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素晴らしき このイカれた世界  作者: hi-g
魔導の神 ミトラス編
31/67

忘却の魔物、記憶の価値③

 俺の言葉を遮るように、ユミルが話を被せてきた。無限の可能性か……組み合わせってことは、融合する剣は増やせるってことだろうか。


『手伝ってやったらどうだ? お前の鋼の剣は二戦連続で使い物にならなかっただろう、剣術が得意なのに使えなかったら無意味だ。どのみち新しい武器は必要だと思うぞ』


 たしかにそうだ……戦士との戦いも、リドルとの戦いも、剣で受け止めたら折れると思ったが、この剣なら大丈夫だろう。


『それにこの技術には非常に興味がある、私も長いこと世界を見ていたがこの発想と技術は素晴らしいとしか言いようがない』


 クロがここまで絶賛するのもめずらしい、そこまで言うならやるだけやってみよう。十五階も十九階も大差ないよな。


「わかったよ、正直この剣欲しいと思っていたからな。クリスタルゴーレムだっけ? 心臓の十個くらい三日もあればいけるだろう」


 はははとユミルが笑っている。


「そうかそうか! お前にも熱いものを感じたからな、やはり(おとこ)にとって合体と無限はロマンだよな!  これ以外にもギミックは考えているから実験台になってくれよ」


 この兄妹はそろって俺のことを実験台と思っているようだな、変なところはよく似ている。そろそろ迷宮に行かないと、時計を見るとすでに十時をまわっていた。


「待ってくれ、この剣は持って行って構わない。使った感想を教えてくれ」

「え、さすがにそこまでは……俺が持ち逃げする可能性だってあるし」

「もともと十年も眠っていた剣だ、その時は諦めるさ。あと普段は二刀流として使うのがいいぞ、融合は魔力を喰うからな」


 忠告に従うことにしよう、この性能なら片手剣としても問題ないだろう。


「なぁ、この剣に名前は無いのか?」

「名前? 黒い剣に赤い剣でいいだろ」


 気合入れて作っている割には、無頓着(むとんちゃく)だな。


「名前って作った人がつけるものじゃないのか? 他の鍛冶屋はどうしているんだ」

「普通は素材から名前を取ったり、自分の名前をつけたりするな」


 だよなぁ、黒い剣と赤い剣では味気なさすぎる。


「じゃあ、黒双剣(こくそうけん)ユミルに朱双剣(しゅそうけん)アミルって名前をつけてもいいか?」


 融合したときは双生剣(そうせいけん)だな。ユミルは面倒くさそうに手を振っている、好きにしろってことだろうか。


『兄妹を合体させるとかお前の発想は本当に変態だな!』


 こいつに卑猥(ひわい)なことを考えさせたら、本当に神だな。


「そうそう、クリスタルゴーレムは魔法に耐性があるから注意だ、心臓の取り出し方は紙に書いておいたから時間があるときに確認しといてくれ」


 魔法が効きにくいのか……名前からして硬そうだし厄介な魔物なのかもしれない。紙を受け取り、店を後にする。


 急いで迷宮に潜ろう、予定の十階までスムーズに行けたとしても十時間はかかると見ていいだろう。仮に十階の転移石にたどり着けず、引き返すこととなった場合はそれ以上の時間がかかってしまう。前回は昼ご飯を持たずに潜ってしまったため、空腹とも戦ったが今回は露店で購入済みだ。


 顔なじみになってきた、門番に挨拶をして北門から外に出る。迷宮前では、めずらしく冒険者たちを見かけた。やはり迷宮には複数名で挑戦するのが常識のようだ。意見を交わしているパーティーの横を通って階段を下りる。


 三回目ともなると、さすがに道も覚えてきた。三日ぶりにレッドキャップと対面するが、黒双剣で斬り捨てる。あまりの鋭さに、斬られた事に気がついていないようだ。


『私はしばらく魔力回復に専念する、両手剣に大分吸われたからな』

『すまないな、できれば疾風速(ウィンドウォーク)とかを試したいんだけど構わないか? 上層にいるあいだに慣れておきたいんだ』

『ああ、補助魔法は問題ない。身体強化は少しセーブしてくれよ』


 わかった、と短く答え探索を再開する。移動時間の短縮のために、リドルが使っていたと思われる一連の補助魔法を順次唱える。

 痛覚麻痺(アンチペイン)は全身にかけると、戦闘に支障が出るので負荷のかかる部位にだけかけた。かなりアレンジしているし、もはやオリジナルの魔法といってもいいかもしれない。


 自動回復(オートヒーリング)疾風速(ウィンドウォーク)は特に調整しなかったが、実際に使ってみてから強弱とかを考えよう。

 疾風速(ウィンドウォーク)のおかげで移動速度は倍速に近かった、魔力を継続的に消費しないだけでも十分に価値がある。


 魔物たちに出くわした時は、通り抜けざまに首を刎ねるが、ドロップアイテムは大したことないだろうから無視だ。とにかく時間短縮を心がける。時間にして三十分くらいだろうか、一階を難無く通過した。階段を下りるくらいで、関節に感覚が戻ってきた。補助魔法の効果時間はおよそ三十分と言ったところか。


 ……思ったよりも長いな。再び同じ補助を唱えてひたすら下階を目指す、五階まではあっさりと抜けることができた。五階からは魔物の数が増えるので、少し慎重に進もう。


 魔物の数が目に見えて増えている。所々で多数の魔物に囲まれるため中々先に進めない、もう少しお手軽な範囲魔法があればいいのだが。


『……おい、地面が揺れていないか?』


 俺の体も揺れているのか、肩に乗ったヒヨコの言葉で気がついた。本当だ、結構大きい……地震だろうか。

 次の瞬間目の前の壁が透過していくように消えていく……これはまさか!


『大部屋化した! この階層の魔物が一斉に襲いかかってきたらヤバイぞ!』


 階段までの距離は直線にして五百メートル、くらいだろうか。しかし、進行方向には魔物の数が百以上……いつ部屋の収縮が始まるかわからない、しかし動かなければ袋叩きだ。考えているうちに、後ろからも魔物が迫ってきている。


『クロ! 五割ほど魔力を使うぞ!』


 返事を待たずに炎の蛇を呼び出す。


「一直線に焼き払え……名づけて、火炎蛇(フレイムサーペント)


 階段目がけて放つ、圧倒的火力の前に蛇の通り道にいた魔物は次々と飲み込まれ消し炭となった。再び遮られる前に身体強化を併用して駆け抜けるが、両サイドから魔物の波が迫ってきている。


 紙一重で抜けきれると思ったのだが、うっすらと前方の壁が具現化してきていた。収縮がもう始まったのか? いくらなんでも早すぎる。


『リオン! このまま階段をおりたら、あいつらは追いかけてくるのか?』

『わからないが、可能性はある。でも四方を囲まれるよりは六階で処理した方が安全だ!』

『お前もたまには説得力のあることを言うのだな』


 全速力で六階に飛び込む。瞬時に体制を立て直し五分ほど待ったが、降りてくる気配がない。


『降りてこないな』


 もう大部屋が収縮したのだろうか、階段を上がってみる。顔を出した瞬間、大勢の魔物が階段を取り囲んでいた。あわてて顔を引込めるが、やはり降りてくる様子はない。


『……こいつらは所属階層から動けないみたいだな』


 倒せないと判断した時は最悪逃げることができるのか、レッドキャップの大群が来た時も迷宮から逃げればよかったな。

 魔力をどれだけ消費してしまったかわからないし、昼も過ぎているので少し休憩にしよう。階段付近なら魔物も前方からしかこないので対処も簡単だ。弁当を取り出して、クロと半分こにする。


 ……ところでこのヒヨコ、この体のどこに俺と同じだけの食事が入るんだろう。俺の疑問をよそに、くちばしでつつかれた弁当は見る間に減っていく。


『倒せない数ではなかったが、制限時間があると焦るな』

『そうだな、低層階で経験できたのは大きな収穫だった、次はもう少し落ち着いて対処できるだろう』

『それはそうと、七割近く魔力を消費しているから少し抑え目で頼む』


 クロに指摘されて気がつく、結構使ってしまったようだ。

 そこから三十分ほど休憩して魔力も全体の八割くらいまで戻ったようだ、経過時間を逆算すると迷宮内では一時間前後で魔力が全快するようだな。


『お前は並みの魔法使い三人分くらいの魔力容量があるからな。今も使うたびに上限が増えているようだし、回復には時間が少しかかる』

『増えているって割には枯渇が早い気もするが……』

『一律総魔力の五パーセントで使っていれば、魔力容量が増えようが使用回数は同じだからな、慣れてきたならもう少しイメージを深めてもいいと思うぞ』


 なるほど、今のところは剣との併用で消費を抑えられているからこのままでいこう。


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