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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
特別編2 街頭インタビュー
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クリスマス、恋人たちは…… その2

「あ……。すみません。失礼いたしました」


 そうだった。今は仕事中だった。

 目の前に彗星(すいせい)のごとく現れた驚くほどの好青年に見とれてしまった自分が恥ずかしくなる。

 この仕事をしていると、芸能人と呼ばれる人々との出会いも多い。

 少し前まではテレビや雑誌の中でしか会えなかったミュージシャンや俳優たちがすぐ近くにいて、仕事上とはいえ、話をしたりもする。

 担当している地域密着型の番組内でもゲストとして招くことがあり、それなりに彼らへの免疫ができてきたはずなのに……。

 どういうわけか、一般人であるはずのこの男性から目が離せなくなる。

 あまりにも端正な顔立ちをしていることや、響きのある声、そして抜群のスタイルの良さに、イケメンにめっぽう弱い私の脳内アンテナが、すぐさまぴぴっと反応してしまったようだ。


「わたくしは、□☆テレビ局アナウンス部所属の金平と申します」

「はい、かねひらさんですね。何度かテレビで拝見したことがあります」


 見た目は若い。きっと学生なのだろう。

 ところがその外見からは想像できないほど、受け答えがしっかりとしていて、イントネーションも自然できれいだ。

 私より彼の方がよっぽどアナウンサーとしての資質を備えているような気がしてならない。


「わたしも知ってます。あの、金平(かねひら)糖子(とうこ)さんですよね。大学の講義が午後からの時に、朝の番組、見てます」


 隣で彼女らしき女性までもが私を知っていると言った。

 朝の番組に出ていると言っても、ほんの少しの時間で、それも週に一度だけしか担当していない。

 通勤の時も声をかけられることは少ないし、まだ世間に認知されていないと思っていただけに、なんだかとても嬉しい。


「ありがとうございます。番組をご覧いただけて、大変嬉しく思います。あの、お願いがあるのですが。今から、少しの時間、クリスマスの過ごし方についてインタビューさせていただきたいのですが。お時間の方、よろしいでしょうか」

「わたしはいいけど。遥は? 」


 彼女が彼に訊ねる。そうか、このイケメン好青年は、はるかという名前なのか……。


「ああ、別にいいよ。あ、でも……」


 はるかという名のイケメン君が、突然困ったような顔をして私を見た。


「どうされましたか? もしご都合が悪ければ、今回は……」

「いや、そうじゃないんです。あの、この番組は確か、関東ローカルですよね? 」


 彼が少し困惑の表情を浮かべ、私に訊ねた。


「はい、そうですが」


 私のような無名駆け出しの女子アナが全国ネットの番組を担当できるわけもなく。

 あこがれの先輩たちが早朝から出勤してスタジオ入りしている姿がうらやましくもあり、目標でもある。

 頑張らなければ、と思ってはいるのだが……。


「ああ、ならよかった。関西方面には流れませんよね? 」

「はい。基本的に関西方面では放送されることはないですが。何か、お困りなことでもございますでしょうか」

「いや、それが、その……」


 それまで明るく振る舞っていた彼女までもが、急に元気を失くし、気まずそうにうつむく。


「実は俺たち、その、こういう風に一緒にいるところを関西に住んでる親に知られると、ちょっとまずいんで……」

「えっ? あ、いや、そうですか。皆様、それぞれにご事情がおありですものね……」


 二人でいるところを見られたら、何か不都合なことでもあるのだろうか。

 この二人なら今日のインタビューの主旨にぴったりだと直感で判断して呼び止めたにもかかわらず、何だか雲行きが怪しくなってきた。

 これも、イケメンと美女ならではの宿命とでもいうのだろうか。

 こんなに若いのに、わけありだなんて……。


「では、こういうのはどうでしょう。お二人の映像の方は流しませんので、こちらの質問にだけ答えていただくということで……」


 せっかく絵になる二人なのに、映像を流せないのは残念だ。

 でも、あとあとトラブルになるのも局としては避けたいので、アンケート調査にだけ協力してもらおう。うん、それがいい。


「それなら、大丈夫です。関東にも親戚が多いので、やっぱり映像は控えてもらった方が助かります」

「そうだよね。その方がわたしも安心だし」


 彼女もほっとしたように笑顔になる。


「あ、はい、承知いたしました」


 いったいこの若い二人に親に知られてはいけないどんな理由があるというのだろう。

 個人的にはそっちの方が興味津々だ。


「あ、いや、別にそんなに深い意味はないんです。ご心配をおかけして、すみません。せっかく声をかけていただいたのに、こちらの都合で企画をつぶしてしまったようで、申し訳ないです」


 しまった。私のミーハーな気持ちが顔に出てしまったのだろうか。はるか君にいらぬ気を遣わせてしまったようだ。


「企画をつぶしただなんて、そんなこと気になさらないでください。こうやって話を聞いてくださるだけでもこちらとしては大変ありがたいことだと思っておりますので。ですので、映像の件はどうぞご安心下さい」


 私は気を取り直して、本来の業務に集中することにした。


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