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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第七章 あかし
224/269

224.こんぺいとう その3

「なあ……。俺が柊のことを好きになったの、いつだと思う? 」


 突然そんなことを訊くものだから、わたしはびっくりして思わず遥の顔を覗き見た。

 それに気付いた彼もこちらを見て、にっこりと目を細めた。

 簡単なようで難しい質問だ。

 もちろん、プロポーズのあとだろうということは予測がつく。

 まさかとは思うけど、大学生になってからとか。

 いったいいつなのだろう。


「なあ、いつだと思う? 」


 わたしが黙ってあれこれ考えていると、もどかしいのかまた同じ事を訊いてくる。

 そんなこと急に言われても困る。

 そういえば、二人の歴史の始まりとも言えるとても大切なことなのに、一度もその話をしたことがないのだ。

 今さらかもしれないけど、知りたくなってきた。

 ああ、段々と知りたくてたまらなくなる。

 ならば直感を大切にして答えてみよう。

 もちろんわたしの願望を最大限に重視することにして。


「えっと、中三の時でしょ? 」


 多分違うのだろう。

 けれどこの頃から急に仲良くなったのは間違いない。

 そうであってくれれば嬉しいなと、ささやかな乙女心を語ってみたのだが。


「残念でした、ハズレ。一年生の時だよ」


 一年生? 一年生って、大学の? 

 やっぱりそんな後だったのだ。


「そっか。大学一年の時だったんだ。ちょっぴり残念」

「え? 」


 遥が不思議そうにわたしを見ている。


「ええっ? 違うの? 」


 ならば、いつの一年生だというのだろう。


「んなわけないだろ。俺がプロポーズしたのはいつだよ。中三だろ? 好きでもないやつに、誰が結婚しようなんて言うか……」 


 意外な答えが返って来た。

 ということは中一ということになる。

 これは嬉しい誤算だ。


「へえ、そうだったんだ。遥ったら、全然そんなそぶりを見せないんだもの。何も気付かなかった。じゃあ、わたしは中二の時に遥が好きだって気付いたから、遥の方が一年多いよね。好きな期間。なんか嬉しいな」


 わたしより一年も前に、好きになってくれていただなんて……。

 わたしって、なんて幸せ者なんだろう。

 けれど不思議な事もあるものだ。

 そのころの遥と言えば、ただただ冷たかったし、ほとんどかかわりを持たなかった時期でもある。

 それなのに好きだったなんて、わかりにくいにもほどがある。

 彼がどんなに不愛想であったとしても、そのころから気にかけていてくれたのだ。

 人から見れば、とても些細なことかもしれないけど、プロポーズより嬉しいかもしれない。


 本当に心からそう思っている。

 たったの一年だけど、わたしより余分な期間、好きでいてくれたのだ。

 この事実は、わたしを幸福のど真ん中に導くのに、もう充分すぎるほど充分な出来事だった。


 なのに……。なのに遥ったら、なぜか不服そうな顔をして、わたしを横目で睨んでいる。

 どうしたというのだろう。

 何か余計なことを口走ってしまったのだろうか。

 あ……。そうだ。

 わたしの方が後でに遥を好きになったのが気に入らないのかもしれない。

 わたしも中一からだよ、一緒だねって、話を合わせた方がよかったのだ。

 男心がここまで厄介なものだとは、思ってもみなかった。


「柊ぃ……。誰が中一って言ったよ」


 遥がさもあきれたとでも言うように首を振り、腕を組む。

 そこはかとなく怒りのオーラが漂っているのはもう間違いない。

 男心はこんなにも難しいものだったのだ。


「え? 違うの? だって一年生って、今確かにそう言ったような……って、こんな言い争い、もうやめようよ。わたしが遥を好きになった時期が遅かったのが気に入らないんでしょ? そんなこと言ったって、こればかりは仕方のないことだし」


 そうだ。人を好きになるのなんて、ほとんど不可抗力みたいなものなんだから、そんなにタイミングよくコントロールできるのなら誰も苦労はしない。


「おいおい、柊ちゃん。何か勘違いしてないか? だから。俺が言ってるのは、小学校の一年だよ」


 なんだ、その一年生か、なるほどね。

 って、ちょっと待って。

 それって……。


「小学校の、一年生? ま、まさか……」

「ああ、そのまさかだ。マセがきで、悪かったな……」


 遥がぷいと横を向いた。

 小学校の一年生と言われても、そんなの誰が信じるだろう。

 ピカピカのランドセルを背負って黄色い帽子をかぶっている、あの一年生だよ? 

 ……あ、ありえない。


 意地悪で、いたずらばかりしていたあのガキ大将、遥くんが、わたしに恋をしていたと言うのだ。


「ったく……。鈍感で幼い柊ちゃんに、俺の気持ちをわかってもらおうと、それはもう、いろいろ苦労したよ。俺の柊へのちょっかいは、好きだからこそのものだった。おまえ、マジでやり返してくるから、俺は痛さよりも自分のふがいなさに泣いたもんだよ」

「そ、そんなあ……」


 なんて不可解な現象なんだろう。

 どうしてそんな回りくどい態度を取る必要があったのか不思議でしょうがない。

 もっとストレートに柊が好きだって言ってくれれば、わたしだって小学生の時に遥が好きになっていたかもしれないのに。


「それで、小学校高学年からは作戦を変更したんだ。わざと無関心を装う作戦」

「何? それ……」


 またもや難解なことを……。

 男の子って、好きな女の子を前にして、皆こんなに無駄な労力を使うものなのだろうか。

 果てしなく未知な生き物だってことがよくわかった。


「出来るだけ、無視するってやり方だ。そうすれば、柊の方からこっちに歩み寄ってくると思っていた。わたしに冷たくしないで、ねえ遥さん、わたしを見てってな。でも、これも裏目に出てしまった。あいつの出現で、あえなくまた作戦変更を強いられるはめになる」

「あいつって、もしかして……」


 もしかしなくても、きっとあの人だ。



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