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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
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利己主義の国、狂人たちの集い⑥

 ━━クロの話は分かりやすかったのだが、非常に長かったので講義の内容を要約すると以下のとおりだ。


 魔法には重要な要素が三つ。

まず一つ目の要素として魔力容量(まりょくようりょう)が挙げられる。

 これは自分の保有する魔力をどこまで貯めることができるかを表していて、精霊との契約数上限ともリンクしているそうだ。

 契約数が少ないほど使用できる魔力は多くなり、契約数が多くなれば少なくなっていく。当然契約数が多いほど扱える魔法は増えるが、魔力切れもすぐに起こす。ここのバランスが非常に重要らしい。


 次に魔力の質という要素がある。質がよければ消費魔力が抑えられる。悪ければ余計に消費するし、上位の精霊と契約するためには上質な魔力を保有していないと難しい。

 分かりやすく例えると、魔力を餌に契約をするので、おいしい魔力でないと近寄ってすらこないとのこと。おいしい魔力なら少しでも力を貸すけど、まずければ量を寄こせってことだな……。


 最後の要素として魔力の適正、ここだけは成人の儀で確認するところでもある。

 精霊にも魔力の好みがあり、適性が合わないと無駄な魔力を使ってしまう上に効果が減算されていくそうだ。

 ちなみに、魔力の適正は五種類ではなく「殲滅(せんめつ)」「守護(しゅご)」「補助(ほじょ)」「回復(かいふく)」「万能(ばんのう)」「神徒(しと)」の六種類。


 「殲滅」「守護」「補助」「回復」の四つが基本適正であり、この四つは得意属性以外でも使えるが力が減算され、消費魔力も増える。

 この輪から外れている「万能」は全ての適正が制限なく使用できる。しかし、消費魔力は必要以上に増えてしまう器用貧乏らしいが、魔力の質次第で化ける適正。かなりのレア適正らしく滅多にいないそうだ。


 俺の「魔徒」と呼ばれていた適正だが、本来の名前は「神徒」、現在は精霊との繋がりが切られているらしく、精霊への魔力供給は一切できない、つまり契約不可。

 神の代弁者として位置づけられていたので、高い魔力、身体能力、学習能力を有しているのだが、精霊と契約できない以上、魔法に関しては一切生かすことが出来ない。


 例外として、適性を持たない魔力も存在するらしい。適正がないので精霊と契約できないのは魔徒と同じなのだが、魔力はかなり微弱なもののようだ。


「ちょっとまて、その説明だとやはり俺は魔法が使えないじゃないか! 神徒がすごそうなのは分かったけど、魔力供給できないって……」

「最後まで話を聞け、お前は誰と契約したのだ?」


 ……そうだ、俺は精霊ではなく魔神と契約をしたんだった。


「お前の適正じゃないと私とは契約ができない。唯一、神と正式契約できる適正が神徒だ。基本属性程度なら全て制約無しで使用可能だぞ」


 すごい、魔法が全然使えないダメダメから一転、何でもできる子になってしまった。なぜ、神徒が精霊と契約できないのかは気になるが、一度に色々聞くと分からなくなるからな……少しずつ聞くことにしよう。


「神徒とは、数万分の一の確率か、神の側近を長年務めた者……巫女のような存在だけがなれる。おそらくだが、お前の血族は長い時間私の近くで過ごしたのだろう。少しずつ適正が神徒に近づいてきたため、お前の父は精霊に嫌われ、お前の代で神徒に覚醒したと見ている」

「そうか……色々と疑問に思っていたことが晴れて良かったよ」

「……私のことを恨んでいないのか?」


 俺はゆっくりと首を振り、大きく息を吸い込んだ。


「クロを恨む? 父が他の連中と同じように、利己的な人だったら好きにはなれなかった。魔法が使えないからかは分からないけど、努力する父の姿を尊敬している。クロを否定することは父を否定することに繋がるような気がして、俺には出来ないよ」

「そう言ってもらえると助かる、私自身も神徒が現れるのを待っていたからな。まさか、精霊との契約を打ち切るまでしてくるとは思っていなかったが」


 クロは照れ隠しのつもりなのか、咳払いをしている。意外と良い奴なのかもしれない。


「……話を戻すが、ここで注意点がある」


 もって回った風な口ぶりに、何だか嫌な予感がするな……俺の心配を余所にクロは説明を続けた。

 簡単に言うと、契約した相手が精霊だろうが魔神のクロであろうが、それぞれにメリットとデメリットがあるということだ。


 まずは精霊と契約した場合。

 メリットとしては、呪文を唱えるだけで精霊が魔法現象を起こしてくれるため、消費魔力を抑えてくれる。

 デメリットは、苦手な魔法には制限がかかるため、決まった魔法しか使えないということ。


 一方の魔神クロとの契約について。

 メリットは、とにかく制約がない、呪文を唱える必要がないこと……言い方を変えると、唱えても無意味である。

 一番気になるデメリットについては、魔法使用時に補助が一切ないため、自分で消費魔力から魔法現象までの全てを頭でイメージする必要があるということらしい。


「戦いながら魔法をイメージするのか? 俺が共有しているお前の知識には魔法のイメージなんてないぞ」

「慣れれば簡単だ、私はそうやって戦ってきた。知識として魔法のイメージがないのは、深く考えて魔法を使ったことが無いからだろうな」


 慣れるまで無事生き残れるのだろうか……そして魔法は考えて使えよ! と言いたい……ん、ちょっと待て。


「お前最初に俺の魔力で魔法使ってなかったか?」

「使ったが?」

「そうじゃなくて、俺の魔力を使って魔法が使えるってことは補助と違うのか?」

「なら聞くが、リオンは戦闘中に私に魔法を細かく指示できるのか?」

「え?」


 なんともマヌケな返事をしてしまった。


「明確なイメージを私に伝える暇があったら、自分で唱えたほうが早いだろ」


 いや、そう言われればそうだけどさ……ここは前向きに考えよう。


「じゃあさ、戦闘中にクロも魔法でアシストが可能ってことなのか?」

「凡人にしてはいいところに気がついたな、リオンの意図を汲んで出切る限り要望に沿った魔法を発動してやろう、当然、私が悪手だと感じたら魔法は使わないし、私の判断で勝手に魔法を使うこともある」


 凡人……どんどん俺の格が下がっているような気がする。気になる点としては、勝手に魔力を消費されるのは結構しんどいかもしれないな。


「魔法を使う時の最大の注意点を教える。魔法は一つずつしか発動できない、これは神であろうが例外はない」


 両手で別々の魔法は発動できないわけか。攻撃魔法を使いながら回復魔法が使えれば便利なんだけどなぁ。


「ひとつ質問していいか? 補助魔法はどうなる」

「補助魔法はそもそも考え方が違う、一度唱えたら効果が継続しているだけであって、魔法を唱え続けているわけではないだろう。身体強化も厳密に言えば魔法ではないから同時使用可能だ」


 なるほど、補助魔法は唱えた時点で魔法としては完成しているのか。


「飲み込みが早いな。あと魔法の使用後には必ず再使用待機時間(リキャストタイム)が必要だ。一人で(・・・)魔法を使う場合は、使った後のことまで考えなければならない」

「それは普通じゃないのか」

「まだ理解できないか、私とお前と(・・・・・)で別々の詠唱形態となっている。つまり、私が魔法を唱えてもお前に制限は無い、結果的にだが二つの魔法が同時に使用できるのだ」


 思わず「おぉぉぉぉぉ」と声を上げてしまったが、すごいのかサッパリわからん。とにかく実践をしてみないと何とも言えないな。

 クロの説明で何となく魔法の使い方はわかったのだが、魔導国家と呼ばれている国なのにクロが説明してくれたことは学んでいないぞ。学校では膨大な量の呪文や精霊の種類、属性の考え方に適正しか教えてくれなかった。


「私の予想だが、意図的に教えなかったと見るべきだろう。魔法が使えない奴は役立たず、を言い換えると自分よりも優秀な奴は邪魔なわけだ。しかし、教師だから生徒に教えなければ金にならない……教えている内容は本に書いてあるようなことばかりじゃないのか?」

「言われてみれば、魔法学は本ばかり読んでいた気がする」

「精霊と契約しなければ、魔法使用時の細かい注意点なんて分からないからな。卒業と契約を結びつけるのはある意味ウマイやり方なのかもしれん」


 クロは何に感心しているのか分からないが、色々なことを知らなかった自分にも腹が立つ。知らずに魔物と戦っていたら死んでいたかもしれないな。


「まぁ、ここで学べて良かったよ。クロには感謝しないと」

「殊勝な心がけだな。私の偉大さがミジンコみたいなお前にも分かってもらえて良かった」


 ……聞かなかったことにして、次は実際に魔法を使ってみよう。まずは魔法のイメージ、水の塊を指先のような円錐型にし、前方の石碑まで螺旋状に回転しながら一直線で飛んでいく。消費魔力は一割くらいで良いか。


 魔法のイメージは他国で作られている殺傷兵器を参考にしている。残念なことに魔法の方が速射性、携帯が不要、消耗品が必要ない、等々の理由で優位と判断され、兵器自体はお蔵入りになったらしいが、図書館の文献に書いてあった論理的な構造に感嘆し、記憶に残っていたのだ。


水弾(ウォーターバレット)


 名前を言う必要は無いが、あったほうがイメージしやすかったので命名してしまった。イメージ完了と同時にものすごいスピードで射出される水弾、石碑に命中したのはいいが、石碑を粉々に砕き後ろの大木にまで穴を開けている。


「おお、オリジナル魔法か、最初から使えるとは意外とセンスがいいな。私も覚えておこう」


 ちょっと待て、威力が高すぎないか? 俺的には石碑に当たった水風船がはじける程度の威力を想像していたのだが……。


「一応褒めたが、魔力を一割も込めたのにあの程度しかない、と考えたほうがいいぞ。十回使ったら終わりだからな」


 自分が魔法を使えた事実を再認識すると、後から感動の波が押し寄せてきた。

 クロがアドバイス的な何かを言っているのは分かったのだが内容は頭に入ってこない。そんな様子を気にすることなくクロは淡々と説明を続ける。


「すでに実行したお前に言う内容ではないかもしれないが、魔法は想像力と発想力だ。制約が無いお前ならどんな魔法でも使うことができる」


 想像力と発想力か、俺は魔法使い一年生だからな……基本を学ぶ意味も込めて見た魔法を模倣することから始めよう。


「よし、発動も確認できたし、魔法については区切りがついた」


 これから先のことを考える。人知れず王都に行くべきか、両親の仇をとるべきか……気がつけば辺りが暗くなってきたので、地面に寝転がる。


 水問題は魔法で解決したようだが、昨日の昼から何も食べていないため腹が減った……とは言っても、まだ季節は夏場なので木の上を見るが木の実は無さそうである。


 たまに鳥を見かけるくらいで食べ物になりそうなものは見当たらない。ミンミン鳴いている虫を食べる気なんてサラサラない。

 食べられる種類のキノコは何となく分かるが、間違った時の事を考えると怖くて手が出せないし、食べ物探しに結界から離れると追手に見つかるリスクも高まる……どうすっかなぁ。


「近くに魔物がいるが、魔法の練習を兼ねて戦ってみるか?」


 空腹を見かねたのか、クロが魔物討伐の提案をしてきた。全く魔物の気配を感じないが、クロには分かるのか?

 話の流れから行くと魔物を食えってことなのかな。気配が分かるってことは、俺を追ってきている存在も感知できるのだろうか。


「近くに俺を追ってきているやつはいるか?」

「そこまで細かい判別はできないが、魔物以外はいない。お前と同種に近い存在を感知したら警告をする」


 クロがここまで自信たっぷりに言い切るからには、外に出ても平気か。人は数日間何も食わなくても死なないとは聞くが、いざって時のためにも食べた方が良いに決まっている。


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