漆黒の魔導師、蘇る死者の書①
氷の棺に岩石弾を放つ。徐々に氷の棺にヒビが入っていき、きれいに砕け散った。
あ……賞金首って言っていたけど、これだと賞金もらえないのかな。
『見事に粉々だな、せめて杖だけでも回収できれば証拠になったかもしれないが』
だよなぁ……肉片持って行きたくないし、すっぱりあきらめよう!
後ろを振り返るなり、アイシアが俺に抱きついてきた。女だったよな? たしか女の子だった! 素直に喜ぼう。
「死んじゃったかと思いました! 生きていて本当に良かった」
ああ、氷漬けにされましたからね。普通は死んだって思うよな。
俺の鼻の下が伸びている事に気がついたのか、アイシアは顔を真っ赤にして俺を突き飛ばしてきた。ちょっと待って、抱きついてきたのはあなたでしたよね……。
「ごめんなさいっ! はしたないマネをしてしまいました。何度も言いますけど、あなたは命の恩人です! ……えっと……」
「俺の名前はリオンだ、見ての通り冒険者をやっている」
「リオンさんですか、それにしてもすごいですね。まさか氷の精霊と契約しているなんて……しかも氷と相性の悪い火の精霊とも契約しているってことは、よほど魔力の質が高いんでしょうね!」
「あ……ああ、そんなところかな」
精霊に相性なんてあったんですね。クロさんそういうのは教えてくださいよぉ。
『最初に説明しなかったか……していないな。忘れていた』
忘れるなよ、とりあえず使っている魔法の相性について突っ込まれたら魔力の質が高いから、でごまかせることがわかったから良しとしておこう。
「とりあえず、一人じゃ危険だ。アイシアは脱出をしたほうがいいだろう。転移石は持っているか?」
「はい、リュックの中に入れてあります」
「じゃあ、俺が見張っているから転移してくれ」
「わ、わかりました。あの……お礼をしたいのですが、また会えますか?」
……くう、顔がにやけてしまうのを必死にこらえる。
「俺は東の門という宿に泊まっている、会いたかったら明日の朝にでも来てくれ」
「明日ですか……わかりました」
そう言うと、アイシアは転移してしまった。
『会いたかったら明日の朝にでも来てくれ、だと……お前が会いたいのだろうが! このスケベが!』
『うっさいわ! お礼くらい期待したっていいだろ』
その後もクロとよくわからない喧嘩を十分ほどした。最終的には「……何で喧嘩しているんだっけ」で終わったので、無駄な時間を過ごしたようだ。
サイラスが使った魔法はかなり強力なものばかりだ。あれほどの魔法を使いこなせたら、自分は特別だ!と思っても仕方ないのかもしれない。
細氷乱舞を戦闘中に見ることができなかったので、クロに再現してもらったのだが、自分を中心に氷の刃をを撒き散らす範囲魔法だった。実験台となった蟻は見るも無残な姿になっている。
実用的なレベルの威力まで高めるには魔力を五割以上消費するところが問題だな。しかし、全方位を攻撃する魔法をもっていなかったので非常にありがたい。
十二階から十四階までは新しく覚えた氷魔法を駆使して攻略が出来た。水と氷が苦手な魔物が多くいたってのが大きいかもしれない。
『なぁクロ、今更だけど死者の書って知っているのか?』
『……知らないが、死の神ヤトと冥界の神タルタロッサは知っている。両方ともクズだな』
『じゃあさ、階層から移動できない呪いの原因はわかるか?』
『本自体に呪いがかかっていると考えるのが妥当だ。持ち出されたら困る何かがあるのだろう』
とにかく見てみないことにはわからない。とクロも言っていたから、まずは見つけることだ。場所はこの階層の中央部、少し広めの部屋に設置してあるはずだ。
魔物の処理をしながら、一直線で向かう。気のせいかもしれないが空気が重い、魔物との遭遇率は明らかに減少しており、中央部には思った以上に簡単に到達した。
これなら複写をしたとしても、途中で魔物に襲われる心配はなさそうだ。
死者の書は中央の台座に置かれていた。台座自体は石でできており、中央の窪みに本がキレイにはまっている。一見何の変哲もない本だが……本の表紙には顔が魔物で体が人となっている半人半獣が描かれている。
『これが死者の書か……』
本に手を伸ばす、トラップを心配したが問題はなさそうだ。まずはこの本を持って十四階に上がってみるか?移動できないって現象を確認してみよう。
部屋から出ようとしたときに思い切り見えない壁にぶつかった。無警戒だったため余計に痛い。
『なんだこれは? 何かに押し返されて先に進めない』
『これは結界だな』
『結界? クロが森で使っていたやつだよな。解除はできないか?』
クロはうーんと唸っている。
『簡単に解除はできない、見た感じこの部屋から出さないという単純な結界のようだからな……単純な結界ほど強度が高いのだ』
階層どころか部屋からも出られないのか。まずは本を窪みに戻せば部屋から出られるのかを確認しよう。
……今度はあっさりと部屋から出ることができた。
『仕方がない、ページを破いてみるか』
死者の書を手に取り、本を開くと部屋の四隅にいつの間にか魔物が立っている。顔が真っ黒い犬、体が人の魔物……本の表紙に書かれている半人半獣の魔物だ。臨戦態勢を取るために慌てて本を閉じると、煙のように魔物が消えてしまった。
『……どういうことだ?』
再び本を開くと魔物が地面から湧き出てくる。閉じると消える。間違いないな、本を開くと魔物が出てくるようだ。
『トラップのようだ。誰が設置したのかわからないが、よほど本の中身を見られたくないらしい』
『複写するのは無理そうだな、とにかく目当てのページを探して破こう』
本を開き、ハルカの言っていた誘惑のページを探す。湧き出てきた魔物は手に剣を持っており。四匹同時に襲いかかってきた。二匹を即座に拘束し、残り二匹を黒双剣で斬り捨てる。
最後に拘束した二匹も首を刎ねて、本を確認しようとしたが再度魔物があらわれた。
『再召喚が早すぎないか?』
『倒すと再召喚されるのであれば、拘束だ』
四匹を順次、捕縛月季で締め上げる。効果時間は五分程度だ。その間に対象のページを探し出す。
誘惑……急いで本を捲る……あった! 出来る限り丁寧に本のページを破り、本を閉じる。すると、拘束していた半人半獣の魔物が消滅していく、後はここから出られるかだ。
本を台座に置き、部屋を出ようとすると迷宮が揺れ始めた。空間湾曲か!? と思ったのだが違うようだ。
どこからともなく声が聞こえてくる。
「……ぐうぅう、封印は解けたが身を引き裂かれるような痛みだ……」
ちょっとクロさん、いたずらはやめてくださいよ。
『私じゃないぞ』
『またまたぁ……』
おそるおそる後ろを振り向くと、黒いローブを着た魔導師が立っていた……いや足が地面についていない……お化けですか!?
「……礼をいうぞ、そこの男。お前が本を破いてくれたおかげで、封印の綻びから出ることができた」
「封印? この本に封じられていたのか?」
「そうだ、私はその本から生まれたのだ。しかし、私の存在に怯えた愚か者に封じられて今に至っている」
怯えて封印……ふむ、あまり良い事態を招いてないことだけは分かる。
「わが身を傷つけた罪は重い……が、封印を解いてくれた礼に一瞬で消滅させてやろう」
お礼になっていません。
「ちょっと待て、状況が整理できない。本を破いたのを怒っているのなら謝るし、このページを返せと言う事なら少し待ってくれ、複写したらすぐに返す」
「……そう言われても困る、本を傷つけたことだけが理由ではないのだ。死後の魂を楽園に導くこと、それが死者の書の存在意義であり、私の存在理由でもある。これは私にとってごく自然な行為なのだ」
「それと俺に何の関係がある?」
「ここには死者がいない、ならば作るだけだ」
ハルカの野郎……こんな危険な本を取りにいかせやがったのか! ミトラスの情報だけでは安すぎるな。即座に二刀を抜き臨戦態勢を取る。




