偏愛の国、無責任な想い④
「今は二人しかいないって言っていたけど、他の子はどうしたんだ」
「みんな養成所に戻りました。この国の子供の大半は国営の養成所に入ります……多くの親が子供を売るか捨てるんですよ。私達は養成所が嫌で、孤児院に来ました。戻るつもりはありません」
養成所ね……あの親子が例外ってわけではないのか? 養成所と孤児院の違いも良く分からないし、この子から色々聞いた方が良さそうだ。
「悪いんだけど、この国に着いたばかりで右も左も分からないんだ。もし良かったら色々と教えてもらえないかな? それでキミの姉さんに盗られたお金は無かったことにするよ」
「リオン様、少し甘すぎではありませんか? 十万トラスは大金ですよ」
クリスが会話に割って入ってきた。たしかに十万トラスは簡単に稼げる額ではないが、この子に返済しろと言うのも酷だろう。折衷案で情報を買うつもりなのだが、払いすぎと言いたいようだ。
「えっと、もし良かったら好きな部屋に泊まってください、お代は要りません。リオンさんでしたっけ? 聞きたいことがあるのなら全てお答えしますので、姉を許してあげてください」
目の前の少女が深々と頭を下げる、俺としても宿泊できれば文句は無い。クリスも少女の提案した条件に対して追求してこないってことは、納得したと見て良いだろう。
「うーん、まずは名前を教えてもらって良い?」
「あっ、失礼しました! 私の名前はミーナです、ちなみに姉はメリルと言います。こう見えても十四歳で冒険者やっています」
「そんなに若いのに迷宮に潜っているんだね」
「はいっ、とは言ってもまだFランク冒険者なので、低層階の素材集めしか出来ませんが、食費くらいは稼げます」
寝床は幸いにも、死んでしまった院長が残してくれた宿屋があるので、食費だけ稼げれば、何とか生活が出来るそうだ。
ミーナのクラスは見た目に似合わず獣戦士と呼ばれる近接職なので、低層階であれば一人でも問題なく敵を倒せるとのこと。
「ミーナはダンジョンの攻略を目指しているの?」
「攻略だなんて! 夜光でさえ七十階までしか行けていないんですから、最下層への到達は何年先になるか」
「夜光?」
「えっと、鬼の一族が所属している血盟のことです。純血種のドウキ様を筆頭にレッキ様、ヒビキ様、ユウキ様が所属しているカグロス最大派閥でもあります。街の治安もカグラ様から一任されているんですよ」
やはり、この国では鬼がかなりの権力を持っていると考えて良さそうだ。カグラに近づく障壁となる可能性が高い。
「そうだ、明日はドウキって人の家に行かないといけないんだけど、場所分かるなら地図に書いてもらえないかな」
「それなら明日案内しますよ、冒険者ギルドも近くにありますから通り道です」
「じゃあ、お言葉に甘えて明日は案内してもらおうかな、近くにあるならギルドにも行きたいし」
「分かりました、皆さんもお疲れでしょうから簡単にお風呂の場所とか説明しますね」
ミーナに孤児院の中を案内してもらい、クリスと別々の部屋に泊まることにした。最初は「一緒の部屋でお守りします」と言われたのだが勘弁して欲しい。一応アンネリーゼは死霊って扱いだし、枕元に立たれたら疲れが抜けない気がするわ。
部屋に入るとクロが神妙な顔をしている。ヒヨコだけど多分神妙な顔だと思う。
『鬼の純血種がいるとは思わなかったな』
『聞きそびれたんだけど、鬼ってどんな奴らなんだ? 戦闘生物とか、アステアが造ったとか、気になることを言っていたけど』
『鬼は千年前の戦いのときにアステアが生み出した種族、ヒューマンなどと比べると歴史は浅い。性格は獰猛、武を最優先し、破壊を喜ぶ、アステアの性格を体現したような奴らだ』
『へぇ、でも千年前の戦いでアステアが勝ったんだから鬼が生き延びたっておかしくないだろう?』
『その疑問は当然だな、答えは鬼の種族特性にあるのだ。種族を生み出すときには繁栄を目的として生み出す。当然、個体にはバランスが必要であり、力も強い、頭も良い、長寿、魔力が高い、そんな種族を作り出したら死ににくい種族となって、数が増えない』
『ん? 死ににくいなら数が増えていくだろう』
クロは窓際をトコトコ歩きながら、街の景色が良く見えるポジションを見つけたのか、チョコンと座り外を見ている。
『なぜ子供を生むか知っているか? 自分の種を存続させるために、優秀な相手とより強い子を残そうとするのだ。お前にも分かるように説明すると、死ににくくなるほど、子供を残す必要がなくなる。つまり、数が増えない』
『それなら、増えないとしても鬼が生き残ってもおかしくないじゃないか? 死ににくい種族ってことだろ?』
『あくまで、私が造る種族の場合だ。アステアが短期決戦用に造り出した鬼は異常なまでに強かった。戦闘力のみに特化しており、繁殖する能力と女の鬼が生まれる確率が限りなく低い。長くても二代しか続かない種族だと思ったのだが』
余談として、種の本能は繁栄であり、繁栄しない種は無気力になるか、自ら死を選ぶそうだ。
クロ曰く、アステアの上手いところは、死と直面する環境下の中に僅かな繁殖力を持たせることで、種族能力値の底上げ、奇跡的に生まれた二代目は初代を大きく凌ぐ力を持って生まれるなど、厄介極まりない存在だったとこのこと。
『それでも、まだ生き残っているってことは、長命ってことか』
『半分正解だ。あいつらは変身能力を持っていて、変身後は爆発的に力を引き上げてくる。代償は生命力だ、変身すると著しく生命力を失い、変身時間が伸びるほどに死が近づく。今生き延びている純血種は、奇跡的に繁殖した鬼か、千年前を生き延びた鬼のどちらかだな……アステアにも誤算があったとすれば、女の鬼に“制約”を課しすぎて、生まれてしまうと神にも匹敵する力を持ってしまうところか、神と同等の力を持つ者には祝福も呪いも効果がないからな。制御不能に陥ったらしい』
『“制約”ねぇ、魔法と同じで発動条件が厳しいほどに強くなるってヤツか』
『そんなところだ。私は遭遇したことはないのだが、女の鬼を一人殺すのに他の種族では束になっても勝てなかったらしい。だが、戦いを繰り返すうちに自然と数を減らしていったので、何か他にもデメリットがあるのか、アステアを無視して別の場所に逃げたのか、何れにしても関わりたくは無い存在だ』
なるほど、最後にクロが言っていた混ざり合う種族について聞いてみよう。予想するに、ハーフのことを指していると思うのだが。
『正解だ。鬼同士では難しいが、他の種族と混ざることで増やすことは出来る。しかし、種族特性や“制約”を失った鬼はどんどん弱くなり、数は爆発的に増えていくだろうが、最終的には中途半端な生き物になる』
『俺が蹴り飛ばしたヤツはヒューマンと変わりなかったからな』
明日は早くから行動する予定なので、早めに寝よう。久しぶりのベッドは寝るまでの時間を大幅に短縮してくれそうだ。




