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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
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幻の平和、神のいない国①

 足元を見ると、ミトラスが使っていたレイピアが落ちている。折れてはいるが刀身も併せて持って帰ればユミルが直してくれるかもしれないので持って帰ることにした。


 ……またクリスを背負って帰るのか、これで二度目だぞ。気絶しているクリスを担ぎ上げ、帰路に着く。途中でブライトと思われる死体が転がっていた。周りには首を刎ねられた護衛や、顔を割られている者もいる。


 先を急ごう、少しずつだか魔力も回復をしてきた。この角を曲がれば階段はもうすぐだ。

 人がいないかを警戒しながら階段を上る。幸いにも迷宮周辺に人影は無い、このまま東門まで回って行けば見つかることは無いだろう。


 時間はまだ二十一時を少し回ったところだ。このまま街に入った場合、流石に人目に付くよな……クリスが目を覚ますまで休憩することにした。


『なぁクロ、お前はアステアと何で戦争をしたんだ』

『アステアが身勝手だからだ。奴は父を封印し、世界を一から創りなおそうとした。私を含め反対する神と、アステアに賛同する神とで争ったのだが……結果はお前が知っているとおりだ』


 そうなると疑問点がまた一つ増える。


『アステアが勝ったんだから、世界を一度壊したってことなのか?』


 クロは首を横に振る。


『いや、世界は壊されていない。色々と手を加えてはいるようだがな……お前の存在もその一つだ。なぜ壊していないのかは本人に聞いてくれ』


 俺が手を加えられた存在? どういうことだ。


『言い方が悪かった、お前達には手を加えられないから、周りをいじっている……だな。分かっていると思うが、お前は神と交信できる「神徒」と呼ばれる存在だ。肉体を失った我々と現世を繋ぐ唯一の者』

『神と交信できるのに、なぜ忌み子と呼ばれているんだ』

『私達の受け皿になったら困るからだろうな。神徒は神の肉体の器として存在している。私達が復活すれば再びアステアとの戦争が起きるだろう……ある意味災いを呼ぶってことだ』

『俺たちが邪魔な存在ってことか……』


 クロが小さく頷く。内ポケットから地面に降り立ち、俺の顔を見上げてきた。


『神徒は私が創り出した、私が消滅しない限りは生まれ続ける。本来は神獣や王クラスの精霊と契約し、全ての魔法適正を操ることができるはずなのだが、精霊神がアステアの味方をしているのだろう……精霊との交信は不可能だ』

『クロって何者……いや、何の神様なんだ?』

『災いを呼ぶ魔神てことにしておいてくれ、今は私の存在を隠しておいたほうがいいだろう』


 よくわからないが、クロがそう言うならそうしておこう。


『まぁ、わかったことが一つだけある、俺は選ばれた存在ってことだな!』


 大きく胸を張る。


『調子に乗るな、精霊と契約できない状態では宝の持ち腐れだ。だが、神のベースとなるだけあって、身体能力などは通常個体よりも非常に優れているはず。クリスを見れば分かると思うが、あいつの身体能力は桁外れだ』


 クリスを見ると気がついたようで体を起こしてきた。噂をすれば何とやらってやつだな。


「ここは……ミトラスはどうなったんだ?」


 眼帯を外すと不思議そうに体を見回している。酷い怪我だったので、移動しているときにヒールウィンドで治しておいた。


「何とか倒せたよ、これでこの国も変わるだろう」

「そうか……あんな化け物が神様だったとはな、吐き気がする」


 クロが何かを言おうとしたが我慢をしたようだ。ミトラスも本当は人を愛する神だったと言いたいのかもしれない。


「クリスはこれからどうするんだ?」

「私は復讐が終わったからな、アンネリーゼを解放するさ」


 そう言うと、懐から死者の書を取り出した。


「持ち歩いていたのかよ、ミトラスに切り刻まれなくて良かったな」

「すぐに解放してあげたくてな……早速だが魔方陣を展開するから、少し離れていてくれ」


 死者の書を地面に置き、何かの呪文を唱え始めた。すると、死者の書を中心に魔法陣が展開されていく。

 薄っすらと見覚えのある漆黒の魔導師が具現化されてきた。迷宮の十五階で倒したはずだが……消滅していなかったのか。


「……私を呼び出すとは、導きたい魂があるのか?」

「ああ、最愛の人の魂を楽園に導いて欲しい、そのためなら私の命を代償にしても構わない」


 魔導師がクリスの横を指差し、そこの女か? と聞いてきた。


「そうだ」

「……お前と話をしたがっているようだ、どうする?」

「そんなことができるのか? 少しでいいからアンネリーゼと話をさせてくれ」


 魔導師が「いいだろう」と呟くと魔法陣が激しく輝き始める……徐々に光が収束していき、その中からアンネリーゼが現れた。


「アンネリーゼ……復讐は終わったよ、もう思い残すことは無いか?」


 クリスがやさしく語りかける。するとアンネリーゼは涙を流し始めた。


「私のためにあなたは罪を犯してしまった。本当にごめんなさい……私が逃げようとしなければあなたは今も幸せに暮らしていたかもしれない。いえ、私があなたと出会っていなければ……」


 クリスが自分の想いを一生懸命伝えようと必死に話しかける。


「私にとってあなたが生きる意味だったんだ……アンネリーゼが私の人生に色を与えてくれた。あなたと過ごした時間は全てが光り輝いて見えたんだよ」


 クリスがアンネリーゼに手を伸ばす、だが空を切るだけで触れることはできないようだ。アンネリーゼも手を伸ばし、クリスの頬にそっと重ねている。


「ありがとう。私もあなたと出会えてとても幸せだったわ……私が死んだ日、あなたに精一杯伝えようとした言葉をもう一度言うわ」


「痛い、の続きがあるのか?」


 アンネリーゼは首を横に振る。そして静かに口を開いた。


「あなたのそばに「居たい」よ……これからもそれは変わらないわ」


 アンネリーゼの言葉を聞くと、クリスはその場で泣き崩れた。同じ言葉なのに伝わらない想い。誰もクリスを責める事はできないだろう。


「アンネリーゼ……私のそばにずっといてくれるのか?」

「ええ、あなたが嫌じゃなければ」


 止まっていた二人の時間がゆっくりと流れ出す。


 その姿を魔導師が横で黙って見ていたが、さすがに痺れを切らしたらしく割って入った。


「ゴホン……つまり、私の仕事は無いと考えていいのだな?」


 申し訳なさそうに話しかけてきた。寂しそうな表情に思わず笑いそうになるが、感動の場面に似つかわしくないので必死にこらえる。


「そういうわけにもいかないのだろう? 死者の書は必ず誰かを連れて行くと書かれていた」


 クリスが覚悟を決めた表情で魔導師の方を向く。


「すまないアンネリーゼ、おそらく私はあなたと同じ場所には行けない。でも私は今日まで生きてこられて幸せだった。思い出だけで十分だ……」


 ……クリスを連れて行かせるわけにはいかない、殺した人の分だけ人を救う約束をしているからな! 静かに右手を剣にかける。


「まてまて! 勝手に盛り上がるのはいいが、私はまだ何も言っていないぞ。後ろのお前もそう何度も私を斬ろうとするな!」


 慌てた様子で魔導師が俺を静止してきた……戦ったことを覚えていたのか。


「私もやっと正気を取り戻せたのだ、お前みたいに死者の書を正しく使う者まで連れて行こうとは思わない。それに、後ろの血の気の多い奴には借りがあるからな……今回はサービスしておこう」


 借りなんて作ったかな、本に剣を突き刺して奴を消滅させたことしか覚えていない。むしろ恨まれていると思ったのだが。


『奴から禍々しい魔力がほとんど感じられない、それが関係しているかもしれない』


 クロさん解説ありがとう。


「……元々私は救われない魂を導くために書かれた本なのだが、本を悪用し殺人を犯す者が後を絶たなかった。人を殺し続けた私は正気を失い、封印されてしまったのだ」


 たしかに、問答無用で殺しにかかってきた。本を突き刺したのが荒療治になったってことかな?


「なら、私はアンネリーゼと一緒にいても問題ないと言う事か?」


 魔導師が頷き、アンネリーゼが再び光に包まれる。真っ赤に染まっていたスカートが純白に戻り、その先からはキレイな足が見えている。


「これは私からのプレゼントだ、その足には楽園にいける魔法をかけてある。いつかその男と一緒に歩いていくがいい……」


 魔導師さん男前すぎる! ただの根暗なおっさんかと思っていたよ。


「最後にもう一つ、さっきのプレゼントで力を使い果たしてしまったので、私はアンネリーゼの中で眠る事にした。彼女に死者の書の特性を受け継がせておくから、有効に使ってくれ……それではさらばだ!」


 最後にすごいことをサラッと言ったな。アンネリーゼの中で眠るとか、羨ましすぎる。


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