咲き誇る花、相容れぬ二人④
二刀にダガー、ポケットには眼帯を忍ばせておく。後は真紅のローブを着れば、現時点での最強装備の完成だ。
今日はユミルの店には用が無いので、アミルの店にローブを受け取りにだけいこう。シャツは修理が終わっていればいいけど、難しいだろうな。
昨日は混んでいてロクに会話もできなかったが、今日は空いているようだ。俺を見るなりニッコリと微笑んでくれた。
「昨日はすいませんでした、秋服をお求めのお客様が集中してしまいまして。今日はローブの受け取りですよね? 仕事が立て込んでしまって……シャツはもう一日待ってください」
カウンターの下から真紅のローブを取り出してくれたので、受け取りカードと交換する。ローブの見た目は新品同様だが、効果が上がっているのだろうか。
「火耐性が中になっております」
早速、着てみると、かすかにアミルさんの匂いがする……。
『臭そうだな』
『いい匂いだ! お前はアミルさんが嫌いなのか』
クロは『別に』と一言だけ呟くとポケットに潜ってしまった。
「ありがとうございます。店内はお洒落な服が多いですけど、もう少し耐久力の高い服ってありませんか?」
言って店内を見回す、アミルの店は冒険者用というよりも、ファッション性が高い服を取り揃えていた。装備品なら別の裁縫店に行くべきであろうか。
「リオンさんは本格的な装備をお求めなのですね……わかりました、本気で作りましょう。そのかわり金貨三枚は必要です」
「金貨三枚ですか……何とか用意します。いつぐらいにできそうですか?」
考え込んでいる……かわいいな。
「今から魔物を狩ってきますので、二日は欲しいです。早くても明後日、材料の収集次第ではもう少しかかるかもしれません」
ミトラスに会いに行くときには着られないか……そこまで贅沢は言えない。
「わかりました、本当は明日使いたかったんですけど、それで構いません」
今、所持金はないけど今日のクエストで最低でも一金手に入る、足りない分はクエストで稼ごう。
屋敷に着くころには十八時近くになっていた、ほぼ約束の時間通りだ。門番たちも、さすがに顔を覚えていてくれたのか、俺の姿を見るなり開聞してくれた。
コーラスは仕事をしているらしく、執事たちに食堂に案内される。貴族はいつもこんなに豪華なものを食べているのかと言いたくなるくらい、たくさんの料理が出てきた。喜んでいるのはクロさんだけですよ。
二十三時までは時間があるので、屋敷内を散策する。もちろん執事も一緒だ。屋敷は二階建てで、各階に十以上の部屋がある。
こんなに部屋が必要なのかと執事に尋ねると「主人は元々社交界では人気があったのです、貴族の猟奇殺人が起きるまでは毎日パーティーをしたものですよ」と答えてくれた。
たしかに、三十代の貴族で独身、男前となれば人気者になるかもしれない。クリスと俺の次にイケメンだな……性格は悪いけど。
話がそれてしまったが、執事に部屋の特徴などを確認しながら配置を頭に叩き込む。
どこから侵入してくるのかわからないので、最悪の事態を想定して脱出経路だけは決めておいた。
二十一時近くになるとコーラスが執務室から出てきた。さすがに顔色は冴えないが、疲れている姿も哀愁が漂っている。こんな日まで仕事をするとは……貴族もお気楽な人種ばかりではないかもしれないな。
俺だったら出切る限り遠くに逃げだろうが、貴族の面子があるのだろうか。
「リオン……全てはお前にかかっている、今日ギルドに出向いてみたのだが、お前以外の冒険者は一人もクエストを受けてくれなかったようだ」
リドルに係わりたいと思う奴はそうそういないだろう。
「連携の取れない仲間がいても邪魔なだけです、もともと一人で冒険者していますから、問題はないですよ」
自分の命惜しさに裏切られても困るし、一人で十分だ。しかし、屋敷が広いとはいえ室内での戦闘は避けたい。
理由としては俺の両手剣はリーチが長い、室内で振り回したらどこかに引っかかる可能性もある。できれば広い場所……理想を言えば外が望ましい。
全てを勘案した結果、中央広間で待機をする事にした……広間ならそこまで両手剣が不利になることはないだろう。もちろん、隙あらば外に連れ出すつもりではある。
コーラスには俺と偽リドルが戦っている間に脱出してもらうことにした。俺が勝っても負けても今日は生き延びることができるはずだ。
……コーラスを見るとガタガタ震えている、考えてみればEランクの冒険者一人に命を預けるのは不安だよな。
メイドたちの話によると使用人も半分以上辞めてしまい、護衛にいたっては四分の一まで減ったらしい……おまけを言うと今日この場にいるのは二人、正門に配置している門番を入れると計四人、他の連中は腹痛だそうだ。
『そろそろ二十三時だ』
中央広間の時計が鐘を鳴らす。
『クロ、サーチをしてくれ』
『前方に反応がある、門番二人と……大きな魔力の塊が一つだ』
大きな魔力……門番二人と一緒に近づいてきているのか? 静かに扉が開く、扉から覗く門番の顔は生気を失っており、目も虚ろで焦点が合っていない。その後ろには紫色のローブを着た奴が見える。
「ナルサス……会いにきました」
声の感じは女か? フードを深く被っているので顔はよくわからない。
「お前たち、なぜ門から離れたのだ! 後ろにいる奴は……紫色のローブ……まさか!」
侯爵が門番に大声で話しかけているが反応がない。後ろの奴はおそらくクリスが言っていた邪魔をしてきた奴だろう。
「ふふふ、あなたたちもすぐに仲間になるわ」
そう言うと深く被っていたフードを脱ぎ、護衛たちを睨みつける……ここからでは横顔しか見えないが、女のようだ……
『リオン! 今すぐ真実の眼帯を装備しろ』
『は?』
『すでに催眠系の幻術を使い始めている! 奴の目を直視したら一瞬で幻術におちるぞ』
護衛たちを見ると、門番と同じように虚ろな瞳になっていた、傾いた顔は口が半開きとなっており正気とは思えない。
慌てて目をつぶり、ポケットから眼帯を取り出した。眼帯を装備すると……外の景色が瞼の裏に映し出される。
偽リドルのほうを見ると、護衛と門番が前に立ちふさがっており、巻き込まないように魔法を撃ち込むのは難しそうだ。このまま戦闘が始まってしまったら、コーラスを守りきれない。
「侯爵! 早く逃げてください」
コーラスが逃げるのを見届けたら、偽リドルを外に連れ出す。しかし、後ろから人の気配が無くならない、それどころか近づいてきている気がする。
後ろを振り向くとコーラスがこちらを指差し「全員でこの冒険者を殺すのだ……」と呟いていた。
「だからクエストを受けるなと言ったのに……私の恋路を邪魔する誰であろうと容赦はしないと警告もしたわ」
どこかで聞いた台詞だ……。
「恨むならクリスを恨むのね」
その一言で全てが繋がった。
「ハルカさん……なぜこんなことを」




