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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
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失った心、手に入れたモノ④

 クリスに肩を貸してもらい、ミトラスと距離を取る。後方から魔法を放ってくるが、クロが全てレジストをしてくれた。


「癒しの風よ優しく包み込め、治癒風(ヒールウィンド)


 自動回復(オートヒーリング)とは違い、傷が目で見てわかるほどの速度で消えていく。肉が瞬時に繋がっていく感覚は結構気持ち悪い……クリスは回復適正の魔法も使えたのか。


「こっちに来たってことは片付いたのか?」


 クリスはこちらを見て微笑む。


「私のほうは全てが終わった、護衛全員を殺す事になったがな」


 ━━十分ほど前


 前方の足音が止まったようだ。ここからでは見えないがミトラスは室内に入っただろうか。


「後はここで一時間ほど待機だ、ミトラス様の邪魔をしないように」

「ブライト隊長、我々は魔物の警戒をすればよろしいでしょうか!」


 物陰に隠れて見ていたが、護衛の数は情報どおりの四人で間違いない。気のせいかもしれないが、アンネリーゼの魔力が高まっている気がする。


 さっきから他の護衛に指示を出しているのが、ブライトのようだ。今なら一気に殺すことも可能だが、アンネリーゼのことを確認だけはしておきたい。気配を殺しながら背後から護衛たちに近づく。


「こんばんは、ブライト隊長」


 ブライトがゆっくりとこちらを振り向く、他の隊員たちは一斉に槍を向けてきた。


「誰だ貴様は! 今ここに近寄るものは誰であろうと罪に問われるぞ。今なら見逃してやるから、即刻立ち去れ」


 お優しいことで、年齢は五十歳手前か? 体は鎧に覆われているが、鍛え抜かれているのはここからでもわかる。顔には眉間から左頬にかけて大きな傷があり、鎧の隙間から見える素肌にも無数の傷跡が見てとれた……他の貴族とは違い武闘派なのだろう。


「質問をするだけだ、貴方はアンネリーゼを知っているか?」


 アンネリーゼという単語を聞いた瞬間、ブライトの眉が一瞬動いた。


「アンネリーゼ……ああ、あのハーフエルフか。何年か飼っていたが、逃亡を企てたから処刑したはずだ。他にも何匹か飼っているから中々顔が出てこないが……」

「赤い髪が特徴的な女性だ、一年ほど前に魔術大会に出場していた」

「……そうだった。思い出してきたぞ、たしか歌が上手かったな、特に(はりつけ)にされた後は上手に歌っていたよ。あれは本当に傑作だった」


 こいつで間違いない、やっと見つけたよアンネリーゼ。


「私はようやく答えにたどり着いたようだ……長かった復讐も今日全てが終わる」


 ブライトは何を言っているんだと言わんばかりの表情をしていた。周りの護衛たちはお互いに顔を見合わせている。

 本来なら他の護衛たちは見逃してもいいのだが、応援を呼ばれては厄介だ……死んでもらうことにしよう。


 「ついていなかったな」と言いながら、即座に護衛二人の首を刎ねる。もう一人は腰を抜かして座り込んでいた、辺りに水溜りができていく……失禁をしているようだ。


「初めての任務なのに……簡単だって言われたから付いて来たのに!」


 まだ幼い顔をした兵士が泣きながら何かを喚いている。


「隊長助けてください!」


 泣きながらブライトの足にしがみついていた。可哀想に……恐怖からすぐに解放してあげよう。足を掴んだ兵士の手を振りほどきながら、ブライトは新入り護衛を怒鳴りつける。


「役立たずが! こういうときのための護衛だろう、お前は何のために親衛隊に入ったのだ」

「少なくとも、お前を守って死ぬためじゃないな」


 言って新入りの顔を半分に割る。吹き出す血によってブライトの鎧が鮮血に染まった。私にできるのは痛みを極力感じさせないことだけだ……まぁ、頭を割られたことが無いから、あれが痛くないかは不明だがな。


「ククク、お前は酷い奴だな。お前のせいで大勢の人が死んでいく。私は非常に心が痛むよ……さぁ、その足を頂こうか」

「貴様が噂のリドルか、その話しぶりからすると俺が狙いだったというわけだな……身の程知らずが! ここで朽ち果てるがいい」


 ブライトの情報は収集済みだ。クラスは騎士で得意魔法は土系、契約精霊は大地と鉄……魔力適正は守護。

 クラススキルは鉄壁の守護と呼ばれるスキルで、自分を含めた仲間の数だけ防御力が上がる。それもあって、最初に仲間は全て殺しておいた。


「我の肉体は鎧を超える、鋼鉄皮膚(アイアンスキン)!」


 ブライトの皮膚が赤銅色(しゃくどういろ)に染まっていく、仲間を失った今は効果が薄いはずだが鉄壁の守護も発動していると考えていいだろう。


「この状態になった俺はクリスタルゴーレムよりも硬いぞ! さらにこの魔法を使えばッ……」

「臭い口をこれ以上開くな」


 ブライトからは私が消えたように見えただろう。今できる全力で駆け寄り、手刀を口から突っ込んでそのまま顔の上半分を切断する。


「口の中はそんなに硬くなかったな……足を斬ってから殺してやりたかったが、お前の歌は聞くに堪えない」


 ━━━━


「あの鳥みたいな奴がミトラスか?」

「ああ、お前と同じ風魔法を得意としている」

「ここは私に任せて、少し休んでくれ。そのままでは足手まといだ」


 言って薬の瓶を投げつけてきた。これは増血剤か、血を流しすぎたのでありがたい。


「今度は死霊憑きか、この国の制度は失敗に満ちているようだ。お前達を始末したら民を全員殺して一から創り直す事にしよう」


 クリスが苦笑をする。


「私を始末する……そんな難しい条件を入れて大丈夫か? 国が失敗したのなら王が責任を取る……当たり前のことだろう、責任転嫁をする愚王はここで死ぬべきだ」


 やばい、クリスさんに惚れそう。目の前のクリスの姿が揺らめき、アンネリーゼの姿も徐々に具現化される。最初から全力で行くようだ。


「迷宮内でなら全力が出せる、アンネリーゼは大食いなのさ」


 クリスが移動をすると残像が見えるほどだ。無駄の無い洗練された動作は美しく、俺と戦ったときは手加減をしていたのか? と聞きたくなるほどの動きだった。

 ミトラスに無数の突きを放つ。折れたレイピアでいなしてはいるが防戦一方だ。


「我にも見切れぬだと……! ちょろちょろと五月蝿い、細切れにしてくれるわ!」


 至近距離から真空の刃が放たれる、あの距離ではかわせない! 俺の二の舞になると思ったのだが、クリスは全てを紙一重で回避していく。


「ククク、遅すぎて欠伸がでそうだ」

『クリスってあんなに強かったの!?』


 俺は本当にアレに勝ったのだろうか、自分が信じられない。


『あいつは陳腐な言い方をすれば天才、神徒適正は何かに特化するのだがクリスは身体能力が極端に高いようだ。全ての手の内を晒した状態ならお前でも勝てない』


 うん、クリスのことは怒らせないようにしよう。そう心に誓った。

 目で追うのがやっとであった攻防にも決着が訪れた、ミトラスのレイピアを弾くと同時にクリスの手刀が体を袈裟斬りにする。


「グオォ! このままでは……」

「細切れにされるのはお前のほうだったな!」


 クリスの手刀がミトラス眼前に迫る。このまま振りぬけば勝てると思った次の瞬間。


「……圧縮されし空気の塊よ、風の衝撃(エアインパクト)!」


 ミトラスを中心に衝撃波が展開される。空気の破裂音がここまで聞こえてきた。


「私にこの手まで使わせるとはな」


 言ってミトラスが魔力を溜め込み始めた……それに呼応するかのように周辺が急激に暗くなっていく。


『クロ、何が起きているんだ!』


 突然の事態に、クリスも戸惑っているように見えた。


『魔素を取り込んでいる、それも私達とは桁違いの量を……そのため光苔が魔素を取り込めず光を失ったのだろう』


 あたりは闇に包まれ、一メートル先も確認できないほどだ。


「人は闇を恐れる、何も見えないだろう? だが我にはお前たちがハッキリと見えるぞ」


 梟の目……おそらく誘惑(テンプテーション)はもう効かないだろう。


「参ったな、真実の眼帯でも暗闇は見通すことができない」


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