偏愛の国、無責任な想い②
山頂から見える景色は壮観の一言だ。ミトラニアに匹敵するかそれ以上……本当に大きな街が眼前に広がっている。
「リオン様、あれが帝都カグロスです。明るいうちに山を下りましょう」
今日は久しぶりにベッドで寝られそうだ……それよりもまず食べ物だ、魔物以外の温かいヤツがいい。
頂上から街までの道程を確認しているため、下山には時間がかからなかった。明るいうちに門にたどり着くことが出来たので一安心だ。
門の前にはミトラニアと同じく行列が出来ているが、違うところが一つだけあった。並んでいる人たちがヒューマンだけではない……本当に多種多様な姿かたちをしている人たちが並んでいる。
爬虫類のような種族もいれば、ヒューマンにそっくりなのだがネコのような耳が生えている者や、肌が浅黒く耳が長い者など……初めて見る種族ばかりでドキドキしてしまう。
『さすがは変態野郎だな、場所を選ばず興奮しているところは立派と言うべきか』
『興奮していないし、変態じゃないし』
「リオン様、あまりキョロキョロしないでください。この国ではヒューマンが憎悪の対象となることも少なくありません。無駄な争いごとは避けましょう」
……お前が言うな! と突っ込みたい。
「ああ、他国ではヒューマンが亜人を差別しているからな、気をつけるよ」
ここはクリスの言うとおり、大人しくしていよう。
━━かなりの時間が経過したが、ようやく俺たちの番が近づいてきた。明るいうちに街に入れそうだ。
「身分証を見せろ!」
虎の様な顔をした門番が手を差し出してきた。カバンからギルドカードを取り出して、門番に見せる。
「冒険者か……厄介ごとを起こすなよ、通って良し!」
俺もクリスも難なく通ることが出来た……ヒューマンだから通さないと言われたらどうしようかと思ったよ。
「あいつが通してくれなかったら殺してでも通るつもりだったので、手間が省けて良かったですね」
さっき無駄な争いを避けようと言ったのはどこのどいつだったっけ。
『ここでは索敵がほとんど役に立たない、いきなり襲われても対処できるように身構えておけよ』
『魔力を持つものが少ないのか?』
『少し違う。ここの住人は強力な魔力を持つ者と、ほとんど持たない者の差が顕著に出ている。強力な魔力を持つ者は隠匿も上手いからな……』
魔力が少ないとしても、獣人の腕力はすさまじいと聞いたことがある。
クリスも言っていたが、この国にはヒューマンに恨みを持つものが山ほどいるし、警戒は怠らないようにしよう。
今、俺たちが入ってきたのは南門である。すぐにでも宿を探したいところだが、とりあえずは道具屋か武具店を見つけ、素材を売り払って生活費を捻出しないと。なぜならば、俺は二万四千トラスしか持っていないからだ。
しかし、土地勘が無いため場所がわからない……近くにいた亜人に道を尋ねることにした。
ヒューマンだから教えない! と言われたらどうしようかと思ったのだが、親切に教えてくれたので何とか迷わずに武具店に辿り付く。
店の中に入ると、ミトラニアとはまた違った品揃えとなっている。鉄で出来た大きな爪や口にはめて使うのか、鋭いキバのようなものが売っていた。
そんな中でも目を引いたのが、謎の剣士が持っていた刀身が反っている剣だ。手に取ってみると、見た目以上に重くそして装飾が非常に凝っている。
「刀が欲しいのかい?」
声がしたほうを振り向くと、子犬のようなくりっとした黒目がちの目にショートへア……頭には犬のような耳が付いた女性が立っていた。
「勝手に触ってすいません、これは“かたな”と言うのですか? 俺が見てきた剣とは形状が違うので、気になってしまって……」
俺がそこまで言うと、店主が剣を抜き俺の目の前で一振りする。
「これは、他の国には無い種類の剣で“刀”と言う。基本的には片刃、斬る事に特化していて、耐久度はハッキリ言って低い……」
「それじゃあ、長期戦には向かないですね」
……俺がそう言うと、店主は小バカにしたような笑みを浮かべる。
「人を叩き殺すことを目的としている両手剣が優秀とでも言いたいのか? さっきの話には続きがある。昔は刀を鉄で作っていたのだが、今では魔法鉱と人鋼の合金で造られている」
「人鋼?」
「邪法で精製された鋼のことだ。魔力の高い人と鉱石を混ぜて作る。生贄の魔力が高いほど頑丈で切れ味の鋭い刀の材料となるんだ」
前にユミルが言っていた邪法のことか? 生贄という言葉に思わず眉をひそめる……人を殺す道具を、人を生贄にして造っているのか。
俺の様子に気がついたのか、店主が話を続ける。
「勘違いするなよ。邪法の名残で人鋼と言っているが、今では魔物と鉱石を混ぜ合わせているんだ。強い魔物を狩ったら、素材を持ってきてくれ。高く買い取るぞ」
それを聞いて少し安心をした。刀には興味があったが俺には専用の武器があるから買う必要はない、武器は使うために買うものだ。興味本位で買っては失礼だろう。
「それじゃあ、この魔物の素材は買い取ってもらえるのか?」
言ってカバンからブラッドウルフの牙と爪を取り出した。
「おお、小さいがブラッドウルフか……刀に魔力吸収の魔法効果が付与されるからな、魔法剣士系に人気があるんだ。金貨一枚で良ければ買い取ろう」
店主の話を聞くと、滅多に人里近くまで下りてこない上に群れで行動するため中々手に入らない素材らしい。
道中手に入れた素材全てをカウンターに並べる。最後に出てきたのがキラーラビットの耳だったので少し笑ってしまった。ミトラニア迷宮のお土産だな。
全てを売ると金貨二枚になった。ブラッドウルフ一体で百体以上の魔物の素材と同じ金額ってことになる。ブラッドウルフの親を仕留めたらどれだけもらえるのだろう。
『とりあえず、今日は早めに宿に落ちつかないか?』
クロは疲れているようだ、クリスの方は無表情で短剣を眺めている。相変わらず何を考えているのか良くわからない。
「ありがとう、また必要なものがあったら来るよ」
次は道具屋で、街の地図を買う。何度も人に聞いていたらいつかはトラブルに巻き込まれそうだしな。
道具屋を探していると、人だかりが出来ているのを見つけた……どうやら言い合いをしているようだ。
「お前、ヒューマンだろう! よくもまぁ、この街を歩けるものだな!」
二人組の男が家族連れに言い寄っている。夫婦らしき二人とその間に挟まれて小さい娘が泣いていた。
言い寄っている男もヒューマンにしか見えないのだが……二人組の男は同じような模様の入った服を着ている。山であった剣士と同じような服装だ。野次馬の亜人たちも止める様子はない。
「貴様らに苦しめられている同胞たちは山ほどいる、ここで罪を償え!」
言って男は刀を抜く、ここで斬る気か!? 見捨てるか助けるか……目の前の家族にギルとイリアとが重なって見える……もう、あんな思いはしたくない。
無抵抗な相手を殺そうとするとは、事情はわからないが見捨てることは出来ない! クリスに耳打ちをしてから、二人組の男と家族連れの間に割って入る。
「事情は分からないが、殺すことは無いだろう!」
「何だ、貴様は……貴様もヒューマンだな」
男たちは俺の顔を見るなり、侮蔑を込めた視線を向けてきた。そこまでヒューマンが嫌いなのだろうか。
「俺達を鬼の一族と知っての狼藉か? 今更泣いて謝っても許さんぞ」
「……オニ? ああ、アステアが造った戦闘生物か、その姿を見ると出来損ないが生き残るために混ざり合ったってところか? 泣いて謝るのはお前達のほうだ……おっと、謝り方が分からないならそこの子供に聞いてくれ。俺はバカに教えるほど広い度量は持っていないからな」
『クロさん、オニの事前情報が無いんですけど! 戦闘生物って聞くからに強そうだけど!』
クロの言葉に見る見るうちに男たちの顔が紅潮していく。家族は助けるつもりだったけど、このヒヨコは相手の神経を逆なでするのが上手すぎる、本当に勘弁してください。
「我々だけならまだしも、鬼を馬鹿にするとは……許さんぞ!」
こちらに刀を向けると同時に、二人組が襲いかかってきた……クリスには事前に手を出すなと言ってある。あいつは手加減を知らないからな。
二人とも全く同じ構えから、同じ斬撃を放ってきた。素人ではないようだが、実戦経験は少ないようだ。
上段からの縦一文字を最小限度の動きで回避しながら顔面に回し蹴りをお見舞いする。
吹っ飛んだ男はもう一人にぶつかり、二人とも地面に転がってしまった。自分たちに刀が刺さらなくて良かったな。
「そこまで!」




