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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第七章 あかし
211/269

211.結ばれる心 その1

 思ったより早くそっちに行けそうだと移動途中の遥から連絡があった。

 学校の夏休みと週末が重なり、車での移動は渋滞発生のため無理だと判断した遥は、新幹線でこちらに向かっている。

 最寄の駅に着く時刻を見計らって車で遥を迎えに行くというのを、何が何でも阻止されたわたしは、あろうことか(なか)ば強制的に、自分の部屋の布団の上に寝かされている。

 入れ替わり立ち代わり、誰かがわたしの部屋を覗き込み、大丈夫? と声をかけてくれる。

 エアコンの設定温度は低すぎないか、気分は悪くないか、あるいはお腹は痛くないか、などとこと細かに状態を訊ねられ、座ることさえ許されない。

 居間には、俊介おじさんと綾子おばさん、おばあちゃんに卓に母……と、オールスターそろい踏みで、遥の帰りを今か今かと待ち構えているのだ。



 わたしのカミングアウトを半信半疑で聞いた母は、呆然としながらも父に電話であらましを伝えると、携帯から漏れ聞こえる父の声が予想以上に大きく跳ね返って来ることに驚いた。

 柊が何だって? 遥がどうしたって? 赤ちゃんってなんだ! と同じことを何度も繰り返し怒鳴っている。

 とにかく父が今すぐに帰って来るということだけはわかった。


 次は綾子おばさんだ。

 母の要領を得ない電話で何事かと駆けつけたおばさんは、わたしをじっと見て、どう言う事? と訊いて立ちすくんでいる。


「柊ちゃん。赤ちゃんができたって、本当? いや、何のことかよくわからないけど。じゃなくて、柊ちゃんがお母さんになるのよね。で、遥がその子の父親って……。あああ。さっぱりわからないわ。つまりその、二人に、赤ちゃんができた、ってことなのよね。お姉さん、私の言ってる事、正しいのかしら。何が何だか、よくわからなくて」

「そうなのよ。私だってさっぱりわからなくて。この子がずっと調子が悪いものだから、今日、病院に行かせたの。そしたら、赤ちゃんが出来てるって。それも、はる君との間に。柊、それでいいのよね? 」

「う、うん。そう、なんだ。びっくりさせてごめんなさい。遥とは、その、向こうにいる時によりをもどしてて。わたしが帰国したら入籍しようって、そう決めていたの。で、このところ具合がよくないから先生に診てもらったら、赤ちゃんができたってわかって……」

「まあ!! 」

「うん」

「なんてことなの。柊ちゃん、おめでとう。よかったね。そうだったのね、そうだったのね……」


 綾子おばさんが、泣いているのか笑っているのかわからないくらい顔をくしゃくしゃにして、わたしに抱き付いてきた。


「あの子が柊ちゃんに会いに行ったの? 」


 おばさんが身体を離し、わたしに訊ねる。


「そうだよ。仕事を辞める覚悟でロスまで来てくれたんだ」

「もう本当に、あの子ったら……。柊ちゃんは、あんな極悪非道なうちの子を許してくれるの? 」

「許すとか許さないとか。そんなんじゃないって。極悪非道だなんて、いくらなんでも言い過ぎだってば。両成敗だよ。わたしだって素直じゃなかったし、みんなにいっぱい迷惑かけ……ちゃ……って……」

「柊ちゃん? 」

「柊っ! 」


 立ちくらみを起こしてしまったようだ。

 少し目の前が暗くなって、ふらついてしまった。


「あ、もう大丈夫だ、か、ら……」

「大変。早く横になりなさい。お姉さん、柊ちゃんを部屋に連れて行きましょう」

「そうね。安静にしなきゃ」


 すっかり意識も元通りになり普通に歩けているにもかかわらず、母とおばさんはわたしを両脇に抱え、奥の部屋へとかいがいしく運んでいく。

 わたしはこうやって、重病人に仕立て上げられてしまった、というわけだ。



 遥を迎えに行くと買って出たのは、意外にも一番それを拒否しそうな立場にいる父だった。

 飛んで帰って来たという表現がぴったりのあまりにも素早い父の帰宅に、わたしと母とおばさんは顔を見合わせる。

 わたしが寝ている部屋で、母の口から再び妊娠について告げられると、父は電話ですでにその話を聞いているにもかかわらず、何のことかさっぱりわからないという顔をして腕を組み、うーーんと唸っていた。

 わざとしらばっくれているのかとも思ったが、父はそこまで器用な人間ではない。


 結婚もしていないおまえがどうしてそんなことになるんだ、誤診だろ、とついに医師の診断にまで文句を付け始めた。

 知り合いの医院で、もう一度診てもらえとまで言われなすすべもない。

 今日初めて妊娠を知った遥が、わたしの身体を気遣って今夜緊急に帰省すると言うと、やっと意味を理解したのか、孫が出来たのか? とだけ言って、その後は黙ってしまった。


 そしてようやく口を開いたかと思えば、それはある意味この場に最もふさわしい質問が、父の最大の疑問点としてわたしと母とおばさんに突きつけられる。


「いったい、誰の子だ? 」 と。


 だから、はる君に決まってるじゃないですか。でなければ、わざわざ東京からここに帰ってくるわけないでしょ……という、さも当然だといわんばかりの母のフォローも、今の父には何の役にも立たない。


「なんで相手が遥なんだ。遥は東京にいるんだろ? それとも、柊がこっそり日本にもどっていたのか? 」

「そ、それは……」


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