いったい何をやっているんだ、この二人は。

 これはなかなか手ごわいカップルに捕まってしまった。

 これほど一般論が通じないカップルは初めてだ。


「じゃあ、これならどうでしょう。プレゼントはどのような物を贈られましたか? 」


 よし。我ながらナイスな切り返しだと思う。

 これなら狙い通りの回答が得られそうだ。

 財布とか、手袋とか。そうそう、指輪なんかも定番だよね。


「プレゼント? いや……。それも、ないような……」


 へ? まさか……。はるか君、そんなことないでしょ? 

 こんなきれいな彼女を前に、何も贈らないなんて、そんなこと信じられない。

 すると今度は彼女までもが同調し始める。


「そうだよね。プレゼントとかそういうの、あまりやり取りしないものね。じゃなくて、全然、もらったことないし」


 おや、どうしたのだろう。彼女の様子が変だ。


「え? 全然ってことはないだろ? クリスマスとか関係なく、いつも俺のCDとか勝手に持って行って、いつのまにかそっちの物になってるし。この前も、他の劇団のチケット、柊にやったよな? 」

「それは、そうだけど。でもね、劇団のチケットだって、遥が買ったんじゃなくて、先輩からもらったものじゃない。じゃあ、あれはどうなの? いつも使ってるシャーペン。それにチェックのマフラーやクマのマグカップ。全部わたしのアパートから遥が持って行ったじゃない。それって、わたしからのプレゼントみたいなものだよね」

「それは、柊が使わないって言うから持って行っただけだろ? もったいないし」

「今は使わないだけで、いつかは使うつもりでとっておいたんだけど。遥が欲しいっていうからプレゼントしたつもりなんだけどなあ……」

「いつかなんて、そんな日は永遠にこないよ。だから俺が先に使っただけだけど」

「永遠に来ないだなんて、そんなの誰にもわからないよ。いつか使う日がやってくるかもしれないじゃない! 」

「あ、あの。すみません、なんか、こちらの質問がよくなかったみたいですね。どうかお二人とも、もうそれくらいで」


 私は、あわてて二人の言い争いを止める。


「あ……。失礼しました。ということで、今までにクリスマスプレゼントは、お互いにしたことがないです」


 なんだか遥君の元気がなくなった。

 やはり、これは私のミスだ。

 いくら仲が良さそうなカップルでも、クリスマスを特別なイベントとして捉えず、普段どおりに過ごす人たちもいるということを認識していなかったようだ。

 私の想像力が足りなかったため起こった初歩的なトラブルだと、深く反省する。


「普段からお互いを大切に思っていらっしゃれば、クリスマスだからと言って、特別なものは何も必要ないですよね」


 こんなことしか言えないが、フォローになっただろうか。

 心配だ。二人の言い争いが大喧嘩に発展しないようにと祈るばかりだ。


「確かに、そうですが。でも、今年は、その……」


 はるか君が、ちらちらと彼女を見ながら口ごもる。


「はい? 」


 今年はどうだと言うの?


「いや、こいつのために、その、プレゼントを選ぶのも、いいかな……と」


 い、今、なんとおっしゃいましたか? 

 すると、それを聞いた彼女の顔が次第にほころび、輝きを帯び始める。


「遥、ありがと。わたしは、その気持ちだけで嬉しいよ。実はわたしも、遥にプレゼントしたいなって、そう思ってたんだ。何がいいかなって」

「うわーーっ。素敵です。お二人とも、本当に素敵です。ああ、なんだか胸がキュンキュンしちゃいます……って、し、失礼いたしました」


 あまりにも素直で純粋な二人のやりとりに、ついつい仕事であることも忘れて、舞い上がってしまった。

 立場をわきまえない変人アナウンサーだと思われなかっただろうか。

 カメラマンの山田さん、どうか私のこの失態を見逃してください。


「いいえ、こちらこそ感謝しています。かねひらさんとこうしてお会いしたことで、いつもと違ったクリスマスを過ごせそうな気がします」

「そ、そうですか? そう言っていただけると、こちらといたしましても、その、この仕事をやっててよかったと言いますか、その、アナウンサー冥利(みょうり)につきますと申しますか、幸運といいましょうか……」


 ああ、誰か助けて。

 はるか君の吸い込まれるようなきれいな目でじっと見られて、おまけに感謝してますとまで言われて。

 もう、自分でも何を言ってるのかわからなくなってしまった。


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