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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 あこがれ
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12.よったんと沢木さん その2

「あーーん、ひいらぎちゃん。そぉーんなことしないでぇ……。早く顔上げてよぉー。あたしもよったんも、やなっぺにはすんごくお世話になってんのぉ。ひいらぎちゃんはやなっぺのお友達なんだから、あたしたちのお友達でもあるわけ。だからさあ……」


 これ以上のピカピカの黄色は見たことないだろうと思われるくらい明るく染めた髪を、くるくるに巻いて両サイドに垂らし、一度に一本使ってしまったの? っていうくらいどっさりマスカラの付いた重そうなまつげをゆっくりと上下させながら、沢木さんというオトメなかわいらしい人が、わたしを友達だと言ってくれる。

 以前、やなっぺから聞いていたこの沢木さん。

 なぜかサワキさんというのがニックネームで、本名は別にきちんとあるらしい。

 人は見かけによらないとはよく言ったもので、この一見今どきギャルのような沢木さんだが、素性を明かせば今をときめく日本画科のホープで、もうすでに大きな賞をいくつかとっているツワモノだったりするのだ。


「ほぉーーんと、遥くんっていい男だわぁ。モテるのも無理ないしぃ。このは、カレのことタイプよ」


 沢木さんが上気した頬に両手をあて、ポスターの遥をうっとりと見上げて言った。

 もちろん、重たそうなまつ毛を何度も細かく上下させるのを忘れずに。

 というか、彼女は、このは、という名前なのだろうか。

 じゃあ、本名は沢木このはさん?


「けどさぁ、男なんて星の数ほどいるんだしぃ、また探せばいいのよぉ。ねっ、ひいらぎちゃん! 」


 ねっ、て沢木さん……。

 あなたならいくらでもお相手を見つけられるだろうけど、今まで十九年生きてきて、これといって浮いた話のなかったわたしには、結局のところ遥しか好きになった人はいない。

 遥がモテるのは無理ないとか言われると、余計に辛くなる。

 彼女のブリブリした上目遣いに圧倒されながらも、わたしはなんとか意識を持ち直し、沢木さんに曖昧に微笑み、口をつぐんだ。


「ちょっと、沢木! あんたと柊を一緒にしないの! 」

「は、はーい」

「柊はね、ずっと堂野一筋なんだよ。中学生の時からずーーっと! だから今回のことはちょっとお灸を据える程度に奴を懲らしめて、なんとか二人を仲直りさせたいと思ってる。だから沢木も言い方に気をつけて! 」

「やなっぺったら、なんだかこわぁい。そんなに怒んないでよぉ。やだぁ、わかったからさあ……」


 沢木さんが、瞬きを繰り返しながら、身体をくねらせる。

 それにしても、やなっぺ……。

 素敵なフォロー、ありがとう。

 なんとか仲直りできるよう、わたしも精一杯努力してみるね。

 次はきっと、わたしがやなっぺを助けるから……。


 と言ってもこれだけはどうすることも出来ない悲しい現実がある。

 やなっぺは、遥の親友でわたしの幼なじみでもある藤村が好きだった。

 ……いや多分、今でも好きなはずだ。

 高校の時彼女は、大胆にも藤村に何度も告白しては断られていた。

 彼女のさっぱりした性格のせいか、藤村の大らかなキャラのせいか、不思議と二人はその後もぎくしゃくすることなく、普段は仲良し四人組で楽しく過ごせていたと思う。


 ところがある日突然、二人は付き合い始めたのだけど、たった一ヶ月で敢え無く破局してしまった。

 というのも、藤村が初恋の相手の夢美に二度目の告白をしてだめだったあと、落ち込んでいる彼をやなっぺが慰めたのが付き合い始めた理由なのだけど、やはり夢美を忘れることのできない彼に、彼女の堪忍袋の緒が切れたというのが、破局の原因だったらしい。

 実らぬ恋にけじめをつけるためにも故郷を離れ、東京で新しいスタートを切ったやなっぺ。

 そして、将来まで誓い合った相手とのいざこざで、こうやってみんなを巻き込んで大騒ぎをしているわたし。

 やなっぺが受けてきた心の傷に比べると、わたしの悩みなんて、とてもちっぽけなことなのかもしれない。

 自分の人間としての器の小ささに、いい加減、げんなりしてしまう。


「なあなあ、柊さん。中学生の時からずっとこの人と付きおうてるんか? 」


 よったんがポスターを指さして訊ねる。


「う、うん。そうだけど……」

「それってえらい長い付き合いやな。そうや。あんたら倦怠期(けんたいき)ちゃうか? 長い付き合いの間にはいろんなことがあるしな……。柊さんも、もうちょっと、自分自身に気ぃつこた方がええんちゃうかな? そんなありきたりな地味な格好しとらんと、パァーっと派手にいってみた方がええで」

「そうそう! そうしな、柊。あいつもこっちに来てから目が肥えてきてるんじゃない? あんたの大学、雑誌の取材も多いし、きれいな人、いっぱいだもん。よったんや沢木にアドバイスしてもらって、ここいらでちょっと変身してみるってのも一案だよね」


 変身って……。ライダーシリーズでもあるまいし、そんな簡単に今のスタイルを変えることなんてできない。

 そういえば春休みに実家に帰った時、遥の弟のすぐるが、○○ライダーキック! なんて言いながら、わたしに戦いを挑んできたこともあった……って、今、こんなこと思い出している場合ではないのだけど。

 わたしは改めて、自分の身につけている衣服を、隅々まで眺め回してみた。



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