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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
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幻の平和、神のいない国③

「修理の代金は……?」


 言ってカバンからお金を出そうとしたのだが、ユミルに止められてしまった。


「修理も何も魔力を込めただけだ、金は要らないよ」


 ……ハッキリ言って非常に気まずい。ミトラスを殺した理由を説明するべきだろうか。


「……お前がミトラス様を殺したってことは、何か理由があったんだろう。これからこの国は大きく変わるかもしれないな。これからも俺の店を贔屓にしてくれよ」


 ユミルは奥の鍛冶場に戻ってしまった。何も聞かないで、俺のことを信じてくれたのか……「ありがとう」と小さく呟く。

 続けてアミルの店に行くが、店の中には売り物が全くない。忙しそうに服を縫っているが、俺の顔を見るなり笑顔で出迎えてくれた。


「リオンさんお待ちしておりました。服は出来上がっていますよ」


 そう言って出してくれたのは、黒いシャツとズボンだった。一見普通の服にしか見えないが……。


呪う妖精(エビルバンシー)と呼ばれている魔物の髪の毛で作っております。鋼糸よりも硬く、魔法耐性もついております。最大の特徴は自己修復するところですね、リオンさんは服をよくボロボロにされますので」


 手触りはとてもよく、重さもほとんど感じなかった。しかし、髪の毛の服を着るのは抵抗があるな……自己修復も夜中に髪の毛が伸びて直すのだろうか? 怖すぎるんですけど。

 今はそんなことを考えるよりも先に、伝えなければいけないことがあった。


「アミルさん……すいません! お金が二十万トラスしかありません」


 その場で土下座をする。


「頭を上げてください、リオン様は大切なお客様です。足りない十万トラスはそのうち払っていただければ結構ですよ」


 天使や、この子天使様や。


『大切なお客様だそうだ。所詮は客どまりって事だな』


 このクソヒヨコを絞め殺してやろうか。

 二十万トラスを支払い、エビルバンシーの服を受け取る。早速奥で着替えてみると、俺の体にピッタリだった。オーダーメイドで作ったから当たり前だけど。


「大変よくお似合いですよ、お金はいつでもいいですからね」


 アミルにひたすら頭を下げながら店を出る。頼んでおいて、お金が足りないとか……かっこ悪いなぁ。

 大通りに戻ると、街中の混乱が余計に酷くなっている。魔法が使えなくなった理由を確認しようと住民が城に押しかけているようだ。


 それを必死に役人や兵士たちが抑えているが、突破されるのは目に見えている。そしたら、ミトラス不在が明るみになり、遠からず死亡が噂される事になるだろう。


『後悔しているのか?』

『まさか、後悔するくらいなら最初からやらない。俺は自分が正しいと思ったことをやっただけだ。魔法が使えないからってなにが問題なんだ? それを理由に殺された人が山ほどいる。殺されないだけありがたく思うべきだな』


 人混みの中を掻き分けて東門に向かう。宿に帰り着いたころには、とっくに夕食の時間を過ぎていた。今日はここで食べる最後の晩ご飯だ、何とか間に合ってよかった。

 食堂の明かりは落されていたが厨房には小さくランプが灯っていて、小さな椅子におっさんが座っている。厨房の奥の壁の方を見つめ、背中を丸めて座っている姿は、いつもよりなんだか小さく見えた。


「……おう、今日は早かったな、おつかれさん」


 俺に気づいたおっさんが椅子から立ち上がる。


「すまないな、うまいメシを用意してやりたかったんだが、食材が全く手に入らなくてな……いま厨房に残っている食材で作った料理で悪いんだがよかったら食ってくれ」


 食堂にランプを灯してから厨房に戻り、鍋を暖めなおしてくれた。ふんわりと暖かなにおいが漂ってくる、なんだか懐かしいにおいだ。


「この国はどうなっちまうんだろうな? お前以外の客は全員出て行ってしまったよ……」


 おっさんの声にいつもの元気が全くない。励ましてあげたいが、気の利いた言葉は思いつかなかった。


「……おっさんの料理は評判なんだろ? 今は混乱しているだけで、すぐに客は戻ってくるさ」


 俺の話が聞こえているのかいないのか、おっさんは鍋をじっと見つめている。


「……俺にもな、お前くらいの子供がいたんだよ」


 背中を向けて(かまど)に向かいながら、小さな声でおっさんが話しかけてきた。


「妻と息子と、故郷の国を離れて三人でこの宿を始めたのはもうずいぶん昔だ。俺は料理しか能がないから、宿の切り盛りは全部かぁちゃんに任せっきりでな……」


 おっさんは今までの苦労や、家族との思い出を噛み締めるように話している……料理自慢の宿にしたい、おっさんはそのことばかり考えていたとのことだ。


「珍しい食材があると聞けば、宿をほったらかしであちこちでかけて、家族には寂しい思いをさせてばかりだったよ」


 ある日、西の森に珍しいキノコがあるという噂をおっさんは聞きつけた。


『……たまには私たちが採りにいってくるわよ、あなたは料理に専念して』

『行ってきまーす!』


 手をつないでドアをくぐる七歳になった息子と奥さん、それが二人を見た最後になった。


「森の魔物にやられちまったんだ。西の森は安全だと思い込んでいた」


 運が悪かったのだろう、たまたま冬眠から覚めたばかりの飢えた熊に出くわしてしまったらしい。

 それから十年、おっさんは奥さんと息子さんの思い出の詰まったこの宿を、どうにか一人で切り盛りしてきたそうだ。


「……悪いな、湿っぽい話しちまって。さぁ食べてみてくれ、これがお前への最後の特別メニューだ」


 俺の前に置かれた小さい鍋には、野菜と肉の煮込みがたっぷり入っていた。木のスプーンで、口に運ぶ。


「これは……」


 懐かしい匂いがした。俺がいつも食べていた料理に良く似ている。


「俺の故郷の料理なんだ。遠い東の国でな。息子もこれが好きで、よく作ってやったんだよ」


 おっさんが口にした国の名前は、母さんの生まれた国のものだった。元々味音痴ではあったのだが、食べ物の味が全くしなくなったのは、あの夜からだ。

 両親が殺された、あの夜。最初は気のせいかと思った。森の中で調味料もなにもないから、味がしないだけだと。

 その後、何を食べても味を感じなくなっていることに気がついた。あんな姿で殺された両親を前に、何も出来ずに逃げることしか出来なかった自分への罰なんだと思った。


 両親の亡骸を弄んだ学園長をどうにか仕留めることができたのだって、クロと契約したおかげだ。俺だけの力じゃ、仇を討つ事すら叶わなかっただろう。

 味音痴がひどいってことにしておけばクロやおっさんに悟られなくてすむと思った。両親を殺されたショックで味がわからなくなったなんて知られたくなかったからだ。

 それからは、ひたすら生活費を稼ぐためにギルドと迷宮を往復する毎日。食べるのは、ただ生きるために必要だったから。


 「何だか懐かしい味がします……」


 もう二度と食べることは出来ないと思っていた、母さんの味だ。それから夢中になって煮込みをかきこんだ……気がつくと、皿は空っぽになっていた。


「もっと食べるか?」


 黙って頷くと、おっさんが皿をいっぱいにして戻ってきた。


「……お前さんに色々と料理を作ってきたのは、お前の姿が息子と重なっていたんだ。息子は生きていたら丁度お前と同じくらいだからな。リオンがうまそうに飯を喰ってくれたら、あいつも料理馬鹿の親父を許してくれるんじゃないかって……な」


 ひたすらスプーンを動かす。何も言わなくても、この食べっぷりでわかるだろう。


「ごちそうさま」


 二杯目も空になり、おっさんにお礼を言って立ち上がる。

 そういえば、俺この人に大事なこと聞き忘れているよな……いや、おっさんはおっさんだ。名前なんて関係ない。


「……なんだ? 俺の顔に何か付いているのか?」


 照れくさそうに笑いながら厨房へ戻っていくおっさんの背中に聞こえない程度の声で話しかけた。


「おいしかったよ」


 このまま露天風呂に向かうことにした。宿泊客が俺しかいないため、風呂は貸切だ……まぁ、他の客がいた時も会うことはほとんどなかったけど。

 部屋に戻って窓から外を見ると、外を出歩いている人はいなかった。静かすぎて不気味だな……。

 魔法が使えないから、夜は危険と判断したのだろうか? ……その日は、荷物の再点検をしてから横になった。


 ━━コツコツ、これは……痛いっての! クロの起こし方は相変わらず痛みを伴う。


『おい、もう七時だ。クリスはすでに東門にいるようだぞ』


 約束は八時だろう……早すぎるわ。まぁ、丁度いいか。

 こっそりと、窓から抜け出してクリスに会いに行く。クリスは俺を見つけるなり深く頭を下げてきた。

 服装は相変わらずの殺人鬼スタイルだ、眼帯をしていないからまだマシだけど。髪形はオールバックになっており、男前レベルが更に上がっている。


「お待ちしておりました、リオン様」


 俺は申し訳なさそうな顔をしながら、頭を掻く。


「クリス……悪いんだけど、十万トラス貨してくれないかな? 必ず返すからさ」


 クリスは内ポケットから一金を取り出し、手渡してくれた。


「どうぞ、リオン様。返却は必要ございません、またご入用になりましたらお申し付けください」

「いやいや、必ず返すよ! 用事を済ませてくるから、少しだけ待っていてくれ」


 開いている窓から再び部屋に戻る……まるで泥棒だな。

 この朝早い時間ではアミルの店は開いていないだろう、テーブルの上に金貨一枚と銀貨一枚に書置きを残す。


《金貨一枚をアミル裁縫屋のアミルさんに渡してください、銀貨一枚は依頼料です。あと、昨日の朝ご飯の精算は必要ありません。また、泊まりにきます》


『おっさんを信用して大丈夫か? 金だけ取られるかもしれないぞ』

『大丈夫だよ、おっさんは信用できる。クロだってわかっているんだろ?』


 おっさんと顔を合わせると寂しくなってしまいそうだったので、再び窓から外に出る。さっきは気がつかなかったのだが、門番すらいない。


「クリス、待たせたな。カグロスに向かおう……ちなみに道分かる?」


 クリスは「お任せください」と笑顔で答えてくれた。


これにて第一章完結となります。

今後については、活動報告に記載。

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