咲き誇る花、相容れぬ二人②
ユミルの店に入ると相変わらずカウンターは無人だった。装備品とか持っていかれたらどうするんだよ。
カウンターに行くと、例のボタンが置いてあり「押せ」と書いてある。お断りだ! 奥の作業場に行くと金属を叩いているユミルの後姿が見えた。
声をかけても案の定気がつく様子が無かったので、ユミルの前方に死霊の手を出現させて手を振る。
「なんだ、お前か。ボタンを押せばいいのに」
「耳が壊れるから嫌だ」
毎回アレを押していたら俺まで難聴になるわ。
「店の方で待っていてくれ、少し片付けたらすぐに行く」
そう言うと、ハンマーなどの道具を片付けはじめた……と思う。俺には乱雑に放り投げているようにしか見えないのだが、きっと道具の配置にもユミルなりのこだわりがあるのだろう。
店で待っていると、奥から真っ黒な顔をしたユミルが出てきた。
「待たせて悪かったな、今日はどうした」
「約束のブツを持ってきたんだ。俺を信じて剣を預けてくれた礼に、多めに取ってきたから受け取ってくれ」
カバンからクリスタルゴーレムの心臓を二十一個出し、ユミルに渡す。約束の十個の倍以上だ、文句はないだろう。
「仕事が速いな、おまけに二十一個もか、これならいい剣が作れそうだ」
「どんな剣を作るつもりなんだ?」
「それは出来てからのお楽しみさ、明後日には完成すると思うから楽しみにしていてくれ」
「明後日か、剣を作るのって意外と早いんだな」
ついでに迷宮で手に入れた剣と斧を鑑定してもらう。結果はマジックアイテムとなっていたようだが使うほどではないので、魔石とあわせて八万トラスで買い取ってもらった。
これで現在の所持金は十七万四千トラス、少しは余裕ができたがまだまだ安心できない額だ。
「そうだ、頼まれていたネックレスに、鞘二本と黒双剣用のメーターだ」
「ネックレスは頼んだが、他の二つは何だ?」
「二本の鞘には平衡と呼ばれる魔法をかけてある、効果範囲は鞘二本が一メートル以内無いと発動しかないが、鞘に何を入れても二本の重さが均等になるように調整した。一刀で戦うときでも残りの重量が均等化される、我ながら素晴らしい出来だと思うぞ」
「それはすごいな……総重量は変わらないにしても、均等になれば問題は解決だ」
「メーターの方は剣の耐久度を測定できる。剣に力が加わるとメモリが上昇していき、赤いラインを超えると剣が折れるからな。それを目安に使ってくれ……瞬間的に超えた場合は諦めろ」
元々は鍛治用のハンマーに取り付けていたモノで、強く叩き過ぎないように調整するメーターだったらしい、使っているものを流用するあたりは流石と言うべきか。
アミルが続けて、黒双剣がなぜ脆いのかを説明してくれた。
「黒双剣に使われている浮遊鋼は、鍛鉄に風の精霊を練り込む事で作られている魔法鉱石だ。風の精霊の空に浮こうとする力で金属を軽くしているのだが、それが仇となり金属同士の結合が弱い」
「剣が脆いのは何となくわかったのだが、なぜ切れ味が増すんだ?」
「俺も詳しくは説明できないのだが、二つの理由がある。一つ目は風の精霊が風を受けることで刃先に真空状態を作り出す。二つ目は浮遊鋼と同じような現象……斬りながら物体の結合バランスを強制的に崩しているんだ」
『わかりますか、クロ先生』
『……真空の刃で斬るのと、相手を斬りやすい状態に強制変換するってところか』
…………考えるだけ無駄ってことがよくわかった。あと、熱に弱い理由は、熱で溶けた金属が結合してしまって浮遊鋼自体の魔法効果が失われるかららしい。
早速ネックレスを装備して、鞘も交換する。メーターは黒双剣の柄に取り付けてくれた。
「重さが均等になったようだ、これなら重心もぶれないよ」
試しに朱双剣を抜くと、右側が少し重くなり左右の重さが均等になる。
「すまないな、お金をかければ鞘自体の効果で剣の重さを軽減することもできるんだが、それを作るお金があったら、最初から軽くて硬い金属で剣を作った方が安い」
安い素材でもできなくはないが、邪法を使う事になるためオススメしないと言われた。ちなみに、軽い金属の代表格である魔法銀で作った場合は白金貨十枚以上するらしい。
「貧乏人にはこれで十分だよ、今のところの問題点は解決したし……そうそう、退魔のダガーも役に立ったぞ」
「それは良かった、ここで埃を被っているよりも使われたほうが武器も幸せだろう」
鞘とメーターの代金を聞いたのだが「ゴーレムの心臓をたくさん貰ったからいらない」とのことだ。
その流れでアミルの店に行き、補修中の秋服を受け取った。
秋服に着替え、リドルにボロボロにされてしまった鋼糸のシャツとズボンを修理に出す。銀貨二枚を支払い受け取りは明日ということになった。
今日は忙しいみたいで店内にはお客さんが何人かいる、邪魔をしても悪いので手短に用事を済ませてコーラス侯爵の家に向かうことにした。
住所は西門の近く、地図を確認しながら探す。東門側とは比べ物にならないくらいの豪邸が立ち並んでいる。
どの家もこれでもかと言わんばかりの装飾や銅像が庭に飾られており、正直趣味が悪いと言わざるを得ないほどだ。
数十分探したのちに、ここではないかと思われる場所についたのだが、塀が長すぎて中々門が見えてこない。ようやく見えてきた門は黒塗りの鉄格子のような形をしており、大きさも見上げるほどだ。
門の前には門番が二人待機している。
「何の用だ!」
手に持っていた槍を突きつけられる……初対面の人にそれはないだろう、と思いたくなるが俺は不審者にしか見えないんだろうな。
「ギルドからの依頼を受けたので、コーラス侯爵にお目通り願います」
門番にギルドカードのクエスト欄を見せる。
「そうか、ならば通るがいい」
門をくぐると広い庭が広がっていた。中央に噴水があり、周りにはバラの庭園も整備されている。これで犬と戯れる美少女がいれば完璧なのに。
『何が完璧なのかがサッパリわからん』
『俺の豪邸イメージだよ、いちいち突っ込まないでくれ』
屋敷は青い屋根に白い壁の二階建となっており、外観についても他の家のように悪趣味な装飾品でゴテゴテしていることはなかった。大きな扉にもお約束の獅子の飾りはついていない、好感度アップである。
「すいませーん、ギルドの紹介できたんですけどー!」
大声で呼びかけると、静かにドアが空いたので中に入る。室内には、執事と思われる初老の男性と数人の女性が立っていた。床は赤い絨毯が敷き詰められている……ジュースとかこぼしたら怒られそうだな。
中央の広間は二階まで吹き抜けとなっており、大きな螺旋階段が二階に続いている。所々高そうな美術品や花が飾られているが、嫌味はなく上品な感じだった。執事らしき人に案内をされ、コーラス侯爵の部屋に通される。
「早くドアを閉めてくれ!」
中に入るなり、大きな声で怒鳴りつけてきた……こいつがコーラス伯爵か。少しムカっとしたが、言われたとおりにドアを閉める。
「お前がリオンか? 助けてくれ! 明日殺されるかもしれない」
「落ち着いて状況を説明してもらえませんか?」
「リドルが……リドルが私を狙っているんだ、手紙には明日来ると書いてあった」
「それなら聖庁の異端審問官に依頼すべきではないですか?」
怯えたような目でこちらを見てくる。お前は何もわかっていないとでも言いたげだ。
「あいつらは私を疑っている、私が邪魔な貴族を殺しているとな。頼んだところで取り合ってはもらえない」
「……それで俺は何をすればいいんです?」
「お前はバカか! 話の流れからわかるだろう、私を守ればいいんだ」
もう帰ろうかな。
「そうですか、そんな態度を取られていては守る気も失せますので、他の方を探してください」
そう言って部屋から出ようとすると「待ってくれ!」と呼び止められた。
「わかった、もし依頼を達成できたら金貨十枚だそう! それでいいんだろ?」
「金額の問題ではありませんよ、あなたの横柄な態度にむかついたので帰るだけです」
そう言い放ちドアを開ける。コーラスは慌てた様子で席から立ち上がり、こちらに向かおうとした途中で転んでしまった。
「わかった、私が悪かった! どうかリドルから守ってほしい」
泣きそうな顔をしながら謝ってきたので、話だけは聞いてあげることにしよう。
「……状況を聞かせてください」




