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続こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第三章 ぜつぼう
114/269

114.藤村応援団、ただいま参上! その2

「お願いします。そんな固いこと言わないで下さいよ。あたしたちただの学生だし、大学バスケのファンなんですよ。ちょっとくらい入れてくれたっていいじゃないですか! 」


 やなっぺはひるむことなく、じりじりと距離を詰めていく。


「そんなこと言われても……。ダメなものは、ダメなんですから。許可がないとダメなんです、あなたたちを特別扱いして勝手に入れるわけにはいかないんですっ! 他のファンを名乗る方々にも、お引き取りいただいているんです! 」


 相手も負けてはいない。こめかみに汗を滲ませながら両手を広げ、断固阻止の態度を貫いている。

 選手の家族や、実業団、大学関係者、マスコミ関連の人でないと入れないのはよくわかった。

 それにしてもここまで人物認証が厳しいとは思ってもみなかった。

 尚も押し問答を続けていると急に扉が開き、館内から選手が二人、こちらに向って歩いてくるのが見えた。

 わたしもやなっぺも固唾を呑んでその二人を見守った。

 後方に見え隠れしているのは……。

 ああ、なんというタイミングの良さだろう。

 藤村だ。藤村がこっちに向かってやってくるではないか。


 ようやくわたしたちに気付いた藤村が、ぎょえっと意味不明な声をあげ、前につんのめった。


「お、おまえら、なんでここにいるんだよ。いったい、どーしたんだ? 何かの冗談? 」


 大きく目を見開いた藤村がこちらに駆け寄り、わたしたちを不思議そうに見下ろしていた。

 わたし、常々思うんだけど……。

 藤村ったら、会うたびに大きくなっているような気がする。

 もうすぐ二メートルを越しちゃうんじゃないかってくらいに、にょきにょき背が伸びているようだ。

 でも一緒に歩いてきたもう一人の人も、藤村と同じか、あるいはそれ以上に大く見えた。

 すかさずやなっぺが彼らの前に一歩踏み出し、にっこりと微笑んだ。

 すると、さっきまで睨み合っていた係員がきょとんとした顔をして、やなっぺと藤村を交互に見ていた。


「はーい。にわか仕立て、藤村私設応援団、団長の柳田と副団長の蔵城が、遠路はるばる長野までやってまいりました! 」


 やなっぺがまるで兵隊さんのように敬礼をしながら、姿勢を正しておどけてみせる。

 みるみる彼女の形相が緩んでいく。


「藤村応援団って……。そんなもん、急に言われても……」


 腕を組み首を捻る藤村が、わたしに向かって困惑の視線を投げかける。


「あ、あの……。突然来ちゃってごめんね。だけど、どうしても藤村の頑張ってる姿が見たくて、ここまで来てしまったの。でも、中に入れてもらえないんだ。やっぱ、急にお願いしてもダメだよね。藤村に迷惑かけられないし……。わたしたち、そろそろ帰らなきゃ。ねえねえ、やなっぺ。今日はもう、あきらめよ……」

「ええ? せっかく来たのに。そんなのいやだよ」

「やなっぺ。ここは藤村の顔を立てて。もう無理強いするのは辞めて帰ろ。あの、ホントにごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」


 わたしは係員の人に無礼をわび、やなっぺの手を引いてそこから立ち去ろうとしたのだが。


「おい、待てよ。せっかく来たのに、もう帰るって? 」


 藤村が、今にも帰ろうと踵を返したわたしたちを慌てて引き止めた。


「なんで前もって俺に連絡しなかったんだよ」

「だって、迷惑かけちゃうし。それに、突然行って藤村をびっくりさせるってのも、いいかなって」

「なんだ、それ」

「えへへへ」


 やなっぺが照れ笑いを浮かべる。


「さあさあ、二人とも遠慮せずに中に入れよ」

「ええっ!! いいの? 」


 思わずやなっぺと声を合わせて叫んでしまった。


「いいも何も、来てしまったんだろ? あとでチーム役員に俺の関係者として報告しておくからさ」

「ありがとー、藤村くん、うふっ! 」


 やなっぺが両手を胸のあたりでぎゅっと握りしめ、乙女チックに喜びを表現している。


「で、蔵城。いろいろ大変だったんじゃないのか? 堂野のやつ、それにしてもすっげえよな。寮の食堂でテレビ見てたら、突然画面にあいつの顔写真が大写しになって、びっくりしたのなんの。堂野、なんでおまえがここにいるんだーー! って俺、マジでテレビに向って叫んでたし」

「ふ、藤村……」


 いきなり遥の話題に切り替わったものだから、わたしの心臓が無防備にドキッと跳ね上がった。


「そのあと、あいつの携帯はつながんねえし、連絡取れなくて苦労したわ……ってなわけで、この二人、決して怪しい者じゃないんで。俺、責任持ちますから、固いこと言わないで中に入れてやって下さい、お願いします」


 藤村が係員に向かってぺこっと頭を下げた。

 係員は怪訝そうな目でわたしとやなっぺ、そして藤村の顔を見たあと、なら、どうぞ……としぶしぶ了解の言葉を発し、わざと大きな靴音を響かせてその場を去って行った。

 

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