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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
特別編1 希美香の恋
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希美香の恋 その17

「いたたたた……」


寝違えたのだろうか。希美香は首に手をやり、うめき声を上げた。


「あ……。蔵野さん、大丈夫ですか?」


どうしたのだろう。誰かが朝っぱらから、大丈夫ですか、などと素敵な声をかけてくれる。そんな目覚ましアプリをダウンロードした記憶はない。


「さあ、起きるぞ!」


いつものように気合を入れて、布団から起き上がった……はずだった。何だろう、このスプリングの効いた敷布団の感触は。


「あっ、いたたたたた……」


今度は首ではなく頭だった。とんでもない頭痛に襲われ、再び布団にもぐりこんでしまった。


こんなことをしていたら仕事に間に合わなくなってしまうというのに、思うように身体が動かない。


「……さん、蔵野さん、大丈夫ですか?」


またあの声だ。柔らかくて、優しい声。そう、大河内先輩によく似た響きの声がさっきより近くで聞こえる。希美香は手を伸ばし、枕元に置いてあるスマホを探した。ところが、ない。


よっこいしょ、とさらに遠くに伸ばした。あれ? あれれ? と手をあちこちにごそごそと動かしながら、もっともっと伸ばした。なのに……。


スマホはどこにもなかった。


「やだ。私ったら、スマホをどこかに置いたまま寝てしまったのかな。今、何時だろう。遅刻しちゃうよ、どうしよう」


一人、ぶつぶつとしゃべりながら、意を決して再び起き上がる。すると。


「うわーーーーーっ!」


あまりの衝撃的なご対面に、咄嗟に出た声がこれだった。




目の前に。 いる。


爽やかなあの声の持ち主である張本人が、希美香の目の前にいたのだ。



「お、大河内さん? あの、どうして、ここにいるんですか? 私、いったいどこに……」


「蔵野さん。おはようございます。もう大丈夫ですか? まだもう少し寝る時間はありますよ」


「あ、はい。頭痛がする以外は、大丈夫だと……」


夢ではないみたいだ。頭痛もリアリティーに溢れている、というか、マジでガンガンズキズキと痛い。


「薬がありますから、飲んでくださいね。それとここは、私の家ですよ。夕べ、ここにお連れした時も、しっかり了解をとったのですが、憶えていませんか?」


「いや、何も……」


希美香は、必死になってここに来るまでのことを思い出そうとしてみたのだが、記憶がまばらすぎて、ここに来た理由にまで行き当たらない。


「あ、心配しないで下さい。このとおり、私は昨夜の服のままですから。蔵野さんも、着ておられた服のまま、私のベッドに横になってもらいました。人に言えないようなことは一切ありませんので、どうか、安心して下さいね」


大河内先輩が言ったとおり、希美香は昨日の服装のままだった。もちろん、目の前の先輩も、昨夜と同じカッターシャツとスラックスを身につけたまま、希美香の寝ているベッドの脇にたたずんでいる。


「あのう、もしかして。私、酔っ払っちゃったのでしょうか」


「ええ、まあ、そうですね。でもしっかりと歩いていたし、タクシーに乗るまでは、普通に会話もしていたのですが、乗車したとたん、蔵野さんの意識が朦朧としてしまって。どこにお送りすればいいのかわからなくて、私のこのマンションまで来てしまった、というわけです」


「そうだったのですか。ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまって」


「いいえ、迷惑だなんて、そんなことありませんよ。ここに着いた時、蔵野さんの意識がはっきりとしてきたので、今から送りましょうと言ったのですが、蔵野さんが、その……」


「その時のこと、なんとなく、憶えてます。恥ずかしいです……」


希美香は、次第に呼び醒まされていく夕べの記憶に、穴があったらすぐにでも入りたいくらい、いたたまれない気持ちになる。


帰りたくない、もっともっと大河内さんと一緒にいたい、などとほざいた一場面が、やけにクリアに脳内に再現される。


「蔵野さんの住んでいらっしゃるところは、まだ聞いていませんでしたので、工房の管理主任に連絡を取って、住所をお聞きしようと思ったのですが……」


それを聞いた瞬間、さっと血の気が引くのを感じた。管理主任にそんなことを聞かれたら、大河内先輩と遅くまで飲み歩いて、挙句、酔っ払ってしまったことまでばれてしまう。まさか、本当に電話をかけたのだろうか。

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