王都の闇、死神と殺人鬼③
料理を楽しみながらギルドの裏話を色々と聞いた、職員もかなり苦労しているようだ。クロさんに至っては終始不機嫌で料理にも反応しない。呼びかけては見るが返事すらしてくれない始末だ。ハルカのほうを見ると、お酒が回ってきたのか非常に饒舌である。
「ハルカさんは誘惑を誰にかけようと思っているんです?」
ハルカが顔を真っ赤にしながら答えてきた。
「それはねぇ、私が尽くしている人です! 死んだと思っていた彼が生きていたと分かったときは本当にうれしかったなぁ……向こうも私のことを好きなはずなんですけど、なぜか逃げるんですよね、恥ずかしいのかな? だから自分の気持ちに正直になってもらおうと思って……」
ん? 何かズレているような……。
「私と彼の邪魔をする人は誰であろうと容赦はしません。彼の障害となる者も全て排除します。こう見えても私強いんですよ……明後日はいよいよ告白するつもりなんです! もう会う約束もしましたからね」
……まぁ酔った勢いで話しているのだろう。酔っ払いの発言を本気にしていたら身が持たない。
「よほどその人のことが好きなんですね。それにしてもクリスさん遅いなぁ……今日は来ないってことですかね」
「あいつは口だけだからね、元貴族とか言っていたけど本当かどうか……」
あれ、クリスって確かスラム出身じゃなかったっけ? 本当に謎が多い人だ。時計を見ると二十三時を回っていた。 もうすぐ閉店も近いこともあって、回りには客がいなかった。人通りも少なくなっていたので、会計を済ませてハルカさんを家に送る。
ハルカさんの驕りだったのだが、アレだけ飲み食いしても銀貨一枚にもならなかったのは驚きだ。ハルカさんの家は西口にあるギルド職員専用の集合住宅だ。ルームメイトがいるらしく、玄関まで出迎えてくれた。
「今日も遅かったのね、起きて待っている私の身になってもらいたいものだわ」
愚痴っているところを見ると毎日遅いのだろうか。ハルカさんを預けて帰路に着く、時間はすでに二十四時を回っていた。
「かなり遅くなってしまったな」
この街では二十三時を境に人通りがパッタリとなくなる、中央広場を通りかかるが俺しかいない。
「……こんばんは、冒険者」
真後ろから声がする、まったく気配はしなかった……嫌な予感がする。
『補助魔法を準備しろ、その予感はおそらく的中している』
クロさん起きていたのかよ、ハルカがよほどキライなのか? ……ってそんなことを考えている場合じゃないな。ゆっくりと後ろを振り向くと、月明かりの中に一人の男が立っていた。逆光のため、顔がよく見えないがあのシルエットには見覚えがある。黒いスーツに青い眼帯……リドルだ!
「今日はキミに用事があってきたんだ、そのカバンの中にある死者の書を私にくれないか?」
「……いつから追いはぎになったんだ? 欲しいなら脚を斬って奪うのがお前のやり方だろ」
「キミは誤解しているようだね、私は誰でも殺すわけじゃない。標的と邪魔をする者だけだ。奴らは報いを受けなければならないし、私には罰を与える義務がある。おまけを言うと標的以外は脚斬りしたことないはずだが」
「言っている意味がわからないな。どうやって嗅ぎ付けたのかはわからないが、お前に死者の書を渡すつもりはない」
リドルは不敵な笑みを浮かべ「キミは邪魔をする者ってことだね」と言ってきた。瞬間的に俺の前に来て突きを放ってくるが、前の俺とは違う! 同じ方向にバックステップをして動きを捉える。
すかさず水弾を放つが、むなしく空を切るだけだった。
「ほほう……前回とは動きが全く違うな。私の真似をしているのかな?」
まだ余裕があるようだ、点で捉えられないなら面でいくしかない。
「真似でもしないとアンタには勝てそうに無いからな!」
魔力を高めて周りの気温を奪っていく……リドルも異変に気がついたようだ。
「お前は詠唱なしで魔法が唱えられるのか? 強力なクラススキルだな」
「それはどうかな」
リドルが再度突きを放とうと体をこちらに向けてきた。その隙を突いて氷雪雫をリドルに目がけて放つ。一撃の威力は低いが効果範囲は広い、少しずつダメージを与えていけば勝機は見える。
『自動回復を上回るダメージでなければダメだがな』
『大丈夫だ、氷の弾丸は傷口を凍結させる。簡単には治癒できないよ』
観念したのかリドルはその場に立ち止まる。
「……私もお前と同じレアクラスだ! この程度を避けるのは造作でもない」
言って最小限の動きで氷の弾丸を避けながら、回避不能な散弾は手刀で弾いていく。
『ありえない、あの射出速度が全て見えているのか!』
どういうことだ、考えろ!
『リオン、確認していいか』
『手短に頼む』
『お前は奴の動きを完全に捉えているのか?』
『いや、同じ方向に動いたときだけはハッキリ見えるが、他は辛うじて見える程度だ』
『奴はお前の動きを完全に捉えている、これは才能ってレベルじゃない。氷の散弾を回避しつつ、的確に弾くなんて人智を超えているぞ』
『……わかりやすく説明してくれ!』
そろそろスノウドロップも効果切れだ、リドルが来る。
『奴はさっきレアクラスがどうとか言っていたよな? つまり、クラススキルでお前の動きを見切っていると思われる。効果もスキル名もわからないから鏡写しが出来ない。同じ戦い方をしたら確実に負ける』
……嬉しくない情報をありがとう。今ある武器でどうやって倒せばいい、今回は逃がしてくれそうも無いからな。
「次はこちらの番だ!」
スーツの中から小型の短剣を両手いっぱいに出してきた。曲芸師が使っているような短剣だ、おそらく奴の次の行動は魔法の付与。
「真空の牙、風刃付与」
予想通り風刃付与された短剣が俺の側面に投げつけられる。更に正面からはリドルが迫ってきた。
避けたら短剣に串刺し、正面からはリドル……受け止めるしかない。即座に朱双剣を取り出し、手刀を受け止める。折れては……いない!
「私の一撃を受け止めただと!」
何とかこれなら受け止められるようだな、片方の手でダガーを取り出し斬り付ける。紙一重で避けようとしたので、ダガーから風刃を発動し、見えない刃で射程距離を伸ばす、これで学園長の首も刎ねた奥の手だ。
「中々やるな!」
そう言うと即座にバックステップに切り替えて、距離を取られてしまった。風魔法が見えているのか……? だが、僅かながら手ごたえはあったぞ。
「久しぶりだぞ、傷を負ったのは……」
真実の眼帯が切り裂かれ、額から血を流している。その中からでてきた顔に俺は驚きを隠せなかった。
「クリス……なのか?」
「リオンさん……あなたが大人しく死者の書を渡していればこんなことにはならなかった」
思い当たる節はあった……なぜ俺が死者の書を持っていることを知っていたのか、俺がここを通ることを知っていたのか、俺のクラスがレアであることを知っていたのか。全てを知る者は一人しか該当しない。
「なぜだクリス! お前はこんなことをするような奴には見えない、理由を教えてくれ」
「……アンネリーゼを知っているか?」
「最初に会ったときも同じ事を言っていたな……」
「私にしか見えないんだよ、アンネリーゼは!」
クリスが魔力を高め始めている。すると隣に悲しげな表情をした女性が浮び上がってきた。きれいなドレスを着ているようだが、スカートが真っ赤に染まっている。そこから見えるはずの足が見えない……。
「その隣にいる女がアンネリーゼか?」
クリスは驚いた顔をして「見えるのか!?」と言ってきた。
『まずいぞ、アレは死霊だ……しかも名前がついているってことは上位以上、こんなところでお目にかかるとは思わなかった』
「ククク……どおりで質問に正解するわけだ……アンネリーゼが見えるとはな、だが私も引き返せないところまで来ている。復讐を終えるまでは負けるわけにはいかない!!」
クリスの叫びに呼応するように、アンネリーゼと呼ばれた死霊が高い声を上げた。俺の体を突風が包み込み、自由に動けない!
「動きを封じさせてもらった。だが、お前は危険な存在だ……おまけもつけよう」
両足に短剣が突き刺さる。苦痛で顔がゆがむが、リドルから目を離すわけにはいかない。
『……クロ、最後の手段でいくぞ!』
『本当にやるのか?』
『お前に全てがかかっている、やらなくても死ぬならやるしかないだろう!』
「これで終わりだぁ!」
クリスが心臓めがけて突きを放ってくる。ここを狙ってくることは前に見た騎士の死体から、予想はついていた! 高速の突きを放つクリスの二の腕をギリギリで掴み軌道を変える。
『**** 風刃付与!』
「付与が消えた……? だが関係ない!」
即死から致命傷にかわるだけ、でもその差が大きいのさ! クリスの手刀が左肩に突き刺さる。
「何、腕が抜けない!」
俺に刺さった手を見ると瞬時に凍結して固定されていた。凍結反射、俺に触れるものは瞬時に凍結される。そして、少しの時間でも動きを止めれば俺の勝ちだ。
「クソ! 足も動かな……」
次の瞬間、クリスは氷の棺に閉じ込められていた。
クリスの手の凍結を解除し、ゆっくりと肩から手を抜く……「ゴボッ」口の中が血で満たされる、自動回復での治癒と痛覚麻痺で苦痛除去を平行しているため、そこまで辛くはなかった。
『勝った……のか』
『ああ、お前の勝ちだ』
それを聞くと中央広場に大の字で寝転がる……しんどい、もう一度同じ事をやれと言われても絶対に嫌だ。




