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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第六章 うんめい その2
192/269

192.忘れられない恋 その1

今回、柊視点になります。(以下147.振り子のように その2 より)


「これからは、お互いに隠し事はなしだよ。君がまだ堂野を忘れていないのはわかってる。でも、僕だけを見てくれるようになるまで、あきらめないよ。堂野も結婚するんだし……」

 やっぱり、見抜かれてたんだ……。わたしの心を行ったり来たりする遥の面影に大河内は気づいていた。

 それでもわたしと結婚しようとしている大河内は一体何を考えているのだろう。

他の男性を好きかもしれないと思いながら妻にしようだなんて……。本当にそれでいいのだろうか。

 けれど、たった今、大河内が不思議なことを言ったような気がするのだ。遥が結婚することを、どうして彼が知っているのだろう。そのことはまだ世間には公表していないはず。

「あの、大河内君。ちょっと気になるんだけど。あの、その……。堂野が結婚すること、どうしてあなたが知っているの?」

 再びメガネをかけ直した大河内の目が、キラッと鋭い光を放ったように見えた。

「ああ、そのことね。君にはまだ言ってなかったけど、僕、実は去年まで、雪見しぐれと付き合っていたんだ」

 雪見しぐれと付き合っていた……。

 さらりと言ってのける大河内のこの一言は、実際はわたしの心臓を停止させてしまうほどの威力を備えていることに、次第に気付かされていくのだった。



「大河内君……」

「なんだい? 」

「あの……。しぐれさんと付き合ってたってこと、本当なの? わたし、何も知らなかった……」


 動揺している。

 あんなにきれいな女優さんと付き合っていたという大河内を前に、ますます自分が彼にとってふさわしくない相手だと思ってしまう。


「ああ、そのことね。もちろん、誰にも知られないように、こっそり付き合うって感じだったからね。でも、結局うまくいかなかったんだ。しぐれはあのとおり、一途で、素敵な人だよ。彼女は仕事が忙しいという物理的な問題以外、なんの落ち度もなかったんだけど、僕が自分の気持ちに嘘はつけなかったってことかな」


 それは、つまり、わたしを忘れられなかったということなのだろうか。 

 本当に、こんなわたしでいいのかとますます萎縮してしまう。

 しぐれさんの足元にも及ばないこのわたしが、この人の彼女になれるのだろうか。

 これはもう、彼を信じるしかない。わたしでいいんだ、と。


 人から好かれるのは心地いい。

 ただしストーカーみたいに付きまとわれるのは困るけれど、大河内のように常識人で、良く知っている人物にここまで思われて悪い気はしないのも事実だ。

 中学時代はとにかく学校イチの人気者で、ファンクラブまであったくらいだ。

 勉強も常に学年トップで、すべてにおいて遥を上回っていた大河内大輔。


 私立の難関中高一貫校に、より一層合格が難しいとされている高校からの入学で、周りを驚かせたりもした。

 ところがその後、ばったりと彼の活躍を聞かなくなり、大学は一浪。

 彼に限って、勉強で落ちこぼれるなんてことは、絶対あり得ないと信じて疑わなかっただけに、夢美や希美香から聞きかじった近況報告は首を傾げるものばかりだった。


 以前から思っていた謎が、さっきの彼のカミングアウトであっさりと解けた。

 まあ過去がどうであれ、今後ますます本領を発揮して、仕事に私生活にと充実した毎日を送れば何も問題はないと思う。

 将来の夫としても全く不満はない。


 さっき、お互いに隠し事はなしと言っていた。

 その言葉どおり、これから時間をかけて、ゆっくりと過去の二人の隙間をうめていけばいい。

 なんでも聞いて理解し合って、少しずつ愛を育てていけばいいのだ。


 わたしと大河内の関係は、まるでお見合い結婚のようだ。

 今になって考えてみると、大河内のことはほとんど何も知らないまま大人になってしまったと気付く。

 昔の人は結婚式のその日まで、相手の顔も知らずに嫁ぐことも多かったと聞く。

 それに比べれば、わたしの場合、まだましな方だ。

 少なくとも彼は今のわたしを愛してくれているし、中学の時からずっと好きだったとも言ってくれた。

 だから大丈夫。きっと幸せになれるはず。


 今聞いたばかりのしぐれさんとの付き合いも、そして、わたしの知らない誰かと恋人同士だったことがあったとしても、気にしない。

 誰にでも実らなかった恋の一つや二つくらいあるはずだ。

 わたしだって、遥という恋人がいたのだから、とやかくいう資格はない。


 でも、どうしてしぐれさんと付き合うようになったのだろう。

 しぐれさんだって遥と同じく、遥以外の人と付き合うのは人の目もあって簡単ではないはずだ。

 ただし彼女の場合、若いけれどキャリアは遥よりずっと長い分、あまり制約がなかったとも考えられる。

 事務所も力のある大きなところだと聞いているので、比較的自由に振舞えるのかもしれない。

 しぐれさんが大河内に関心を寄せていたのは、それとなくわかっていたけれど……。

 彼女が勇敢にも行動を起こしたと考えるのが妥当だろう。

 そして、彼女に頼まれた遥が、本当に二人のキューピット役を担ったとしか思えない。


「ねえ、大河内君。しぐれさんとは、その……どうやって付き合うようになったの? 」


 そうだ。その調子。なんでも聞いて、お互い分かり合うのが一番だ。

 知らないまま思い悩むなんてことは絶対に避けたい。

 これくらいのことなら、別に聞いたってかまわないと自分に言い聞かせる。


「どうやってしぐれと付き合うようになったかって? ははは……。皮肉なもんだよね、まったく……」


 大河内の冷めた笑い声がリビングルームに響く。

 彼は天井を見たあと、ひとつ大きなため息をつき、いつものクールな顔でわたしに向かって言った。


「僕と君を引き離す必要がある人物と言えば、ヤツしかいないでしょ。あっ、ごめん。ヤツだなんて……。いくら君たちが別れたといっても、柊にとって堂野は、永久に身内なんだよね」


 別にそんな風に言ってもかまわない。

 だって、遥もずっと大河内のことを、ヤツとかあいつとか、言いたい放題だった。


「あの、わたし気にしないから。そのまま話して」


 大丈夫。それくらいのことで怒ったりなんかしない。

 ふっと笑みをこぼした大河内が続けて答えてくれる。


「それで堂野は、建前上はしぐれと付き合っている、となっているわけだから、自分の彼女を、別の男に紹介するなんてことを堂々とやってくれたんだ。もちろん僕だって、あんな嘘っぱちな報道は信じてなかったから別に驚きもしなかったけどね。君のことはほぼあきらめてたのもあって、僕との交際はしぐれの望みだと聞いて、正直、舞い上がってしまった。君も知っている通り、雪見しぐれは、唯一僕が興味を持っていた女優だったから……」


感想コメントをいただき、ありがとうございます。

後日、活動報告にて、お返事させていただきますね。

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