漆黒の魔導師、蘇る死者の書②
死者の書に対して水弾を放つが、弾かれてしまう。それならと思い、炎槍を放つが結果は同じだった。
『どういうことだクロ!』
『魔法耐性だ、お前の魔力では奴の耐性を貫通できないってことだな』
「ははは、おもしろい男だな。水と火……相性の悪い属性を操るか……だが、お前の周りから精霊の気配を感じないぞ。どういうことだ……? まぁいい」
次は私の番だと言わんばかりに、魔法を放ってきた。黒い球体……速度は非常に遅いが複数浮遊しているので避けにくい。
地面にぶつかると同時に消失するが、接触した地面を半球型に抉っている。
『闇属性の暗黒球。触れるものを飲み込む魔法だ』
何その強力な魔法……反則じゃないですか。クロも一個ずつレジストをしてくれているようだが、黒い球体の数が減る気配はない。
魔法がダメなら剣術だ! 黒い球体の合間を縫って近づく。移動速度に緩急つければ、相手も俺の動きを捉えにくいはずだ。
死者の書の目の前で一気に加速し、黒双剣で切り裂く……が、手ごたえがない。素振りをしているような感覚だ。魔法は効かないし剣術もダメ……こんな慌ただしい状況下では頭の整理も追いつかない。浮かんでくるのは敗北の文字だけだった。
『落ち着け! 今の一撃で確信が持てた。ヤツは霊体だ、あの魔導師に通常の攻撃をしても意味がない、本体を叩く必要がある』
『本体って……?』
『あいつは自分で本から生まれたと言っていただろう、あの本が本体だ。本だけにな!』
『クソつまらん……が、少し元気がでたよ』
俺が本を狙っていることに気が付いたのか、魔導師は手に本を取り別の魔法をこちらに放ってきた。そんなに本を攻撃されるのが怖いのか? その姿を見た瞬間に、ふと冷静になってしまった。
突然襲われたからパニックになってしまったが、落ち着いてみれば攻撃もたいしたことはない。
暗黒球? 触れるものを飲み込むなら対処は簡単だ。全ての黒球に向かって氷雪雫を放つ、その場で氷の散弾を飲み込み黒い球体は消滅していく。
「なんだと!」
驚くほどのことでもないだろ、次の一手でチェックメイトだ。銅の短剣を複数本取り出し、全てを霊体に投げつけると同時に距離を詰める。避ける必要もないと言わんばかりに動く気配がない。
「無駄だと言うのがまだわからないようだな」
「……無駄だと思った時点でお前の負けだよ」
数本のナイフが敵を貫通し、後ろの壁に弾かれるが俺の狙いは他にある。
「ぐう!」
霊体のうめき声とともに、本が地面に落ちた。奴の左腕にはダガーが一本突き刺さっている。
「そいつはユミルから買った特別製だ、お前にはよく効くだろう」
一瞬の隙をつき左腕に刺さったダガーを握りしめると、そのまま思い切り壁に押し込んだ。風刃付与を付与していたので、一切の抵抗なく壁に深く突き刺さる。
ダガーの形状はギザギザしている部分があるからな、焦って壁から抜こうとしても余計にひっかかるぞ。
「よくもやってくれたなぁ!」
怒り狂った表情となり、唸り声をあげている。こちらに向かおうとするがダガーが抜けず、動くことができないようだ。霊体と言っても壁側をすり抜けることはできないようだな。
ここまで来たら子供でも倒せる、俺が本の近くにいるためか霊体も迂闊に魔法が撃てないようだ。
「やめてくれぇ! 何でもする!」
「信じられるか!」
死者の書が聞いたことの無い呪文を唱え始めた、攻撃魔法を唱えるつもりか? せいぜい本を巻き込まないように注意するんだな。
「闇の籠よ、光を捉えよ暗闇牢獄」
突然辺りが真っ暗になる。視界を奪われたのか? いや自分の体は見えているが、黒い空間に浮いているような感覚だ。
『面倒な魔法を使ってくれたな!』
『一体何が起きているんだ』
『闇の結界に閉じ込められた。相手もこちらに手を出すことができないが、私達も外に干渉することが出来ない』
効果時間は十分程度らしいが、そんなに時間を与えてしまったら縫い付けた壁から逃れてしまう。
『強力な魔法だが、抜け道はある』
クロが『あまりやりたくはないが……』ともったいぶっているので『いいから早くしろ!』と言う。
『後悔するなよ、水流落下』
はい? 空間内が物凄い勢いで水に満たされていく。
『俺を殺す気か!』
『中から膨張させて壊す、コレが一番早いのだ』
一気に上半身まで水かさが増していた。このままでは溺死してしまうぞ! 覚悟を決めて大きく息を吸い込む。
早く壊れてくれ…………まだか……もう我慢できない! 思い切り結界を殴りつける。そこにヒビが入り、僅かながら光が漏れてきた。ヒビはどんどん広がり全体に広がっている。次の瞬間大きな音共に結界が飛散し、大量の水とともに外に飛び出す。
「馬鹿な! こんな短時間で抜け出せるわけが無い」
霊体の表情は全く変わっていなかったが、相当驚いているようだ。だが、それにかまっている暇は無い。また同じ魔法を使われる前に仕留めなければ。足元にある本に勢いよく剣を突き刺すと、断末魔の叫びとともに本から赤い液体が噴出す。
霊体のほうを見ると、半人半獣の魔物と同じく煙のように消えていった。
『最初は不甲斐なかったが、最後はかっこよかったぞ』
『あれはビビるだろう、俺はお化けとか嫌いなんだよ』
ははは! と大きな声でクロが笑っている。笑われたことはあったが、腹の底から笑っている姿は初めてみたかもしれない。
『笑い事じゃないぞ、退魔のダガーが無かったらどうするつもりだったんだ』
『ああ、あいつは闇属性を使っていたからな、おそらく弱点は反対の光属性だ。お前は忘れているかもしれないが光属性魔法……聖光なら一定の効果が期待できたのだよ』
……暗黒球も一個ずつ消滅させるとか、クロにしては手際が悪いと思った。魔法耐性を持っていても、弱点属性なら効果が倍増するため貫通できる可能性が高まるそうだ。
まぁ弱点を知っていたところで、聖光は使わなかっただろうけど……存在自体を忘れていたからね。
『私に頼るのは構わないが、最近頼りすぎだったから、お前の判断に委ねてみたのだ。結果は私の予想以上だったよ』
褒めてもらっているのかな、褒めてもらったのだろう!
『ここは素直に喜んでおくよ』
地面に落ちている死者の書を手に取るが、俺も本も水浸しだ。先ほどまで出ていた赤い液体はどこかに消えてしまった。本を持ったまま部屋の外に出てみるが、結界は消滅している。試しに、本を開いても魔物は現れない。
『なぁクロ、あいつは一体何だったんだ』
『死者の書から禍々しい魔力を感じる、元々は魔導書から生まれた精霊だったのだろうが、この魔力に中てられて精霊から死霊に代わってしまったのだろう……お前だから声を聴くことが出来たが、他の連中だったら気づかないうちに殺されていただろうな』
俺だから声が聴けた……神徒適性に関係しているのだろうか。ちょっとまてよ、俺はあいつと契約しようと思えばできたってことか?
『察しがいいな、本当に今日は冴えている。契約は可能だったが、相手にその気はなかったからな。できるかできないかで言えば、できる』
……まぁできたとしても、あんな物騒な死霊と契約なんてしたくないわ。一ページのつもりが一冊まるごと手に入れることができてしまった。どうせなら完全な一冊として保管したいな……ハルカには複写して渡すか。
誰かに見られる前に、死者の書はカバンにしまっておこう。
余力も十分ある、時間もまだ昼過ぎだ。このまま十九階を目指す。今回の迷宮探索でかなりレベルアップしたな。もはや十六階から十八階までの敵は相手にならなかった。




