7話
「――――クスクス」
「――――クスクス」
話し声が聞こえる。
軽やかで楽しそうな話し声だ。
(何話してるんだろう…………じゃなくてっ!床が底なし沼になって、俺、それに呑み込まれたんじゃなかったっけ!?)
どうやらルイスは眠っていた、いや、気を失っていたらしい。
まだ少し頭がぼーっとするが、重い瞼をゆっくりと持ち上げた。
「え?嘘だろ…?」
そこには、信じられない景色が広がっていた。
木も草も花も、全てが淡く光っていて、何とも言えない芳しいよい匂いが辺りに漂っている。
そして、小枝や葉っぱ、花弁などに腰掛けて、人の親指ほどの大きさの精霊達がルイスの方を見て囁きあってクスクスと笑っていたのだ。
風の精霊は勿論、火の気もないのに火の精霊までいる。
おまけに、驚くことに本来ルイスが見ることが出来ないはずの精霊達までいるのだ。
まるで、精霊達だけの楽園にルイスただ一人が迷い込んでしまったかのようだった。
「もしかして、ここが“はじまりの地”なのか?」
頭がはっきりしてくると共に、歓喜がルイスの胸を満たしていった。
探し求めていた地にやっとたどり着いた。
ルイスは待ちきれないとばかりに急いで立ち上がって辺りを見回す。
やはりそこには、この世のものとは思えない幻想的な世界が広がっていた。
そして、様々な精霊が飛び交い、光溢れるその世界の中心、ルイスの遥か前方に巨大な大樹が高く聳え立っていた。
「まさか、世界樹か…?」
街ひとつは余裕で入るのではないかという程太い幹。
苔生す木肌がルイスの位置からでも見えた。
気の遠くなるような年月を重ねてきたのだろう。
金色の光を帯びた緑の葉がそよいでいる。
はじまりの地の中心にあるという世界樹に相応しい大樹だ。
気付けば、ルイスは駆け出していた。
風の精霊の力を借りて風属性の魔力を足に纏わせ、まさに風のように駆けるルイスに精霊達が楽しそうについてくる。
距離はかなり離れていたのだが、あっという間に世界樹と思わしき大樹の根元へと着いた。
根元には、ふかふかの絨毯のような苔が大地を覆っていた。
勿論、他の木や花と同じように淡く光っている。
そんな中、一際ルイスの目を引くものがあった。
大樹に捧げられるように横たわっている純白の長方形の箱である。
子供ならすっぽりと中に入ってしまえるような箱だ。
その箱は、神殿や精霊神像と同じ材質のようだ。
それだけでも、何かしら意味のある重要なものだと思うのだが、その箱は、どういう訳か苔に覆われずにいるのだ。大樹ですらその苔が生しているというのに。