王都の闇、死神と殺人鬼②
「ハルカ、出すぎたマネだぞ! 少し落ち着け。冒険者がクエストを受けることを妨害するのは禁止されているはずだ」
クリスに注意をされて、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「すいませんでした……」
「気にしないでください、俺のことを心配してくれたんでしょう? 怒ることではないですよ」
「……そうだ、リオンさん今日の夜暇ですか? 死者の書のお礼とさっきのお詫びも兼ねてご飯をご馳走しますよ」
うーん、おっさんの飯も食わないといけないし……でも女性の誘いを断るのは失礼だ。
「それではお言葉に甘えて……」
「では二十時に、ギルド前でもいいですか! 仕事が終わるのがその時間なので……あ、クリスさんもよかったらどうぞ。場所はいつものレストランです」
ハルカはすっかり上機嫌になっている。
『……おい、こいつは危険な感じがするぞ』
はいはい、クロさんは本当に女性に厳しいですね。一方のクリスは苦笑していた。
「行けたら行くよ。いつものところね……リオンさん、これがコーラス侯爵の住所です。明日伺ってみてください」
そういうとクリスは自分の席に戻ってしまった。
「そうだ、今日来たのは他にも理由があるんだった。賞金首を倒したんだけど、賞金はもらえるのかな?」
「討伐クエストは受けていますか? 事前に受けていないのなら、本人を連れてくるか首を持ってこないとダメです」
クエストなんて受けてないなぁ……いきなり遭遇することの方が多いだろうし、事前に受けておくのは難しいと思うが。粉々にしちゃったから、何の証拠もないし。
……今回は諦めよう、悔しくなるのでサイラスの賞金は確認しないでおく。
少し早いが宿に戻ってご飯を食べよう、今食べれば二十時までにはお腹も少し減るだろう。まだ日が落ちない時間帯に宿には着いた。中に入るとおっさんが俺を待っていたのか、足早に近づいてくる。
「おう、さっきお前に客が来ていたぞ、手紙と荷物を言付かったから部屋に置いておいた」
誰だろう……多分アイシアだろうな。
「もう晩御飯は食べられるか?」
「ああ、今日は煮込み料理だ。席について待っていろ」
『楽しみだな!』
『お前がうらやましいよ』
席に着いてしばらく待っていると、目の前に皿が一つ出された。見た目は昨日食べた、茶色い物体によく似ている。色はもっと濃いが……。
真ん中の肉の塊が存在感を放っており、まるで山のようである。もう一つ置かれたカゴの中には小さなパンが入っていた。
「おっさんこれはどうすれば……」
「まずは肉を食え! そしてパンにソースをつけて食べる、それがこの料理の絶対的ルールだ!」
肉を切ると……いや表現で言うなら肉がほどけると言うべきか! その断面は程よく赤く、食欲を掻きたてる。その断面にソースが流れ落ちる姿は今まで見た滝の中で最も美しい。
ソースをたっぷりとからめてから肉を口に運ぶと、何層にも積み重ねられたコクと風味が襲ってくる。あの茶色いご飯とは似て非なる物だ。
たった一口、このたった一口に食材たちの生き様が刻まれているではないか。そしてこの肉、口に入れた瞬間に強い主張! だが、次の瞬間には消えていなくなる。この主張をもっと聞きたい! しかし、捕まえることができない。
この繰り返しが止まらない。気が付けば肉が残っていないではないか! あとはおまけのパン……悲しみと同時に諦めの気持ちが全身をつつむ、ため息をつきながらパンをソースにつけて頬張る……。
衝撃が走るとはこのことだろうか、ただのパンがソースと絡まりあうことにより、ソースはパンのために、パンはソースのために存在しているのではないかと錯覚する。
ソース単品では濃すぎるし、パンだけでは味気ない。しかし、混ざり合うことにより、お互いが欠点を補いあい長所に変えている! もはや革命と言わざるを得ない。そしてこの料理を作るおっさんは料理人ではない、革命家だ! ……ってのがクロさんの感想です。
「どうだ!」
「ああ、食えますね。辛くないし、いいんじゃないですか?」
おっさんは「これでもダメ……いったい何を作ればいいんだー!」と叫びながら厨房に走り去ってしまった。しかし、ほとんどクロが食いやがったな。
このあと約束があるからいいけど、こいつの食費もバカにならないぞ。
おっさんがいなくなってしまったので、放置するわけにもいかず皿を片づけてから自分の部屋に戻る。机の上には手紙と一冊の本が置いてあった。ベッドに腰かけ、手紙を読んでみる。
『リオンさんへ
突然のお手紙申し訳ございません。
本の出版日程にも影響してしまうため、仲間の亡くなった経緯等を取り急ぎ報告し、中断してしまった調査を再開してもらう必要があります。
アズガルド出版の本店は学術都市ラインテールにありますので、本日中に王都を発たねばならなくなりました。
明日のお約束、守れなくて本当にごめんなさい。
今日もしかしたらお会いできるかと思ったのですが……とても残念です。
もしリオンさんがラインテールにお越しになることがありましたら、是非社の方にお立ち寄りください。できなかったお礼を兼ねて、精一杯おもてなしさせていただきます。
昨日は、助けていただき本当にありがとうございました。 アイシア』
『残念だったな。スケベ野郎』
……本当に残念である、そして俺はスケベではない。アイシアが置いていった本を手に取る。「世界の歩き方」……アズガルド出版で発行している近隣国のガイドブックだ。
学術都市ラインテールから少しずつ地図を書き足していき、現在では隣国までの地図が掲載されているようだ。
この本があれば少なくともラインテールまでは道に迷わない、非常にありがたいな。この国の本屋にはなかったので、ラインテールでしか買えない本なのかもしれない。アイシアがいたら、「お礼はこの本で十分だよ!」と言ってあげたい位だ。
『そろそろ約束の時間じゃないのか? ……私は行くのは反対だがな』
おっと、二十時の約束だったな。少し早いけどギルドに向かおう。中央広場の噴水に座って待つ。周りはカップルの姿も見え、なんだか自分までデートの待ち合わせをしている気分になってくる。
もう少しお洒落をするべきだったか……? と言っても私服もこれと大差ないけど。
「お待たせしました!」
声の方を見ると、私服姿のハルカがいる。髪型と瓶底眼鏡は相変わらずだけど、緑色のシャツに青いズボン……私服姿は新鮮だ。
「ああ、全然待ってないですから気にしないでください」
言って時計に目をやると二十時前だった。
「それでは行きましょうか、ギルド職員行きつけのおいしいレストランがあるんです」
案内されたのは中央広場から少し東に行った所にある、「風見鶏」と言う名のレストランだった。店の中はすでに客でいっぱいになっていたため、外のテーブルに腰かける。
「リオンさんは未成年でしたよね?」
「はい、十六歳です」
ハルカが大きな声で、醸造酒とオレンジジュースを頼んでくれた。
「ここは、お酒以外だとオレンジジュースしかないのよ、私だけお酒を飲むけどゴメンね!」
おどけた顔で笑いかけてきた。うーん、眼鏡をはずしてもらいたい……絶対にお約束美人だと思うのだが。
テーブルの上にお酒とジュースに一品料理が並べられていく。店員とは顔見知りなのか「今日のオススメを適当に持ってきて」と注文していた。
「じゃあ、今日はお疲れ様!」
乾杯をしてジュースを飲む、ハルカの方を見るとコップはすでに空になっていた。
「ハルカさんは何歳ですか?」
「私は二十五歳ですよ、童顔なんで十代に見られることも多いですけどね」
九歳も上だったのか……全然見えなかったわ。




