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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
特別編2 街頭インタビュー
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クリスマス、恋人たちは…… その1

遥と柊の二人は、いったいどんなクリスマスを過ごしていたのでしょうか。

まだ大学生の頃の二人が、とまどいながらも街頭インタビューに答えている物語です。

女子アナ視点になります。



 テレビ局に入社して二年目の私は、担当している番組のディレクターから街頭インタビューを命じられた。

 昨日からの寒波で、戸外は朝から雪がちらちらと舞っていた。

 窓の近くに立つだけで、冷たい空気がどこからともなく押し寄せてくる。

 清水の舞台から飛び降りる覚悟で買ったカシミヤのセーターを着てはいるけれど、その程度のモノでは何の助けにもならないのだと学習したのが、今回のクリスマス寒波だ。

 そんな中、テレビ局のマークが入った薄手のジャンパーを着て、カメラマンの山田さんと一緒に街に繰り出さなければならない。

 案の定、外の寒さは尋常ではなかった。

 私と山田さんは、そこそこ人通りのある商店街の片隅で、マイクを持ってターゲットがやってくるのを待った。



「ねえねえ、お姉さん」


 そう言って寄って来たのは中学生だろうか。

 クリスマスを間近に控え、もうすでに冬休みに入ったのかもしれない。

 瞬く間に数人のかわいい女の子たちに囲まれてしまった。


「うわーー、テレビの人でしょ? ねえねえ、どこのテレビ? お願い、あたしも撮ってよ」


 こうやって外に出ると、必ずと言っていいほど今のような場面に出くわす。

 かと言って、今忙しいからあっちに言ってなどとは口が裂けても言えない。

 彼女たちの好奇心は、私が子どもの頃に抱いていたものと同じだったからだ。


「こんにちは。学校はもう冬休みになったのかな? 」


 スマイル、スマイルと自分に言い聞かせて、努めて穏やかに話すよう心がける。


「うん、そうだよ。昨日から休みなんだ。お姉さんは冬休みじゃないの? 」


 マフラーの両端にあるポケットに手を入れた真っ赤なほっぺの子に、不思議そうに訊かれた。


「そうね、まだ冬休みじゃないんだ。こうやって街の人にインタビューして、仕事をしているのよ」

「ふーーん。仕事なんだ。寒いのに大変だね」


 納得したのか、彼女の追及はあっけないほどすぐに終息を迎えた。

 大変だねとねぎらいの言葉までかけてくれて、くったくのない笑顔をふりまく。

 私は、とにかくほっと胸を撫で下ろした。


「お姉さんは、これからも仕事をがんばるから、みんなも勉強や部活動、がんばってね」

「うん、わかった。じゃあね。お姉さん、これからも頑張ってね。テレビ観て、応援するから! 」


 カラフルなタイツと、もこもこのブーツを履いた集団が、手を振りながら遠ざかっていく。



「たとえ相手が子どもであっても、きちんと誠実な対応をすること。彼らは大人の賢さもずるさも、すべてをくまなく見抜く才能を、生まれながらに持ってるものなの」


 先輩はいつも口を酸っぱくして、新米の私をたしなめるようにしてこう言った。

 教えに従って、彼女たちと向き合った結果、今日もなんとか無難に関門を潜り抜けることができたのだ。

 

 今日のインタビューは、カップルたちのクリスマスの過ごし方を探るのが第一の目的だ。

 担当番組のとあるコーナーでインタビューの結果を集計して、お茶の間の皆様に伝えるという企画になっている。

 もちろん、インタビューそのものの映像も使う可能性があるのは言うまでもない。

 今日のテーマにぴったりのカップルを探そうと、目を皿のようにして、歩いている人の波を追った。

 どの人も寒いのか、コートの襟を立て、マフラーで顔を覆うように巻いていたりして、とても声をかけ辛い状況だ。

 それに、カップルがこの商店街に繰り出すには、まだ時刻が早いのかもしれない。

 ほとんどの社会人カップルは、まだ仕事中なのだろう。

 だとすれば、ターゲットは、大学生か高校生になる。

 はたまた熟年のカップルで協力的な人を探さなくてはいけない。


「あの……」


 ちょっとマイクを向けただけで、足早に逃げ去っていく人。

 確かにカップルで歩いていたはずなのに、呼び止めた瞬間、片方の人がいなくなってしまったり……と思うようにことが運ばないのがこの仕事のありがちな光景だ。

 あーあ、今日もなかなかうまくいかないな、とあきらめかけていた頃、商店街の横道からやってきた若い二人連れがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

 背の高い男性と、すらりとした女性が、仲良く手をつないで近付いてくる。

 私の念が通じたのか、カメラマンの山田さんも迷うことなく二人をターゲットに据えカメラを構えた。


「あの、すみません」

「はい、なんでしょうか」


 マイクに向かって返事をしてくれた男性がこっちを見た瞬間、私はあまりの衝撃に次にかける言葉をすっかり忘れてしまった。

 そしてあろうことか、その男性の超絶に甘いマスクに、ついうっとりと見とれてしまったのだ。


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