忘却の魔物、記憶の価値④
六階は初めて到達する階だ、ここからは豚兵士が出てくる。しばらく進むと、正面から竹槍のようなものを持った二足歩行の豚が三匹ほどで向かってきているようだ。
三匹の豚が色違いの半ズボンを履いている……昔読んだ童話に三匹の豚が出てくる話があったな。いかん、いくら可愛くても魔物だ、接近戦になるまでに数を減らしておこう。
二匹をクロと同時に水弾で狙撃する。一匹は仕留めたが、もう一匹は回避してきた。五階まで外したことはなかったのだが、六階からは敵も手強くなっているようだ。
接近戦にもつれ込みそうだったので、二刀を鞘から抜き応戦する。実力がわからない以上、二匹同時に相手をするのは避けたい。
死霊の手を唱えると一匹は拘束できたが、さっき水弾を避けた一匹が死霊の手も回避している。
見た目より身軽だ、個体によって実力が違うのかもしれない。豚……オークが正面から突きを放ってくる、ブヒブヒ言って可愛いヤツと思ったのだが、涎を垂らしながら奇声を上げて近づいてくるその顔は、可愛さの欠片もない醜悪そのものだった。
階が進むにつれて魔物が強くはなってきたが、まだまだ攻撃速度は遅いようだ。あくびが出そうな突きを余裕で回避し、黒双剣で体を両断する。ゼリーを切っているような感覚だ、切れ味が鋭すぎて怖いな。最後の一匹は竹槍を投げつけてきたので、朱双剣で叩き落とす。
「武器がなくなったら困るだろう、返してやるよ」
地面に落ちた竹槍を拾い上げて、オーク目がけて全力で投げる。足を死霊の手で固定されているので避けることもできず、そのまま串刺しになった。この階層の魔物レベルだったら、混戦になっても問題ないようだな。
順調に歩を進めているとオークの集団が前方にいた。中に赤いマントを羽織った緑色のオークがいる。通常の個体よりも一回り小さいようだ。逆にまわりのオークは通常の個体よりも少し大きい気がする……。
もしかして……と思い、名鑑を確認すると希少種のようだ、名前は豚王子。本体は弱いが、取り巻きの強化オークが厄介と書いてある。
全部で五匹くらいだな……距離にしてまだ二十メートル以上はあるので、この距離から火槍の雨を降らせてやろう。
『まてまて、名鑑をよく見ろ。オークプリンスのマントは高く売れると書いてあるだろう。火魔法なんて使ったら燃えるぞ』
でも、他に複数展開できる魔法知らないし……仕方ないな、ここから狙撃で数を減らして接近戦で倒していくしかないか。オークプリンスの能力は従者召喚なので、数を増やさないためには親玉を最初に殺す必要がある。
おまけに死体が迷宮に吸収される前にマントを回収しなければならないので、時間制限も厳しい。初撃が肝心だ、頭をよく狙い水弾を放つ。
本体の能力は低いってのは本当のようだ。気が付いたところで避けることもできず、オークプリンスの頭を吹き飛ばすことに成功した。
「……グギャァァアアアアアアアア!!!」
文字通り、頭を失った取り巻きたちが物凄い叫び声を上げた。声に呼応するように、オークたちの肌の色が赤黒く変わっていく。
『名鑑にあんなの書いてなかったぞ!』
『新発見だな、おめでとう』
……うれしくないわ! 太い腕には血管とか浮き出ているし……これ、どう見ても強くなっているでしょう。
『身体強化と双生剣を使うぞ! 魔力が切れる前に警告してくれ』
黒双剣と朱双剣を重ねてツインブレイドと叫ぶ。相手の方も完全にやる気満々のようで、四匹が突撃をしかけてきた。強化オーク達は完全に頭に血が昇っているらしく直線的な動きで突っ込んでくる。
最初に接触した三匹のオーク達はバカの一つ覚えみたいに突きを放ってきた。どこぞのバカ執行官と同じだな、一点集中の攻撃ほど避けやすいものはない。こういう時は逃げそうな方向にも突きを放つべきだ。
竹槍の脇をすり抜け、通り抜けざまに二匹のオークをまとめて両断する。さすがにリーチが届かず、三匹まとめて始末できなかった。
だが、残りの一匹はこちらを向いた瞬間に頭が弾けとんだ。クロが水弾を撃ち込んでくれたのか?
『そんなことよりも前を見ろ! 相手から目を離すな』
そうだった、相手の状況を確認する。残るは一匹! 次々と仲間を殺された事に激昂しているのか、叫び声をあげながら突撃してきた。
さっきから突きしかしてこない……馬鹿の一つ覚えってまさにこの事だな。身をひねりながら回避し、そのままの勢いで一回転する要領でわき腹から首にかけて切断した。
これで全部片付けた! 急いで戦利品のマントを回収しなくては、あれが消滅していたら苦労が水の泡である。
近くによるとオークプリンスの顔はほとんど吹き飛んでおり、かろうじて残った舌が時折ピクピク動いている。気持ち悪いなぁ、と思いつつマントをはぎ取る。素材はわからないが触り心地は非常に良い。残念なのはマントが血で汚れてしまっていることだ、価値が下がってしまうかもしれない。
つぎは強化オークたちのドロップ品を確認する。竹槍は通常個体の装備と全く同じの物ようだ、価値は低いが何かに使えるかもしれないので一応回収していく。
あとは魔石が二個落ちているだけだな。マントが拾えなかったら、骨折り損になるところだった。
探索を再開し、七階への階段に到達するころには十五時近くになってしまった。目標まであと四階層、各一時間で踏破しても十九時だ。今日は早めに帰って晩御飯を食べないと、おっさんにどやされてしまう。
足早に階段を下りる。七階と八階は魔物が比較的弱く、すんなりと攻略が出来た。少しずつだけど、俺は強くなってきているのかもしれない。九階への階段が見えてきたので、階段近くまで行き小休止を取りつつ名鑑を確認する。
次は黒豚兵士と豚僧侶か、治癒魔法を使われる前にビショップを潰せと名鑑には書いてある。あとはクエスト対象階なので、気合を入れていこう。
九階に下りると遠くからブヒブヒと声が聞こえてきた……リズミカルにブヒブヒ言っているので歌なのかもしれない。
歌が聞こえる方に静かに進む、いくつかの曲がり角の先にブラックオーク達が輪を作って歌っていた。黒豚と白豚、交互に手を繋いで踊っている。楽しんでいるところ悪いけど、死んでもらう。
手前のオークに向かって風刃付与を付与した銅の短剣を投げつける。リズミカルに頭を振っているところに直撃し、一面が血の海となった。銅の短剣はそのまま貫通し、勢い衰えずに二匹目のブラックオークにも命中する。
風刃付与の貫通力向上は本当にヤバイな。
驚いているオークビショップは治癒魔法を唱えようとしていたので、水弾を使うが「ガキン!」と大きな音ともに目の前で水の玉がはじけてしまった。
命中する直前にビショップの前に光の魔法陣が浮いているように見えたが、あれが水弾を防いだのか?
『あの魔方陣……守護適正で使う魔法障壁だな。一定以下の威力の攻撃を弾くし、貫通できたとしてもその分威力は減算される』
何その便利な魔法。俺の魔法がダメって事は物理攻撃しかない……だが、黒双剣で攻撃して弾かれたらへし折れそうだな。それならと思い、オークビショップに駆け寄りながら朱双剣で斬りつける。
しかし、オークビショップは全力で逃げているため、中々致命傷が与えられない。次の瞬間、ビショップの杖が強い光を放った。直撃は避けたが、服の右腕部分が焼け焦げ、肌も真っ赤になっている。
だんだんと痛みを感じてきたが、歯を食いしばってビショップとの間合いを詰めていく。逃げようとした方向に黒双剣を投げつけ退路を塞ぐと慌てて立ち止まった。一瞬でも動きが止まればこっちのものだ。
ビショップの頭めがけて渾身の一撃を放つ、またも「ガキン」と大きな音がしたが、そのまま振りぬくことができた。しかし、切れ味はほとんどないので鈍器と同じだ。
赤い剣線を残しながらビショップの頭を叩き潰す。これで生きていられたらオークゾンビに名前を変えるべきだな。クエストアイテムである棍棒二本を回収し、足早に階段へ向かう。
おっと、ハルカから受けていたもう一つのクエストアイテムである、ビショップの杖も忘れずに回収しなくては。
途中で結構な数と遭遇したが、六階のオークと大差ないため楽勝だった。他の冒険者にしたら強さが全然違う! と言うかもしれないが……。
ドロップアイテムは魔石しかなかったが、クエスト報酬だけでも十分だろう。十階の階段を見つけたので、気になっていたことを質問する。
『クロ、ビショップの放ってきた魔法は何だったんだ? かなり痛かったぞ』
『あれか、光属性の聖光だな。威力はそこまで高くないはずだが……』
結構痛かったけどなぁ……原因を考えるのは迷宮を出てからにしよう。




